頑張る40代!plus

2002年09月30日(月) 退職前夜 その4

会社に、みんなから「バカチョー」とあだ名されている課長がいた。
やたら部下を怒鳴り散らしている人間だった。
彼は店長の腰ぎんちゃくだった。
自分の考えは何一つ持たず、すべて店長の言うがままだった。
そういう男だから、当然ぼくに対しても風当たりが強かった。

翌9月28日、いつもと同じように、ぼくは開店前の掃除をしていた。
すると、「おーい、しんたぁ」という大きな声がした。
バカチョーである。
「こら、お前、何で商品をこんなに乱雑に置いとるんか!」
隣の売場である。
いちおうぼくが管轄していたのだが、その売場の責任者は他にいるのだ。
「そっちはいいから、こっちをやれ!」と、バカチョーはえらそうに言った。
普段、こういう時は「また始まった」と知らん顔をしているのだが、その時ばかりは対応を変えた。
「ああ、わかりましたっ!」と、バカチョーに負けないくらいの大声で返した。
そして、「そんなに頭ごなしに怒鳴らんで下さい」と言った。
バカチョーはムッとした顔をして、「何をー」と言った。
「それよりも、早くおれの後継者を決めたほうがいいんじゃないですか」
「えっ?」
「おれ辞めますから」
「は?」
「辞めると言ってるんです」
「おれに言うな。おれは知らんぞ。そんなことは店長に言え」
「『おれは知らん』じゃないでしょう。課長が直接の上司なんですから、ちゃんと店長に伝えて下さい」
「知らん」
そう言って、バカチョーはその場から逃げて行った。

その日一日、バカチョーはぼくを避けていた。
翌日、ぼくはバカチョーを捕まえて、「昨日の件、店長に言うてくれたでしょうね?」と聞いてみた。
「いや、まだ言ってない」
「ちゃんと言うて下さい!」
バカチョーは怯えているようだった。
「部下に辞められるということは、管理能力が欠けている証拠だ」と店長に受け止められる、とでも思っていたのだろう。
しかし、ぼくは妥協しない。
バカチョーと顔を合わすたびに、「言ってくれましたか?」と聞いた。
バカチョーもついに観念して、「棚卸が終わってから、言うとくわい」と言った。

翌30日は棚卸だった。
棚卸は、いつも営業時間が終わってからやっていた。
ぼくの部門はCDなど細かい商品を扱っていたため、けっこう時間がかかった。
その日棚卸が終わったのは、午前0時を過ぎていた。
帰る時、ぼくはバカチョーに声をかけた。
「課長、言ってくれたでしょうね」
「今日は遅いけ、明日言う」
「じゃあ、明日必ずお願いしますよ」
そう言って、ぼくは帰った。

翌日、ぼくは店長に呼ばれた。
バカチョーもいっしょだった。
「課長から聞いたんやけど、お前辞めると言ったらしいなあ」
「はい、言いました」
「いつまで、ここにくるつもりか?」
「今月いっぱいです」
「・・・」
「辞表はあとで提出しますから」
「・・・」
店長はそのあと、一言も口を利かなかった。
その後、会議の席上などでは相変わらずぼくを罵倒していたが、マンツーマンでは話を一切しなかった。
このまま辞めるまで、店長と話さないでくれたら楽なのにと、ぼく思っていた。

ところが、思わぬところから、店長とマンツーマンで話さざるをえない状況がやってきた。
棚卸の結果が出て、ぼくの部門が多額の商品ロスを出してしまったのだ。
その部門はオープン当初から、いつも多額の棚卸ロスを出していた。
CDという商品の性格上、盗難にあうんだろう、と誰もが思っていた。
しかし、ぼくが調べた結果、原因は盗難にあるのではないことがわかった。
その原因とは、本社の仕入れ管理のずさんさだった。
実際の仕入額と、電算上の仕入額がいつも違っていたのだ。
その差額は、毎月何十万円にもなった。
棚卸は半年に一度だから、いつも多額のロスが出てしまう。
本社に何度か「おかしいから調べてくれ」と掛け合ったのだが、「電算が正しい」というようなことを言われ、全然相手にしてくれなかった。
今回の棚卸ロスにも、そういう背景があったのだ。


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