ぼくの身長は177.8cmである。 10年前に測ったものだから、もしかしたら今はもう少し低いかもしれない。 この身長は世間一般から見れば高いのだという。 なるほど、職場では若いアルバイトも含めて、ぼくが一番背が高いようだ。 しかし、自分では決して高い身長だとは思ってはいない。 まあ、物理的にまだ高い人がいるからというのもあるが、ぼくはこれを小学校以来のイメージが残っているからだと思っている。 ぼくは小学校の頃から、背はだいたい真ん中より少し後ろ位だった。 これは中学校に行っても変わらなかった。 おそらく高校1年の頃まではそうだったと思う。 高校2年の頃は、体育や集会の時、背の順とは言いながらも適当に並んでいたので、身長ことを考えたことはなかった。
初めて背が高いと思ったのは、高校3年になった時だ。 全校集会の時だったか、先生が「ちゃんと背の順に並べ」と言った。 その時ぼくは自分の持っているイメージ通り、真ん中から少しうしろのほうに並んだ。 するとその後ろのやつが、「しんた、お前もっとうしろやろ」と言った。 ぼくは「そんなことはないやろう」と言って、そいつと背を比べてみると、なるほどそいつより高い。 それから、背を比べながら後ろに下がっていくと、なんとうしろから2番目まで来てしまった。 「おれ、こんなに高かったかのう」と狐につままれた気持ちになったものである。
しかしながら、自分の持っているイメージというのは、そうそう変わるものではない。 いくら背が高いと言われても、実際にその数字を示されても、相変わらずぼくの身長は、「真ん中から少しうしろ」なのである。 おそらくそのイメージというのは、一生変わらないだろう。
15年ほど前に、自分の持っているイメージを変えようと試みたことがある。 アメリカの自己啓発の本に、「私は小さい頃、痩せっぽちだった。そういう自分が嫌いだった。どうにかして『太っちょ』と呼ばれたいと思っていた。そして、自分が『太っちょ』である、というイメージを抱くことにした。何年か後、人から『太っちょ』と呼ばれるようになった(訳者はもっと気の利いた言葉を使えなかったのだろうか。『太っちょ』などという言葉はふつう使わんだろう)」と書いてあった。 これを読んで、ぼくは「ふーん、イメージで体格が変えられるなら、一度試してみようか」と思い、やってみることにした。 しかし、イメージを持つというのは大変なことである。 まず、自分がどうありたいのか、というのを決めなければならない。 その上で、そうなった自分を想像しなければならない。 どういう自分になろうか、といろいろと考えてみた。 その結果、自分を大きく見せようと思うに至った。 身長はもういいからと、全体に厚みのある自分をイメージしてみることにした。 1ヶ月位やったろうか、そのうち、そういうイメージを持つことが面倒になってしまい、やめてしまった。
ところがである。 それから5年ほど経って、その効果が出てきたのである。 ぼくの体は、徐々に厚みを増していった。 痩せ気味だった体重も増えてきた。 それを自覚した時、「やはりイメージを持つということは大切なんだ」と、ぼくは思ったものだった。 ただ惜しいことに、お腹の周辺に厚みが集まった後、次第にその効果が薄れてきた。 ということで、今はお腹だけが極端に厚みのある、変な体型になってしまっている。 これも、1ヶ月しかイメージを持たなかったせいだろう。 残念である。
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