日に何枚かずつCDをパソコンにコピーしている。 一枚あたり10分かからないのだから、速いものだ。 5年ほど前、CDをMDにダビングする時には、収録時間通りの時間がかかっていた。 それでもカセット時代に比べると、時間の計算をしなくていい分、楽になったと思ったものだった。 それ以前、レコードからCDに変わった頃は、針を落とす音やレコードの傷を気にしなくてもすむから、楽になったと思っていた。 もっと以前、ラジカセしか持っていなかった時代は大変だった。 録音するには内臓マイクを利用しなければならなかったため、録音中は物音を立てられなかった。 録音中にバイクの音などがすると、また最初からやり直さなければならなかった。 2枚組みのレコードは90分テープに録音していたのだが、一度、最後の曲のエンディングに差し掛かった時に、友人がバイクに乗って遊びに来たことがあるが、この時ばかりは泣きそうになった。 B面は最初からやり直しであった。 昔は、録音一つとっても、大変苦労していたものだった。
そういう時代を経てきた者としては、今の時代は本当に便利だと思う。 例えばMP3に変換してパソコンにストックしていた音楽を、好きな曲ばかり選んで、1枚のCD-Rに焼きつけるとする。 所要時間は20分もかからないのだ。 その間、いろんなサイトを見ていても、他の音楽を聴いていても、日記を書いていても、大丈夫なのである。 ちょっと前までは、CDを作ることさえも不可能だったということを考えると、これは凄い進歩だ。 これを当たり前と思っている今の若い人たちが、更なる便利を求めたとしたら、いったいどういうふうに時代は進んで行くのだろう。 それを考えるとワクワクしてくる。
何かの本で読んだのだが、現在日本のロボット産業が世界をリードしている要因は、日本人の器用さとか勤勉さというものあるが、何よりも「鉄腕アトム」のおかげによることが大きいということだった。 なるほど、そのとおりかもしれない。 ああいう、目標というか、指標というものがあったからこそ、この業界は道を外れずに進んでこれたのだろう。 それはちょうど自転車の運転に似ている。 例えば、自転車で道路の白線の上を走ったとする。 目先の白線に気をとられると、フラフラして、なかなかまっすぐに進めないものである。 ところが、目先の白線を気にせず、ずっと遠くの白線に目を置くと、白線にそれずまっすぐに走れるのだ。 ロボット産業も、おそらくこの理屈で進んできたものと思われる。 ずっと遠くの白線、それが「鉄腕アトム」である。
さて、では先ほどのオーディオの世界はどうだろう。 はっきりした指標はあるのだろうか? 残念ながら、今のところそれはない。 音の追求はあるものの、その媒体にこれと言った指標が見出せないのだ。 20年ほど前に、博多であったソニーの新製品発表会に行った時、進行役の人が一枚の銀色のディスクを見せ、「みなさん、これは何だと思いますか?」と言った。 「これは新しいレコードです。あの30センチのレコードが、この12センチのディスクに収まるのです。・・・。これは針で音を拾うものではありません。光で読み取るのです。そういう時代がすぐそこまでやってきています」 ぼくはこれを聴いて、「すごい時代が来るのう。光で音を読み取るんなら、埃がついても音は飛ばんですむバイ」と思ったものだった。 それからまもなくして、その時代はやってきた。 その技術はまずLDとなり、現在はDVDとなっている。 同じ技術の延長だから、もちろん互換性もある。 おそらく、CDの技術を開発していた頃には、すでに映像まで目が行っていたのだろう。
では、次はどういう時代が来るのか? いまだにぼくは、それを読めないでいる。 今の若い技術者に、何か指標があるのだろうか? 聴覚、視覚はとりあえず終わった。 残っているのは嗅覚、味覚、触覚であるが、そういうものをCDの延長に見据えているのだろうか? となれば、ちょっと嫌である。 例えば、においなら「Smell Disk(SD)」になる。 「しろげしんたのNEW SD『足の爪』ON Sale!」とか嫌でしょ? まさかそこを見据えてはないと思う。 やはり若い人ならゲーム絡みか。 もしそうなら、オーディオ世代ぼくとしては、ちょっと寂しい気がする。
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