今日の午前中、一本の電話が入った。 「もしもし、Iですけど」 知り合いのI刑事からだった。 「署の洗濯機が壊れたっちゃねえ。引き取りしたやつでいいんやけど、使えるやつないかねえ?」 「さあ?確かめてないけ、使えるかどうかはわかりませんけど」 「まあいいや。うちの者行かせるけ、よろしくね」
今日は商品が大量に入荷する日で、朝から大忙しだった。 気がつけば、商品の検品や荷出しをしているうちに午後になっていた。 仕事が一段落し、ちょっと一息入れていると、「しんたさーん、お客さまでーす」と呼び出しがかかった。 行ってみると、体格のがっしりした坊主頭の男性がいた。 「しんたさんですか?」 「はあ」 「Iさんの紹介で来ました」 「ああ、聞いてます」 そしてぼくは、坊主刑事と一緒に大型ゴミを捨ててある場所に行った。 そこにはもう一人の刑事さんがいた。 顔は若いが、眼つきの厳しい人であった。 ぼくの顔を見るなり、眼つき刑事は「あ、お世話になりまーす」と挨拶をした。 「こちらこそお世話になりまーす」と、ぼくは返した。 そして、使えそうな洗濯機を探した。 大型のゴミ捨て場は、外部からの投棄を防ぐために、金網で囲ってある。 畳にして四畳半のスペース。 その狭い金網の中を、大柄の男が三人でゴソゴソやっている図というのは、異様なものがあっただろう。
この異様な風景を、遠くから眺めている人がいた。 よく見ると、うちの部門の取引先の人であった。 ぼくが気がつくと、その人はこちらに近づいてきた。 「こんにちは。しんたさん何やってるんですか?」 「実は・・・。あ、ここでは何やけ、ちょっとこっちに来て」と、他の場所に移動した。 「どうしたんですか?」 ぼくは声を潜めて「あの人たち刑事なんですよ」と言った。 「え!!何かあったんですか?」 「ちょっと前に殺人事件があったでしょ」 「え?そんなことありましたかねえ」 「あったやないですか」 「あ、ああ」 「それでその殺人現場になったのが、うちが洗濯機を配達した所だったんですよ」 「え、そうなんですか!!」 「その犯人がまだ捕まってないんですよ。それで、何か手がかりはないかと、事件の前にうちで引き取った洗濯機を調べてるんです」
ぼくたちがヒソヒソ話をしていると、坊主刑事が「しんたさーん、これ持って行きます」と言った。 「ああ、それですか。どうぞ持って行って下さい。お役に立ててよかったです。ご苦労様です」 ぼくは隣にいた取引先氏に「どうやらあれやったみたいですね」と言った。 「そうみたいですね」 「そういえば、あの洗濯機には髪の毛がついとったなあ・・・」 「・・・」 取引先氏は無口になってしまった。 かなり信じ込んでいる様子で、顔が引きつっているようにも見えた。 それを見て、ぼくは何か申し訳ないような気分になり、「冗談ですよ。冗談」と言い、いきさつを説明した。 取引先氏はやっと笑顔を取り戻したようだった。 きっと真面目な人なんだろう。 悪いことしたなあ。
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