頑張る40代!plus

2002年08月20日(火) 万引き その3

ぼくはレジの隅にいた。
いつものように、夫は酔っ払っていた。
ぼくがいたのに気づかなかったのか、「お、誰もおらん」と言った。
そして、夫はCDの前にかがみこむと、おもむろにCDをわしづかみにし、それを懐の中に入れた。
もう一度同じ動作を繰り返した後、立ち上がり、「は、は、は、・・・」と大声で笑いながら店を出て行った。
刑事はその後を追いかけて行った。

数分後、中年の刑事がぼくのところにやってきた。
「無事逮捕しました」と刑事は言った。
「ありがとうございました」
「ところで、事情聴取をしたいので、今からいっしょに来てくれませんか」
「パトカーに乗ってですか?」
「そういうことになりますなあ」
「今、人がいないので、後からではいけませんか」
「今のほうが都合がいいんだけど。・・じゃあ、1時間以内に来て下さい」
ということで、30分後、ぼくは本署に行った。

本署に着くと、ぼくは防犯課に案内された。
課内にはたくさんの刑事がいた。
「○○さん、防弾チョッキ余ってなかったですか」などと言い合っている。
テレビでしか見たことのない光景がここにあった。
ぼくがイスに座って待っていると、ぼくの前を例の万引き夫婦の夫のほうが連れられて行った。
取調室から声が聞こえてくる。
「Nよ、今度は逃れられんぞ。2,3年は臭い飯を食ってもらわんとのう」
「・・・」
「今日の朝からの行動を言うてみい」
「・・・」
夫の声は小さく、よく聞き取れない。
「『行くぞ』と言うて、家を出たんか」
「・・・」
「それが『万引きしに行く』の合言葉か」
「・・・」
ぼくは笑いそうになった。
いくらなんでも、『行くぞ』が『万引きしに行く』の合言葉だとは思えない。
「これはただ単に『行くぞ』だったに違いない」と思っているところに、「しんたさん」の呼び出しがあった。

しかし、いつ来ても、警察の事情聴取というのは面倒臭い。
結局、夫はCDを14枚盗っていたのだが、そのアルバムのタイトルとアーティストを全部言わなければならない。
そして、自分の立っていた位置や、相手が盗った時の状況を説明しなければならない。
1時間近くかかって出来上がった調書は、充分に笑えるものだった。
ところどころに「刑事さん」という言葉が出てくる。
結局出来上がったものは、
「スーパー○○、××店の電気売場は、再三彼らに被害にあっていた。
そこの担当であるところの、私しろげしんたは『刑事さん』に相談した。
その翌日、開店と同時に彼らが来たので、さっそく『刑事さん』に連絡した。
『刑事さん』はすぐにやってきてくれた。
・・・
再び犯人たちがやってきた。
私しろげしんたは、レジの隅にいたが、犯人たちは私のことに気づかなかったようだ。
私の後ろには『刑事さん』が3人いて、犯人を見張っていてくれた。、
犯人たちは、コンパクトディスクを懐に入れ逃げて行った。
『刑事さん』は、すぐさま犯人たちを追いかけて行った。
そして3分後、刑事さんは、犯人たちを逮捕してくれた。

被害にあったのはコンパクトディスクで、内訳は・・・(14枚のアルバムタイトルとアーティスト名)である。
・・・・・
 右、相違ありません。
             しろげしんた 押印」
おおむねこんなところだった。
こちらが刑事の質問に対して答えていき、文章を書くのはその『刑事さん』だった。
できばえは、小学生の作文並みである。
それにしても、この『刑事さん』たちは大活躍である。
ぼくの扱いは、あくまでも一市民にすぎない。
これがドラマなら、ぼくは「その他の出演者」のところに名を連ねるだろう。

万引きを捕まえるのはいいけど、その後の事情聴取が疲れるんですよ。
商品がわかりやすいものならいいけど、その商品の周辺機器ともなると大変である。
まず、この商品がどんなもので、どういう時に使うのかを詳しく説明しなくてはならない。
楽器を売っていた頃、シンセサイザーの周辺機器シーケンサーを盗られたことがあるのだが、説明に小一時間を要したことがある。
結局いくら説明してもわからなかったようだった。
調書には「幅30センチ、縦25センチの楽器の録音機」と書いてあった。

とにかく、「たかが万引き」のために、店の人間はこれだけ苦労するのだ。
物を取られるのも、人を捕まえるのも、あまり気分のいいものではない。
そのために一生を台無しにする人だっているのだ。
万引きなんかやめてほしいものである。


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