最近、いろいろな方言が店の中で飛び交っている。 またこういう季節がやって来た。 店の近くには、大学が二つ、短大が二つ、専門学校が一つある。 また、多くの企業がある。 そういったところの新入生や新入社員や転勤族が、店に買い物に来ているのだ。 学生や新入社員は九州や中国地方の人間が多いのだが、中には関西訛りの人がいたりする。 また、転勤族は日本各地からやってくる。 この間は東北訛りの人がいた。 いよいよ春本番になってきたようである。
ぼくは24年前に東京に出たのだが、当初「どこの高校の出身?」とよく聞かれていた。 ぼくが「北九州の高校なんか言うたって知らんやろ」と言うと、「えっ、こっちの人じゃないの?」と驚いた様子だった。 ぼくは東京にいる時も北九州弁で話していたので、「言葉を聴いたらわかるやろ」と言うと、「それって方言なの?しゃべり方に癖があるのかと思ってた」という答であった。 なぜこういうことを言われるのか、いつも不思議に思っていた。 そのうちいろいろな地方の出身者と知り合いになり、そういう人たちと話すことによってその疑問は解けていった。 そのわけは、北九州弁のアクセントは標準語に近いということにあった。
福岡県には福岡市と北九州市という二つの政令指定都市がある。 この二つの都市は約50キロほど離れている。 この50キロの差が、発音をまったく違ったものにしているのだ。 田村亮子がテレビに出た時にでも聞いてもらったらわかるだろうが、彼女には独特のアクセントがある。 あれは福岡市東部の発音である。 福岡に住むぼくの友人も、そういう発音をしている。 しかし、北九州の人間は「ヤワラちゃん発音」をしないのだ。 これには理由がある。 それは八幡製鉄所があるからだ。 製鉄所が出来るまでは、この地区は寂しい寒村であった。 人口もかなり少なかったらしい。 それが八幡製鉄所が出来たとたん、急激に人口が増えた。 それ以前の何十倍もの人が、全国各地からこの地に集まったのだ。 そこで言葉が変わっていった。 おそらく創業当初は、いろいろな言葉で話すものだから、コミュニケーションもとりづらかっただろう。 しかし、時間の経過とともにその言葉がだんだんまとまっていき、今の方言になっていったものと思われる。
ちなみに、ぼくの父は北九州の人間であるが、祖父は下関出身、祖母は地元出身である。 また母は名古屋生まれの大阪育ちで、祖父は徳島、祖母は岐阜の人である。 ぼくの周りにはこれと似た組み合わせの人間が多くいる。 そういう人の中には、親が話す言葉と、外で話す言葉が違って戸惑った人もいるのではないだろうか。 ぼくが小学生の頃、ある単語が大阪訛りになっていて、「発音おかしいよ」と友達に指摘されたことがある。 まあ、2,3の単語の発音だけだったから大したことはなかったのだが、中には本人は北九州の生まれなのに、親の出身地である鹿児島のアクセントでしゃべるやつがいた。 わざとそうしゃべっているわけではなかった。 おそらく親の影響が強かったのだろう。 また、普段は訛ってないのだが、本の朗読の時に変に訛るやつもいた。 ぼくたちはそいつが本を読むのを楽しみにしていたものだった。 そいつが本を読むときは、皆一様に顔がにやけていたのを覚えている。
さて、今日は方言について話してきたが、最後に一つ、強烈な北九州の方言を掲げておくことにする。
「やめちゃりい」
世相を切り裂くような、実に奥の深い言葉である。
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