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2002年07月23日(火) アルバイト遍歴 その3

ある日、原田真二似の男がバイトに入ってきた。
この男は仕事をしなかった。
ほかのバイト連中は荷が着いた時、それがどんな荷物であろうとも、荷を全部運び出すまでそのトラックについていたのだが、その男は違った。
重い荷物や汚い荷物があると、すぐにほかのトラックに移って行った。
「あっちは終わりそうだから、こっちを手伝うよ」などと言っている。
そこにまた重い荷物などがあると、またほかのトラックに移って行った。
軽い荷物ばかりあるトラックについても、最後までそこにいたことはなかった。
「トイレに行ってくる」などと言っていなくなるのだ。
そして荷物の積み出しがほぼ終わる頃に戻ってきた。
最初は気にしなかったのだが、こういうことが頻繁にあるので、ほかのバイト連中とその男の行動を探ってみることにした。
すると、「トイレに行ってくる」と言った後、彼はトイレには行かず事務所の中に入っていった。
事務所にいる社員に、「いやー、疲れました」など言ってしゃべりかけて媚を売っている。
そして、自分はいかに仕事をするか、というのをアピールしていた。

そのことがわかって、バイト連中は憤慨した。
バイトの中ではぼくが一番年長だったので、みんなぼくに「しんたさん、バシッと言ってやってくれ」と言ってきた。
しかし、ぼくは口で言うのを好まない。
かと言って、力に訴える主義でもない。
彼が相変わらずうろうろしていた時、ぼくは彼をつかまえた。
「おい、こっち手伝ってくれ」
「い、いや、ちょっとやっていることがあるんで」
「そんなのどうでもいいけ、手伝え!」
と言って、無理やり彼をトラックに引きずり込んだ。
「おい、これを全部運び出すぞ」
「えっ・・・・」
かなりの量だった。
いやいやながら彼は手伝ったが、しばらくしてから、いつものように「トイレに行ってきます」と言った。
ぼくは「トイレはこの荷物を全部積み出してから行け」と言って、荷物を彼に投げつけた。
しかたなく彼は最後まで手伝った。
その後、ほかのバイト連中がぼくのところに来て、「しんたさん、見てましたよ。胸がスッとしました」などと言っていた。
後でわかったことだが、その後彼は泣いていたらしい。

しかし、彼はこのことを恨みに思ったようだった。
事務所に行っては、執拗にぼくたちの悪口を言っていたのだ。
最初は事務所の人も相手にしていなかったが、あまりに彼がしつこく言うのでだんだん彼のいうことを信用するようになっていった。

土曜日は荷が少なかった。
8時にはトラックすべてが戻ってきた。
荷を積み出した後、ぼくたちは暇をもてあましていた。
9時までのバイトなので、いやでもそこにいなくてはならない。
ある日、社員の人が「のどが渇いたなあ。ちょっとジュースでも飲みに行こう」とぼくたちを誘った。
近くの自販機に行くと、ほかの社員もそこにいた。
みんなジュースではなくビールを飲んでいた。
「お前たちも飲め」と言って、彼はビールをおごってくれた。
このバイトをしている間、仕事中にビールを飲んだのはこれが最初で最後だった。
しかし、これが問題になった。
「バイトが仕事中にビールを飲んでいる」というのが、社長の耳に入ったのだ。
社員のほうはお咎めなしだったが、ぼくたちバイトは「辞めさせろ」ということになった。
ビールを飲んだことをチクったのは、言うまでもない、原田真二男である。
ぼくたちがビールを飲んだのを知ると、彼はさっそく事務所に報告に行った。
そして問題が大きくなったのだ。
辞めさせられたのは、ぼくを含めて5人だった。

そのバイトを始めて4ヶ月たっていた。
ぼくは、もうそのバイトには未練がなかった。
ほかの連中も、潔く辞めた。
結局、その会社には仕事をしないバイトだけが残った。


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