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2002年09月28日(土) 退職前夜 その2

もう少し、店長の話を書いておく。
元々、ぼくと店長は折り合いが悪かった。
話はその半年前、平成3年の3月にさかのぼる。
それまでいた店長が本社取締役に復帰することになり、新任の店長が来ることになった。
3月末、旧店長最後の日に歓送迎会が行われることになり、ぼくが幹事をすることになった。
一次会も終わりに近づき、いよいよ幹事最後の仕事となった。
それは二次会の参加を促すことだった。
「これで一次会を終了します。続いて二次会を、○○町の××で行いますので、皆さん奮って参加して下さい」とぼくは言った。
これで幹事の仕事が終わり、ぼくは二次会会場へと向かった。

ところが、である。
二次会の会場には、肝心の新店長の姿がなかった。
一次会の時新店長の周りにいた、下請けの社長連も来ていない。
ぼくは言い忘れたかと思い、そこにいた人間に確認した。
「おれ、ちゃんと場所言うたやろ?」
「ああ、言うたよ」
「何で店長来てないんかのう」
「さあ?でも、今までの店長とは仲が悪いらしいけ、気にせんでいいんやない」
その言葉に安心した。
そういうことなら、別にこちらが気を回す必要もない。
あちらはあちらで適当にやっているんだろうと思い、ぼくは酒を飲み始めた。

それから一時間ほど経った頃に、二次会会場に電話が入った。
「おい、しんた。電話ぞ」
「あ?」
「幹事を呼べ、と言いよる」
誰だろうと電話に出てみると、新任の店長だった。
「おまえが幹事か?」
「はい」
「名前は?」
「しんたといいますけど」
「おう、しんたか。お前よくもおれの顔に泥を塗るようなまねをしてくれたなあ」
「は?」
「どうして二次会の場所を教えんか」
「ちゃんと言いましたけど」
「何、言っただとぉ。おれは聞いてないぞ」
ぼくはわけがわからないまま、とりあえず「すいません」と謝ってから、二次会の場所を教えた。
しかし、腑に落ちない。
二次会の場所を知らない人間が、どうして二次会の場所に電話をかけてくるんだろう。
新店長は「今からそちらに行くから待っとけ」と言って、電話を切った。

しばらくしてから、店長一派はやってきた。
新店長は店に着くなり、大きな声で「誰がしんたか?」と聞いた。
ぼくは手を上げ、「はい、自分です」と言った。
「おまえがしんたか」
新店長はそう言ってぼくの席にやってきた。
そしてぼくの頭を2,3発叩いた。
「おまえのおかげで、どんなに恥ずかしい思いをしたと思っとるんか!お前は、おれと○さん(旧店長)の仲を知らんのか!?」
「はあ・・・」
「○さんはおれの恩人なんぞ。恩人の送別会におれが出らんかったら、世間の笑いものになるやないか!」
「すいません」
「覚えとけ。これからずっとお前には仕打ちをしてやる」
まるでヤクザである。
ぼくはもう一度「すいません」と言うと、新店長は「いいか、忘れるなよ」と言って、自分の席に戻った。

二次会は他の店の店長たちも来ていたのだが、みなぼくに同情して「しんちゃん、気持ちはわかるけど、ここは馬鹿になっとき。あとの相手はこちらでするけ」と言ってくれた。
旧店長も「あんまりしんたを責めんでくれ」と言っていた。
その後会は盛り上がったが、ぼく一人面白くなかった。

会も終わりに近づいた頃、新店長と行動をともにしていた一人の下請けの社長がぼくのところにやってきた。
そして、「しんた君、実は二次会の場所、新店長は知っとったんよ」と言った。
「やっぱり」
「まあ、あの人はあの人の考えがあってしたことなんやけ、今日のことは忘れたほうがいいよ。本人もああ言いながらも、大して気にしてないと思うよ。後はおれたちが悪いようにはせんけ」
そう言ってくれたが、ぼくの気持ちは晴れなかった。
だいたい人の頭を叩くというのは何事だ。
あの本能寺の変も、信長が光秀を衆目の中で罵倒し、頭を鉄扇で叩いたことから始まったと言われている。
それほど頭を叩かれるというのは、屈辱的なことだ。
ぼくは怒りとともに、この先こんな奴といっしょにやっていくのかと思うと、目の前が真っ暗になった。

下請けの社長の言葉とは裏腹に、その後も新店長はことあるごとにぼくを罵倒した。
例の件があるし、ぼくは風貌がボーっとしているように見えるので、それも気に入らない要因になっていたのだろう。
頭を叩かれることもあった。
ある時、ぼくが商品の清掃をしている時、突然店長が目の前に現れ、「何をボーっとしとるか!?」と言った。
そして、頭を一発叩いた。
ぼくは「この野郎」と思い、店長を睨みつけた。
しかし、口を開くことはせず、じっと耐えていた。

ぼくと店長の間には、以上のようないきさつがあった。
しかし、ぼくも黙ってばかりはいなかった。
その後、反撃に出るのだ。
そのせいで店長はサラリーマンとしての致命傷を負うことになる。


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