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2002年10月10日(木) 猫 その2

かつて、ぼくの住む団地に花之助という猫がいた。
オスのきじ猫で、えらく人懐っこかった。
ぼくが帰ってくると、どこからともなく鳴き声が聞こえてくる。
お出迎えである。
「ミャー」と声を上げて、ゆっくり近づいてくる。
ぼくの足元まで来ると、突然尻尾を立て、何度もぼくの足に体を擦りつけ、ぐるぐる回っている。
ぼくはしゃがみこんで、花之助の背中をなで、あごの下をくすぐってやった。
花之助は「グルグル」とのどを鳴らしている。
しばらくそうやって遊んだ後で、ぼくは家に向かった。
ところが、ぼくが家に戻ろうとすると、花之助がぼくについてくる。
ぼくが階段を上ると、さっと先回りして、階段の踊り場で待っている。
で、ぼくが方向転換して、階段を下りると、花之助はまた先回りして階段の下で待っている。
何度か鬼ごっこをやった後、花之助のすきを突いて、ぼくはさっと家の中に入った。
花之助はドアの向こうで、しばらく「ミャーミャー」鳴いていた。
きっと寂しかったのだろう。
最近花之助を見かけることがなくなった。
猫修行にでも出かけたのだろうか。
もしくは死んだか。
いつかぼくは花之助に歯磨き粉のにおいを嗅がせてやろうと思っていたので、もし死んだとしたら残念なことである。

花之助もそうだったが、猫というのは寂しがり屋である。
以前、親戚が2日ばかり家を開けるので、仕事が終わってからでいいから、行って猫に餌をあげてほしいと頼まれたことがある。
その猫はぼくには懐いてなかった。
しかし、よほど人恋しかったのだろう。
ぼくが親戚の家に入ると、その猫はぼくに寄り添ってきて甘えだした。
今まで見せたことのない行為だった。
餌を食べた後も、ぼくのそばから離れようとはしなかった。
ぼくが帰ろうとすると、「ミャーミャー」鳴き、ぼくの前に立ちはだかった。
きっと、ぼくを行かせまいとしていたのだろう。
しかたないので、翌日は、朝までいっしょにいてやることにした。
その間、猫はぼくのそばから離れなかった。
しかし、親戚の人が帰ってくると、もはやぼくは用なしである。
ぼくを見るとコソコソと逃げて行った。

猫はマッサージが好きである。
何年か前、太宰府の都府楼跡に行った時に一匹の猫と出会った。
ぼくを見ると近づいてきたのだ。
いつものように、ぼくは猫をなでてやった。
普通はこれで終わりなのだが、その時はどういうわけか、猫にマッサージをしてやりたくなった。
猫の肩をもむわけはいかないので、頭をマッサージすることにした。
しばらく頭を揉んでいると、猫は恍惚状態になった。
おそらく頭が凝っていたのだろう。
実に気持ちよさそうな顔をしている。
しかし、猫は頭が凝るようなことがあるのだろうか。
どう見ても、頭を使っているようには見えない。

ところで、猫に関していつも疑問に思っていることがある。
それは花之助のところで書いた、尻尾を立て足に体を擦りつける仕草である。
猫はよくそういう仕草をするが、あれはいったい何を意味しているんだろう。
トムとジェリーで、トムが飼い主の奥さんの足に擦り寄っていたことがある。
犬のスパイクとトムのどちらかを追い出そうという話が出た時、追い出されまいとしたトムが必死に飼い主の機嫌を取っていた。
その場面ではあの仕草は、甘えているのであり、「これだけ、あなたのことをお慕い申し上げております」という愛情表現だった。
しかし、あれは本当に甘える仕草なのだろうか?
愛情表現なのだろうか?
もしかしたら、友好のしるしなのかもしれない。
「君とぼくは、今日から友だちだ。仲良くしようぜ、兄弟」と言っているのかも知れない。
さらに、自分がボスだと認めさせる行為かもしれない。
「おれのにおいをつけてやったから、今日からお前はおれの子分だ。困ったことがあったらいつでも言ってこい」
動物の社会は、力関係で成り立っているから、案外こういうことなのかもしれない。

まあ、猫にしかわからない世界ではあるが、そのへんを知りたいと思っている。


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