頑張る40代!plus

2002年08月10日(土) 偽者

今日、家に帰ってから、テレビをつけてボーっとしていた時の話である。
午後9時頃だったか、突然「ヴィレッジシンガーズ、亜麻色の髪の乙女」と言うのが聞こえた。
懐かしいサウンドが始まった。
何が起こったんだろうと、テレビを見てみると、そこには現在のヴィレッジシンガーズがいた。
懐かしい顔ぶれがそこにあった。
多少人生に疲れたような顔をしていたが、歌っていたのは紛れもない本物の清水道夫であった。

あの事件から約1週間経つが、大きな花束をもらい、調子に乗って「亜麻色の〜」と歌っていた犯人の顔が、いまだに脳裏に焼きついている。
清水さんは少し関根勤に似た顔をしている。
それなのに、どうして主催者や町の人は、銀蠅顔の男に騙されたのだろうか。
これは主催者や町の人が、清水道夫を知らなかったと言うしかない。
もし、今日の放送が1週間早くあったら、あの事件はなかったに違いない。
それ以前に、「亜麻色の髪の乙女」がリバイバルしなかったら、今回の事件も起きなかったかもしれない。

この事件を知った時、ぼくは、タイトルは忘れたが、かつて渥美清が主演していた、あるテレビドラマを思い出した。
有名な作詞家と偽って、郡上八幡に住み着いた男(渥美)の物語だった。
素性を偽りながらも、その男はいろいろな事件を解決したり、郡上八幡音頭を作詞したりと、けっこう活躍していた。
最後はとんずらして終わったのだが、何かほのぼのするドラマだったのを覚えている。
もしかしたら、犯人はこのドラマを知っていて、それをヒントにしたのかもしれない。

あの町の人は、人を疑うことを知らない善良な人たちが多いのだろう。
仮にぼくが、「昔オックスにいた、赤松愛です」と言っても信じるかもしれない。
「オックスの赤松愛? ああ、いたなあ。あの失神の人でしょ」
「途中で脱退したみたいだけど、あれから苦労しなさったんだねえ。そんなに頭が真っ白になってるなんて、思ってもみなかった」
ぼくが調子に乗って『スワンの涙』や『ダンシング・セブンティーン』を歌っても、「愛さんは脱退してからいろいろあったんだねえ。昔はあんなに声は太くなかったのに」と言われ、疑う人はいないのかもしれない。

高校の頃の話。
修学旅行から帰ってきて最初の音楽の授業の時だった。
友人のオナカ君が授業をサボり、代わりにCという男がオナカ君になりすまして授業を受けていた。
授業の前にはいつも点呼があった。
「オナカ」
「はい」
すると先生が、「お前はオナカか?」と聞いた。
Cは「はい、そうです」と言った。
先生は、無表情に「オナカは顔が変わったねえ。修学旅行行って顔が変わったねえ」と言った。
教室内は爆笑の渦になった。
しかし先生は、相変わらず無表情だった。
そして「そうか、まあいい」と言って授業を始めた。
こういうふうに最初にチクリとやられ、後は知らん顔されるのは辛いものがある。
これに懲りたのか、Cはその後二度とオナカ君の代わりにはならなかった。

話は元に戻るが、今日の清水さんは笑顔がなく、何か憮然としていたように見えた。
その番組は生放送と言っていたので、当然あの事件の後である。
案外、「おれが本物の清水道夫だ。よく覚えとけ!」と思っていたのかもしれない。


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