頑張る40代!plus

2002年09月23日(月) 秋の夜長に

6,7年前、昼食は、会社を抜け出し、車に乗って繁華街まで食べに行っていた。
そこには安くて、ボリュームがあって、味もそこそこの店があった。
だいたいその店では日替り定食を注文していたのだが、たまに他の物を注文することがあった。
チャンポンもその一つだ。
その食堂には友人と行っていたのだが、その日たまたま二人ともチャンポンが食べたかったのだ。
「すいません、チャンポン二つくださーい」
「はーい、チャンポン2丁」
しばらくしてチャンポンが二つ運ばれてきた。
その店はチャンポンもおいしかった。
しかも、当時まだ大食だったぼくたちには充分の量があった。

チャンポンが残り3分の1ほどになった時、突然友人が「あっ!」と言った。
どうしたのかと見てみると、どんぶりの中に5センチほどのこげ茶の物体が浮かんでいる。
よく見ると、その物体には足があった。
ゴキブリである。
友人は「どうしようか?」とぼくに言った。
「店の人呼び」とぼくは言った。
「すいませーん」
「はーい、何か?」
「あのう、ゴキブリが入ってるんですけど」と小声で言った。
「えっ!?」
「ほら」
そう言って友人は、どんぶりの中を見せた。
「あらー、ほんと。ごめんなさいね。すぐに作り変えますから」
店のおばちゃんは、素早くそのどんぶりを下げた。
それからしばらくして、新しいチャンポンが運ばれてきた。
お詫びにというので、スイカまでついていた。
「そちらの方もどうぞ」
そう言っておばちゃんは、ぼくの前にもスイカを置いた。
友人は「もう入らんわい」と言いながらも、新たなチャンポンとスイカを全部平らげた。

その時ぼくは、あることを考えていた。
それは、「この事件の一番の被害者は誰だ?」ということだった。
チャンポン二つ同時に頼んだわけだから、当然同じ鍋でチャンポンを作ったことになる。
たまたまゴキブリ本体は友人のどんぶりに入ったのだが、ゴキブリの浸かったスープ、つまりゴキブリのエキスは、当然ぼくのチャンポンにも入っていたということだ。
それなのにおばちゃんは、友人ばかりに謝り、スイカもぼくのほうが小さかった。
この差は何だ!
ぼくは友人がゴキブリを発見したあと、チャンポンには一切箸をつけなかった。
友人より小さなスイカを食べたっきりだった。
店を出てからも友人は「腹いっぱいで苦しい」と言っていたが、逆にぼくは腹が減ってたまらなかった。
店に戻り、結局パンを買って食べた。

さて、この場合、被害者は誰なんだろう?
ゴキブリ入りのチャンポンを食べた友人か?
同じゴキブリ入りスープのチャンポンを食べ、不当に扱われたぼくか?
ゴキブリのためにチャンポンを一杯損した店の人か?
それとも、ゆでられたゴキブリか?
秋の夜長に、ぼくはそんなことを考えている。


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