みゆきの日記
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2003年05月23日(金) |
過去の話(つづき)/おつかれさま |
そんなトモユキだったから、当然私も彼の過去については聞いたことがないのだけれど、 実は、トモユキが以前つきあっていた女の子に一度だけ会ったことがある。
それは、まだトモユキに出会うまえの、合コンの席だった。 合コンって言っても普通の合コンじゃなくて、なんと場所は西麻布の 『ザ・ジョージアンクラブ』 当時私は外資系のある企業で働いていて、周りには派手なお金の使い方をする人が すごくたくさんいたけれど、さすがにこんなところで合コンしたのは、 後にも先にもこのとき一度きりだ。 その頃、部屋をシェアしていた友だちの美和子に頼まれて、 人数あわせのためについていった。
その合コンは、美和子を気に入ったひとりの男がなんとか美和子に近づこうとして 設定したものらしく、その男がみんなを招待するということで話はついていたらしい。 つまり、その金持ち男と美和子以外は全員人数あわせというわけだった。 美和子はその男にはまったく興味がないのだが、美和子の仕事の都合上、 断ることができなかったらしい。
「私、もう合コンとかあんまり興味ないのよね・・めんどくさいし。」 しかも人数あわせなんでしょ、つまんなそう。 行きたくなーい。」
「ね、みゆきお願い。どうしても一人足りないのよ。 一回キャンセルしてるから、今回だけは逃げるなよってXXさんに言われてるの。 いいじゃない、『ザ・ジョージアンクラブ』よ。 行っとく価値あるわよ。」
「うーん、、ジョージアンクラブかぁ・・・」
結局お店の名前につられて私は参加し、私を含め8人がその席で顔をあわせた。 会社を経営している男が二人いたのだけれど、そのうちの一人は彼女を連れてきていて、
「スーパーモデルのマリちゃんでーす。 って言ってもスーパーのモデルなのよね。」
美和子がふざけてこんな風に紹介したこのマリちゃんが、トモユキの元彼女だった。
マリちゃんはすごく若く見えた。ほっそりと背が高く華奢なからだつきのわりに、 頬はふっくらしている。 綺麗な子だったけど、モデルなんていう派手な職業の人には見えなくて、 どちらかというとおとなしそうな普通の女の子っぽく見えた。 笑顔が可愛くて、ふんわりした雰囲気の女の子だった。 芸能人でいうと、優香みたいな感じ。 こんな女の子が、重厚なソファが並んだウェイティングバーで 煙草を片手にすわっているのが不思議な感じだった。
「ねえねえ、マリちゃんっていくつ? 若いよねぇ。」
私と同じくかりだされた美和子の友だちのユミさんが遠慮なく聞くと、
「22ですよ。」
マリちゃんの彼の起業家が代わりに答えた。
「まだ21ィ。」
甘えたような声で彼のそでを引くマリちゃん。
「だって、来週は誕生日じゃないか。」
「そうだけど・・・」
「あははっ。そうなんだァ。 もしかして、大学生?」
「はい。慶應大学の4年生です。」
「キャーそうなんだぁ。」
30歳のユミさんがはしゃいだ声をあげたので、座は一気になごんだ。 ものすごく美人なんだけど、自分を落として人を笑わせたりするのが上手なユミさんのおかげで、 結構和やかに会話は進んで無事に会は終了した。
帰りのタクシーのなかで、美和子が私に囁いた。
「あのマリちゃんって子、あんたの会社の川上くんとつきあってたのよ。」
「ふぅん、そう。」
川上くんっていうのはトモユキのことで、私は美和子から話には聞いていたけれど、 実際に会ったことはまだなかった。
「今はさっきの男とつきあってるでしょ。あの子、相当クロいよ。 見た?まだ学生なのに、バーキン持ってロレックスつけてたわよ。 さっきの男だって、あの子とつきあって奥さんと別れたんだって。 最初は不倫だったらしいよー。」
「クロいって?」
「腹黒いってこと! 川上くんってさぁ、この業界の男にしてはなんか素朴なとこあるから、 だまされたんじゃないの? マリちゃんがふったらしいけどさ。」
「そうなんだァ。すごいねー。」
当時、私は『その業界』の男たちに群がる若い女に本当にビックリしていたので、 興味津々でつぶやいた。 『お金』と『若さ』や『美しさ』。 それだけが価値を持つ世界のように見えた。 バブルのときってこんな感じだったのかな。実際バブリーな世界だった。 一体2001年当時、どこのサラリーマンが、一度の食事に50万円も払っただろう。 (支払いはいくらだったのか知らないけど、8人で食事をして高価なワインを 何本も空けたらそれくらいいっちゃったんじゃないかと思う) すごい世界だなァと私は思っていた。 『ザ・ジョージアンクラブ』の豪華な螺旋階段、 きらびやかな燭台や美しく磨き上げられた銀器が並んだテーブルが目に焼きついている。 こんなところで『合コン』する人たち・・。
そして、まだ会ったことのない『川上くん』も、そっちの世界の人なんだと、 なんとなく思った。 美和子はお金や派手なことが昔から好きだったからすんなりとその世界に溶け込んでいったけれど、 私は相変わらず、転職する前からの友だちや彼と普通の世界で暮らしていて、 たまに美和子を通して垣間見る世界に驚いて怖気づいてもいたのだと思う。
でも、『川上くん』はそっちの世界の人ではなかった。 今でも、時々『マリちゃん』を思い出すけれど、トモユキは私と同じ価値観を持った人だった。
「ねぇねぇ、みゆちゃんの脚ってなんでそんなに短いの。」
「うるさいなァ・・・」
トモユキがこんなことを言ってくると、つい一度会ったきりのモデルのマリちゃんの長い脚を思ってしまう。
やっぱり、好きな人の過去って絶対に知らないほうがいい。
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夕方頃、トモユキが会社から電話してきた。
「お弁当美味しかったよ〜。」って。
お弁当を作り始めたのは最近なんだけど、こんなに喜んでくれたら 作りがいもある。
「今日のご飯なに?」
今日はトモユキの好きなブイヤベースを作った。 タラを使ったシンプルなブイヤベースは、クイーンアリスの石鍋シェフのレシピ。 これは簡単ですごく美味しい。 あとは、アスパラを使ったパスタにした。
ゆっくり食事してから二人でビデオを見ようと思ったのに、 今日も早番だったトモユキは疲れていたらしく寝てしまった。 しょうがないか。 二日連続だったもんね・・・。
おつかれさま。
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