頑張る40代!plus

2002年10月01日(火) 退職前夜 その5

朝礼が終わってから、店長がぼくのところにやってきた。
「こら、お前よくもロスを出してくれたのう」
「すいません」
ぼくは悪びれずに言った。
「謝ってすむ問題か!もう一度棚卸しろ!」
「無駄です」
「あー?」
「無駄です」
「何が無駄か!」
「原因はわかってますから」
「原因がわかっとる? わかっとるなら、どうして防ぐことをせんか!」
「こちらがいくら防いでも、本社のほうで何もやってくれません」
「ふざけるな、やり直しだ!」
ぼくはこの言葉にカチンときた。
店長就任以来、ぼくはとうとう口を開いた。
「何が『ふざけるな』ですか!」
ぼくは店長の目を睨みつけ、一歩前に出た。
店長は後ずさりした。
「何が『やり直し』ですか!」
「・・・」
「何度も何度も、こちらはその件で本社に掛け合ってるんです。それなのに何もしてないようなことを言われたら、誰でも頭にくるでしょうが」
「・・・」
「そっちこそふざけんで下さい!」
「・・・」
「何がやり直しですか!みんな夜遅いから疲れているんです。あんたはそんなこともわからんとですか!」
「・・・」
「後日、その旨の報告書を作って提出しますから、やり直しは辞めて下さい!」
「・・・」
気がつくと、ぼくは店長を壁際まで追い詰めていた。
ぼくがしゃべっている間、店長は一言も口を挟めなかった。
攻撃型の人間は、守勢に回ると脆いものである。
「もう、いい」
そう言って店長は、逃げるようにして戻っていった。

ぼくは報告書作りのために、資料の置いてある事務所に行った。
そこに店長がいた。
ぼくは無視していた。
すると店長はぼくのそばに来て、小声で「しんた君」と言った。
いつもの威勢のいい『おい、しんたぁ!』ではなかった。
先ほどの件がだいぶ堪えたのだろう。
何を言い出すかと思えば、「頼むから、もう一度棚卸をやってくれ」だった。
「何度も言うようですが、無駄なことはやめましょうよ」
「いや、そうしないと、示しがつかんし・・・」
「やるなら勝手にやって下さい。でも、解決にはなりませんからね」
「わかった」
そこには本来の強気なしんたがいた。
おそらく店長は、本来のぼくを見るのは初めてだっただろう。

しかし、ぼくが店長に本来の顔を見せたのは、これが最初で最後だった。
いや、もう一回あった。
「有給休暇の消化をさせてくれ」と言いに行った時だ。
店長は「勝手に会社を辞める奴に、どうして休みをやらんといけんのか!」と言った。
またもやぼくはカチンときた。
「前に辞めた奴が出来たのに、どうして自分だけだめなんですか!?」
店長は「またか」というような顔をした。
そして、急にアホなことを言い出した。
「お前は今、権利を主張したな。じゃあ、義務を果たせ」
「権利?何が権利ですか。いつ権利を主張しましたか?有休消化は就業規則でしょうが」
店長はまたもや話を変えた。
「お前、前に棚卸の資料を提出すると言ったろうが。おれはまだもらってないぞ」
「そんなことが義務ですか?わかりました。それでは義務を果たしましょう。でも、有休はしっかりもらいますから。いいですね」
「・・おう」
店長は憮然とした顔をしていた。

その後、朝礼や会議の場で、店長は相変わらずぼくを罵倒したが、ぼくは『馬鹿が何か言いよるわい』と気にしなかった。
衆目の前で強がる。
これぞ弱い男の典型である。


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