| 2002年11月02日(土) |
酔っ払いおいちゃん、逮捕される |
夕方だった。 突然、聞き覚えのある怒号が聞こえてきた。 「こら、きさま〜。なめとるんかっ!!」 お客さんの休憩所からだった。 ぼくは走ってその場所まで行った。 案の定だった。 聞き覚えのある声の持ち主は、酔っ払いのおいちゃんだった。 久しぶりの登場である。 おいちゃんは、ベンチで惣菜を食べながら、酒を飲んでいた。 「おいちゃん、何大きな声出しよるんね。他の人が迷惑するやろ」 「あ、大将。すいません。でも、子供が生意気なこと言うもんで」 おいちゃんの視線の先には、4.5歳くらいの小さな子が二人いた。 脇には二人のじいちゃんらしき人が座っていた。 「生意気なことっち、まだ子供やん。いい歳して子供相手にケンカなんかしなさんな」 おいちゃんは、「はい、すいません」と言いながら、また子供に向かって、「こら〜! 前科者をなめるなよ」などと凄みだした。 「前科者やないやろ、小心者やろ。いらんこと言いなさんな」 「はい。もう言いません」 「本当やね。大人しくしときよ」 「はい、すいません」
ぼくの姿が見えなくなるまで、おいちゃんは静かにしていた。 が、ぼくが売場に戻ると、子供の泣き声がしてきた。 それから、今度は違う声が飛んできた。 「こら、きさま。子供を泣かせやがって! 表に出れ!」 「何を〜!」 ぼくはまたおいちゃんのいる場所に走って行った。 おいちゃんに絡んでいたのは、子供のじいちゃんだった。 今度は人が入って止めていた。 じいちゃんには、娘が「お父さん、もういいけ帰ろう」と言っている。 しかし、じいちゃんの怒りは収まらない。 おいちゃんには店長代理が「おいちゃん、人に迷惑かけるなら出て行き」と言っている。 しかし、おいちゃんは言うことを聞かない。 「おれが悪いことしたか!」 ぼくが「人に迷惑かけよるやないね」と言うと、おいちゃんは「子供がこちらを見るけたい!」と言い返す。 「じゃあ、こっち側向いとったらいいやん」、とぼくは子供と逆の方向を指差した。 おいちゃんは黙った。 ぼくは、じいちゃんに「すいません」と謝ったが、じいちゃんはまだ怒りが収まらないのか、おいちゃんを睨みつけながら外に出て行った。
それからしばらくして、またおいちゃんの騒ぐ声が聞こえた。 が、だんだんおいちゃんの声は遠のいていった。 「どうしたんだろう」と思っているところに、店長代理がやってきて、「おいちゃん、逮捕されたよ」と言った。 「逮捕ですか」 「うん、あのじいちゃんが連絡したみたい。よっぽど頭にきたんやろうね」 「かわいい孫を泣かされたからですね」 「ま、これでまたいっとき来んやろ」 「案外、作戦やったかもしれんですね。今日は寒いけ、警察で寝たかったんやないですか」 「ああ、そうかもしれんね」
ところで、酔っ払いのおいちゃんは、いつも地下足袋を履いているのだが、その格好といい、頭の形といい、『あしたのジョー』に出てくる丹下段平に似ている。 これからは、矢吹丈ばりに「おっちゃん」と呼ばなければならない。 しかし、段平おっちゃんはボクシングの優秀なコーチだが、こちらのおっちゃんは何をコーチしてくれるんだろう。 強いてあげれば、酒のコーチか。 「立つんだ、ジョー」ではなく、「飲むんだ、しんた」となるわけか。 しかし、おっちゃんのように酒を飲みながら小便をちびる芸当は、ぼくには到底出来ない。 だめな弟子である。
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