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2002年08月18日(日) 万引き その1

小売店や百貨店には、切っても切れない縁の人たちがいる。
それは万引きである。
ぼくも販売員を20年以上やっているので、少なからず彼らと接してきた。
そういうそぶりを一切見せず、こちらがまったく気づかないまま盗っていく名人もいれば、いかにも「やるぞ」といった雰囲気の人間もいる。
前者は、こちらが気づかないうちに、さっと来て、さっと帰る。
こちらが神経を使う暇がない。
気がつけば商品がなくなっている。
「あれ、売れたかな」と思い、売上げデータを調べてみる。
が、売れた形跡はない。
おかしいなあと思い、店内を探し回る。
が、見つからない。
そこまできてやっと盗られたことを悟る。
いつやられたのか、誰にやられたのか、まったくわからない。
後で、見えない犯人の顔を思い浮かべては、悔しい思いをしているわけである。

後者の場合は、その多くが集団でやってくる。
そのため、こちらは始終彼らに張り付いてなくてはならないので、神経が磨り減るし、他の仕事が出来ない。
中には威嚇してくる奴らもいる。
こういう場合、決して慌てたり、うろたえたりしてはならない。
威嚇行為をやる奴らはおとりである。
実際攻撃をしてくるわけではない。
こちらの目を威嚇行為に向けさせておいて、その間に他の奴らが盗るのである。

前の会社にいた時には、しょっちゅうこの手の万引き集団が来ていた。
目つきの悪い兄ちゃんが商品を狙っていたので、ぼくが見張っていると、別のデブの兄ちゃんがぼくの所にやって来た。
「こら、お前何見よるんか!」
ぼくは無視して、目つきの悪い兄ちゃんのほうを見ていた。
「こら、聞こえんとか!」
それでも無視である。
「殺すぞ!」
何を言われても無視していたので、デブの兄ちゃんは帰って行った。
デブの兄ちゃんが帰るのを見て、目つきの悪い兄ちゃんも盗るのを諦めて帰って行った。

その数日後、目つきの悪い兄ちゃんが他の仲間とやってきた。
またぼくは見張っていたのだが、電話がかかったので、女子社員に「見張っとけ」と言ってその場を離れた。
相手は女子社員と思ってなめたのだろう。
さっと商品を袋に入れて、走って行った。
その女子社員は、ぼくに「しんちゃん、盗られた」と言って追いかけていった。
ぼくもすぐさま電話を切り、その後を追いかけていった。
店の外に出てみると、その女子社員が兄ちゃんの持っていた袋をつかんでいた。
「あんた盗ったやろ」
「盗ってない」
「ちゃんと見よったんやけね」
兄ちゃんは「うるせえ、くそばばあ」と言って、女子社員に蹴りを入れた。
そこをぼくが捕まえた。
「離せ、おれ盗ってない」
「でも、蹴ったやろうが」
「・・・、ああ」

騒ぎを聞きつけて、他の従業員がやってきた。
兄ちゃんも観念したようだ。
その後、警備室まで引っ張って行った。
その途中に何度か逃げるそぶりを見せたので、ぼくはベルトの後ろをしっかりと掴んでいた。
「離せ」
「だめ、お前逃げるけ」
「逃げんけ、離して」
「いや」
すると兄ちゃんは、威勢よく「○○署の人に、Hというたら知らん人はおらんけ」などとわけのわからないことを言い出した。
警察に名前を知られていたら、カッコイイとでも思っているのだろう。
そこでぼくが「お前、そんなことが自慢なんか」と言うと、兄ちゃんは急にトークダウンして「・・いや、そうじゃないけど」と言った。

警備室に連れて行くと、また兄ちゃんの態度は一変した。
兄ちゃんは以前からその警備員を知っていて、なめていたのである。
兄ちゃんは急に偉そうになった。
警備の人の質問にも、適当に答えているのがわかった。
そこでぼくが、「お前、仲間がおったやろうが」と聞くと、「おらん」と言う。
「この間のデブは仲間やろうが。何なら捕まえてきちゃろうか」とぼくが凄んで言うと、兄ちゃんはまたシュンとなり、「いや、あの人はたまたま店であっただけ」と言った。
「うそつけ!」
「・・うそやない」

その後のことは警備員に任せ、ぼくは売場に戻った。
兄ちゃんは警察に連れて行かれたらしい。
その後兄ちゃんがどうなったのかは知らないが、二度と店に現れることはなかった。


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