気持ちが落ち着かない。 焦点が定まらない。 思考がおかしくなっている。 おそらく、今日ぼくは狂っているのだろう。
午前中のこと、一人のお客さんから電話があった。 ある処分商品についての質問だった。 あれこれ説明すると、「それがほしいんだけど、着払いで送ってもらえませんか?」と言う。 「よろしいですよ。場所は?」と聞くと、その人はかなり遠くに住んでいた。 「ああ、市外ですね。送料がかかりますけど、よろしいですか?」 「あのう、ぼくお金が○○円しか持ってないんだけど、まけてもらえませんか?」 「すいませんが、この商品はすでに安くなっているので、これ以上まけられないんですけど」 「そうですか」 そう言って、そのお客さんは電話を切った。 それから30分後、またそのお客さんから電話があった。 内容は同じだった。 結局まけることが出来ないので、前と同じようにお断りした。 すると、30分ほどしてまた電話が入った。 内容は、またしても同じだった。 同じように応対して、ぼくは電話を切った。
ようやく相手も懲りたのか、しばらく電話はかからなかった。 しかし、1時間後に、また電話が入った。 「あのう、父がそこの近くに住んでいるんですが、そこで全額払いますから、そこに送ってもらえますか?」 「それはいいですよ」 「じゃあ、お願いします。住所は・・・」 なるほど父親はすぐ近くに住んでいた。 明日の午前中に持って行くということで話は着いた。 ぼくは配達業者の人に連絡を取り、承諾を得たので配達の準備をした。
30分後、またしても同じ人から電話がかかった。 「すいません、先ほどのものですけど」 「どうしました?」 「あのう、先ほどの件ですけど」 「はい」 「集金を父親のところでして、それからこちらに持ってきてもらうというのは出来ますか?」 「別にかまいませんが、先ほども言ったように、市外になりますから送料が別にかかりますよ。それはいいんですか?」 「お父さんに聞いてみないとわからないけど・・・」 「じゃあ、お父さんに聞いてから、電話もらえますか」 「わかりました」
それから、またしばらく電話がなかったので、ぼくは食事に行った。 すると、ぼくの食事中に電話が入った。 ぼくが電話のある場所にいなかったため、その電話はパートさんが受けた。 電話の主は、先ほどのお客さんの父親からだった。 父親は怒った声で「息子は入院してるんだから、勝手に物を売らんでほしい」と言った。 息子が入院していることなど、こちらは何も知らないのだ。 普通のお客さんと思い、こちらも対応している。 こちらに文句を言ってくるなど筋違いである。 「じゃあ、キャンセルということでいいですね」とパートさんは言った。
嫌な思いはしたものの一件落着である。 これでもう電話はかからないだろうと思っているところに、また息子のほうから電話が入った。 今度はぼくが受けた。 ぼくが「先ほどお父さんから、かなり叱られたんですけど」と言うと、息子はえらく恐縮していたようだった。 「わかりました」 ということで、この件は終わった。 しかし、30分後、またこの人から別の件で電話を受けることになる。 今日一日、この人絡みの電話が10件以上、それ以外の電話はたった3件だった。 ところで、このお客さんがどこに入院していたかと言うと、案の定、精神科の病院だった。 ぼくはずっと精神障害の人と話していたのだ。 それを知ったとたん、ぼくは自分がまともじゃないような気がしてきた。
気持ちが落ち着かない。 焦点が定まらない。 思考がおかしくなっている。 おそらく、今日ぼくは狂っているのだろう。
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