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2002年11月11日(月) 事件児しんた

東京にいる頃、ぼくはよく事件児と呼ばれていた。
今日、ふとそういうことを思い出した。
別にぼくが事件を起こしていたわけではない。
ぼくの周りで事件が起こるのだ。
事件とは言っても、警察沙汰になるような事件ではなく、笑いのネタになるような事件ばかりだったが。

昼間、バックヤードで仕事をしていると、突然「ガッシャーン!」という音がした。
「何かあったんだろうか?」
しかし、それほど大きな音ではなかったので、ぼくはのんびりと歩いて現場に行ってみた。

現場はぼくの売場だった。
じいさんが床の上に座りこんでいた。
手に商品を持ち、何かを探している様子だった。
「どうしました?」とぼくが近寄っていくと、じいさんは「いや、ちょっと転んでしまって」と言う。
その人の後ろの方に、めがねが落ちていた。
ぼくはそれを拾って、「これお客さんのでしょ?」とめがねを手渡そうとした時、あることに気がついた。
床に血が落ちているのだ。
じいさんが手に持った商品にも血が付いている。
よく見ると、じいさんの頭から血がわき出ている。
4,5センチほど切っているようだ。
「お客さん、大丈夫ですか」
「いや、頭をちょっと打ってねえ」
そう言いながら、じいさんは立ち上がろうとした。
ぼくは慌てて、「じっとしといて下さい」と言った。
そして、他の従業員にティッシュを持ってきてもらい、切ったところを押さえていた。
ぼくが「救急車呼びましょうか?」と言うと、じいさんは「いや、大したことはない。頭の怪我は大げさやけねえ」と、20年前に、ぼくが頭を切った時に吐いたセリフと同じことをこのじいさんは言った。
「いや、結構切ってますよ」
「ほう、そんなに切っとるですか」
じいさんはハゲ頭だから、切ったところがすぐにわかる。
「4,5センチくらい切ってますよ」
「ほう」
「病院行ったほうがいいですよ」
「どこの病院に行きますな。
「どこの病院・・・」
「わたしゃ、隣の区の人間だから、この辺は知りませんばい」
「だから、救急車呼んで、病院に連れて行ってもらいましょうよ」
「だから、どこの病院に?」
「・・・」

ぼくはそこにいた女子従業員に、「おい、この辺に外科はないんか?」と聞いた。
「この辺の外科ぁ?」
「知らんか?」
ぼくも、その女子従業員も、じいさんと同じく違う区に住んでいるため、会社近辺にある病院なんて知らない。
「やっぱり、救急車呼んだほうがいいんやないんね」と女子従業員は言った。
すると、じいさんが「いや、もう大丈夫やけ、帰りますばい」と立ち上がろうとした。
「だめですよ。病院に行ったほうがいいですよ」
「だから、どこの病院に?」

「女子従業員は「とりあえず、店長呼んでくる」と言って、事務所に走って行った。
店長が来るまで、その場はぼくとじいさんの二人だけだった。
別に話すこともないので黙っていると、またじいさんは「帰りますばい」と言う。
「打ったところが打ったところだけに、しばらく動かんほうがいいですよ」
ところがじいさんはよく動く。
おまけによくしゃべる。
「しゃがんでカラオケテープを探していたんやけどなかったですわ。ははは」
「じゃあ、立ち上がった時にこけたんですか?」
「そう、立ち上がった時にフラッとしてねえ。で、後ろに倒れたんよ」
「ああ、立ちくらみしたんですね」
「昨日、老人会で神湊に行ったですたい。飲んでねえ。酒がまだ残っとったですかなあ。ははは」
「じゃあ、帰ろうかな」
「え!? だめですよ。じっとしといて下さい」

店長がやってきた。
「どうしました?」
またじいさんは同じ説明を始めた。
店長がじいさんの頭を見て、「うわー、ひどく切ってますねえ」と言うと、じいさんはまた「頭の怪我は大げさですけねえ」と言った。
「家の人は?」
「ばあさんは黒崎に買い物に行っとります」
「じゃあ、救急車呼びましょうか?」
「どこの病院に行きますな」
「それは、救急車の人が決めるでしょう」
「ああ、そうですか」
「じゃあ、呼びますから」
そう言って、店長は救急車を呼びに行った。

しばらくすると、救急車が到着し、担架が運ばれてきた。
救急隊員は、「お名前は?」など2,3の質問をして、意識の確認をしているようだった。
そして、ぼくがずっと手で押さえていた傷口のティッシュをはずし、ガーゼで傷口を塞いだ。
「じゃあ、担架に乗って、仰向けになって下さい」
じいさんは、一人で担架に乗り、「こうですか?」と言って、うつ伏せになった。
「・・・。逆です」
「ああ、逆ですな。ははは」
担架は運ばれていった。

そのあと、ぼくはその辺に飛び散っていた血を拭いて回った。
そのぞうきんは、先日酔っ払いおいちゃんの小便を拭いたぞうきんである。
「小便のあとは血か」などと独り言を言っているところに、昼出のパートさんがやってきた。
「しんたさん、どうしたんですか? 掃除なんかして」
「いやね、・・・」とぼくは、じいさん事件の話をした。
「ああ、それで救急車が来てたんですね」
「今回は、正月みたいに意識不明じゃなかったけよかったけど」
「それにしても、しんたさんの周りで事件ばかり起きますねえ」
言われてみるとそうである。
正月の事件の時も、まずぼくに情報が入った。
イタチ事件の時も、そうだった。
酔っ払いおいちゃんの騒ぎには、いつも巻き込まれている。
それに今回の事件である。
事件児しんたが復活した。
これからどんな事件が起こるのだろう?
楽しみである。


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