| 2002年11月09日(土) |
おいちゃん、しかぶる |
このところ、毎日のように酔っ払いのおいちゃんが現れる。 今日は昼間から酔っ払って、他のお客さんにからんでいた。 まあ、この間警察に捕まったばかりなので、トラブルを起こすまでは至ってない。 ぼくのいる売場の隣にある、お客さんの休憩所から時折怒号が聞こえてきた。 「コラー、殺すぞ」 しかしいつものようなドスはきいてなかった。 そのうち静かになり、帰ったものとばかり思っていた。 ところが、たまに「コラー、文句あるんか」とか、「せわしいんたい!」などという声がする。 覗いて見ると、おいちゃんは海老のような格好をして寝ている。 休憩所にある団子屋さんに、「また、おいちゃんの怒鳴り声が聞こえたんやけど」と聞いてみると、団子屋さんは「寝言よ、寝言。時々寝たままで何かしゃべりよるんよね」と言った。 「しかし、今日は珍しくおとなしいね」 「うん、そう言われれば、そうやねぇ。来てすぐは、ほかのお客さんに絡みよったけど、いつもの迫力はないねぇ」 「まあ、起きたらまた荒れるやろうけ、何かあったら呼んで」 とぼくは、自分の持ち場に戻った。
それから30分ほどしてだろうか、さっきの団子屋さんが、「しんたさーん」と血相を変えて走ってきた。 「どうしたと?」 「おいちゃんが、おしっこ漏らしとるんよ」 「ええ?! 寝小便したんね」 「うん、床がもうビショビショ」 「わかった、すぐに行く」 ぼくは、バックヤードに行き、ぞうきんとバケツを用意した。
現場に駆けつけてみると、団子屋さんの言うとおり、おいちゃんの寝ているベンチの下は、一面おしっこだらけになっていた。 ズボンの股付近が濡れている。 ぼくが「おいちゃん」と声をかけても、全然起きる気配がない。 しかたなく、ぼくはおいちゃんのおしっこの後始末をした。 そこにいたパートさんが見かねて、「ゴム手袋でもはめて拭いたらいいのに」と言ってくれたが、ぼくは「たかだか、小便やないね。別に毒薬を触るわけじゃないんやけ」と言って、ぞうきんを絞った。
閉店時間になった。 おいちゃんはまだ寝ている。 ズボンはまだ乾いてないようだ。 「おいちゃん。もう時間よー」 起きない。 ぼくは何度かおいちゃんの体を揺さぶっった。 ようやく目を覚ました。 しかし様子が変だ。 普段なら、ここで大声を上げて、「なんか、コラー!」とくるところだが、今日はそれがない。 「おいちゃん、店閉まるよ。早よ帰らな」と声をかけても、ボーっとしている。 おそらく、「ここはどこか?」などと考えているのだろう。 もしかしたら、「私は誰?」と思っているのかもしれない。 顔が腫れている。 声にも力がない。 高校生のアルバイトをつかまえて、「おまえはおれの子供だ」などと訳のわからないことを言っている。
何分か後に、おいちゃんは立ち上がり、ヨタヨタしながら店を出た。 外は寒い。 股の部分は濡れたままだから、応えるだろう。 ぼくたちは、「今からどこに行くんやろうか」「おそらく、警察やろう」「警察が自分の家ぐらい思っとるけね」などと言い合った。
さて、明日は朝一番に、おいちゃんが寝ていたベンチを拭かなければならない。 これが苦痛です。 臭かったからなあ。
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