2002年09月11日(水) |
ドキュメント9.11 |
午後2時頃。 テレビは昨年の同時多発テロの画を流していた。 「ふーん、あれから1年か。今日は久しぶりに戦争ネタを書こうかな」と、ぼくはのんきなことを考えていた。 その時だった。 背後から「ド・ド・ド」という音が聴こえた。 「何だろう?」と振り返ってみると、「!」 そこにあるはずの空間を、見たことのない巨大な灰色の壁が覆っているではないか。 「な、何だ、これ!?」 よく見てみると、その灰色の壁はさらに下に向かって降りている。 「シャッターだ!」
とりあえず、ぼくは現場まで走っていった。 現場では従業員やお客さんが、唖然としてこの光景を見つめている。 シャッターは一列に4枚並んでいる。 1枚の幅は約10メートル。 売場部分は下まで降りてしまっていたが、幸い通路は床から1メートル2,30センチ位上のところで止まっていたため、通路を歩いていた人に怪我はいなかった。 どうも防火シャッターらしい。 ぼくたち男子従業員は、「とにかくシャッターを上に上げないと」とシャッターのスイッチを探し回った。 が、見つからない。 そうこうしていると、「しんたさーん」と隣の店の従業員がやってきた。 「うちの事務所の警報器が鳴りっぱなしなんです。 よく見ると、ここが火災発生ということになっているんです」 「え?!」 ぼくは慌てて隣の店に行った。 事務所に行ってみると、言ったとおり「ピー、ピー、ピー・・・」と警報器が鳴っている。 警報器の「防炎警報」のところにランプがついている。 なるほど、出火現場はうちの店になっている。 先ほどの従業員が「火事ですか?」と聞いた。 ぼくは「いや、煙も出てないし、火も出てないけど」と言った。 「この音、どうやって止めたらいいんですか」 「あんたたちが知らんのに、おれが知るわけないやないね」 ぼくはそう言い、警報器を調べた。 いろいろなスイッチがあるのでわかりづらい。 ふたを開けてみると、そこに「警報音停止」というスイッチがあった。 ぼくは「これかな」と思いながら、そのスイッチを押してみた。 音が止まった。
店に帰ってみると、相変わらずシャッターが降りたままになっている。 店長がいたので「わかりましたか?」と聞いてみた。 店長は「ここにはシャッターのスイッチはないらしい。今から設備の人間が来るらしいけ、しばらくこのままにしとこう」と言った。 その間、ぼくはすることもなかったので、レジの女の子たちの前で、途中で止まっているシャッターの下に人差し指をあて、「支えてますから、早くお通り下さい」などと言ってギャグをかましていた。
しばらくして、設備の人たちがやってきた。 彼はシャッターを見るなり、「ああ、これ全部巻き上げんないかんなあ」と言った。 詳しく聞いてみると、うちの店の防火シャッターは、降りるのは自動だが、上げるのは手動でやらなければならないということだった。 設備の人は、天井を開け、そこから鎖をおろした。 そして、ぼくたちに「これを引いてください」と言った。 鎖を引くと、その分シャッターが上がると言うのだ。 簡単に言えば、滑車にベルトを付け、回すようなものである。 そんなに力はいらなかったが、けっこう重労働だった。 鎖を10度引っ張っても、2センチほどしか上がらない。 天井の高さは5メートル近くあるのだ。 やっているうちにかなり息が上がってきた。 黙ってやっていると疲れるので、「ダイエットに最適な運動ですよ。誰かやってみませんか?」「二の腕の贅肉はこの運動が一番」などと、大声で言いながらやった。 1枚のシャッターを上げるのに15分ほどかかった。 しばらく休憩していると、「あと一枚あるぞ」という声がした。 そこにいた中では、ぼくが一番若かったので、しかたなく2枚目もやった。 食事前で空腹だったため、この運動で気分が悪くなってしまった。
さて、この事件の原因だが、結局わからずじまいだった。 センサーに何かが引っかかったのは確かだが、それは煙やガスの類のものではなかった。 そうでないとするなら、センサーに虫かなんかが触れたのではないか、ということだった。 もし、その原因が虫にあるとしたら、その虫はシャッター・テロを敢行したことになる。 虫の世界では英雄ということになるだろう。
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