帰りのラジオで、ミスチルの「君が好き」という歌が流れていた。 ぼくにとって、ミスチルというのはどうでもいい存在なんだけど、この歌の最初の歌詞に引っかかった。 「・・・願いが一つ叶うとしたら・・・♪」 そういえば小さい頃、「もしぼくの前に、魔法使いのおばあさんが現れて、『お前の願いを一つだけかなえてあげる』と言ったらなんと答えようか」と真剣に考えていた。 友達にそのことを聞くと、3人に1人の割合で「プロ野球の選手にしてもらう」という答えが返ってきた。 「で、お前はどうなんだ?」と聞かれると、いつも答えに窮していた。 漫画家に憧れた時期もあるが、絵が下手だったので早々と諦めている。 お金とか地位とかに憧れたことはなく、かと言って平凡な人生を望んだわけでもなかった。
中学や高校に行ってもそのことを考えることがあった。 その時は「ミュージシャンになりたい」という夢があったので、「もし魔法使いのおばあさんが現れたらそう言おう」と心に決めていた。 しかし、魔法使いのおばあさんは、なかなかぼくの前に現れない。 そしてそのまま社会に出てしまった。 20代、30代と歳を重ねていくうちに、「ミュージシャンになりたい」という夢もだんだんと薄れていった。
その頃だった。 「魔法使いのおばあさんへの願いはこれがいい」と思いついたのは。 それは、「すべての願いが叶う人にしてもらう」というものだった。 これほど重宝な願いはない。 魔法使いのおばあさんに対する願いは一つだけだが、これでぼくはすべての願いが叶うようになるわけだから。 「これでいつ魔法使いのおばあさんが現れても大丈夫だ」と安心したぼくは、気長に魔法使いのおばあさんを待つことにした。
しかしねえ、魔法使いのおばあさんなんて、そうそうぼくたちの前に現れてくれんのですよ。 そのせいか、気がつくと「魔法使いのおばあさんに会えますように」という願いに変わっている。 こんなこと願っていると、「お前の願いを叶えたぞ」と魔法使いのおばあさんが現れてしまう。 ハッと気づいて、「いかんいかん。これは魔法使いのおばあさんの策略だ。あまりにぼくの願いが壮大なものだから、ばあさんこの願いにすりかえたな。危うく引っかかるところだった」と、「すべての願いが叶う人」に願いを置き換える。 それから、ぼくとばあさんの駆け引きが始まった。 「ばあさん、そろそろいいやろ」と心の中で声をかけると、「まだまだ」と言う答が返ってくる。 ばあさんが現れようとする時には、決まって「ばあさんに会いたい」という願いにすりかえられるので、ぼくは願いを置き換える。 するとばあさんは、現れるのをやめる。 こんなことの繰り返しである。 しかし、ぼくは諦めない。 いつかばあさんを引っ張り出してやる。 ああ、いかん! これも願いになっている。 ということは、そろそろばあさんが現れるのか? 騙されたふりして待ってみるか。
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