ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■6955,閑話小題 〜AIロボット
・名画のコピーではなく、画家たちが描いたであろう「新作」を創造したこと、
 の2つの理由からであった。 ある美術評論家は、彼の腕前を評して
 「ピカソが生きていたら彼を雇っただろう」と証言している。

ギィ・リブはフランス中部リヨンの娼館で生まれた。父親は殺人犯、母親は
占い師の家庭で育ったが、少年期に家を出てリヨンの暗黒街で不良少年として
路上生活を経験。20歳の頃には天賦の才能を独学で磨き、水彩画で生活できる
ようになるが、その才能に目を付けられて贋作ビジネスに取込まれてしまう。
それ以来、2005年に逮捕されるまで30年間を贋作画家として過ごした。

ギィ・リブが贋作を制作する過程が興味深い。ピカソ、ダリ、マティスに彼は
なりきるのである。そのためにギィ・リブは何日間もかけて専門書を読み、試作
を繰返した。画家が、いつ、なぜ、どのように作品をつくり、いかなる精神状態
であったのか。画家のすべてを理解してから制作に取り掛かった。つまり、
ピカソがギィ・リブにまるで憑依しているような状態で彼は絵筆をとっていた。
それが彼にとっての創作活動であり、贋作が本物と認められることに彼は無上の
喜びを感じていた。そして、描き終るたびに用いた資料一切を廃棄し、本来の
自分に還っていった。

彼の告白によって贋作ビジネスの実態が詳しく明らかにされている。
驚くべきことに有名画商や鑑定家もそのビジネスに大きく関与していたのだ。
彼らは実名で書かれているので本書の記述は信じるに足りる。 アート市場に
おいて絵画の資産価値が増大するにつれて、作品の品質よりも画家のネーム・
バリューが重んじられてくる。「人は作家の作品ではなくサインに大金を払う」
ようになったのである。そうした市場では、ギィ・リブのように名作の模倣では
なく「新作」を描ける贋作画家は、少ないリスクで大金を稼げる制作者として
重宝されたのである。ギィ・リブの卓越した技術は有名画家の遺族によって
「本物」のお墨付きを得るほどであった。また、ある画家はギィ・リブの描いた
作品を「自分が描いた」と誤って証言した逸話が残っている。

現在もなおギィ・リブの贋作が世界中の美術館に展示され、オークションの
カタログに掲載されているという。認められるまで貧困の生活を余儀なくされた
画家は多い。彼がもう少し忍耐強ければ、いずれ才能が見出されて有名画家の
一角を占めたかもしれない。ギィ・リブは仕事に誇りを持ち、憎めない性格と
魅力を備えた男である。本書はアート市場の裏面のドキュメントとしてのみ
ならず、一人の男の波乱の半生の物語としても出色である。

『本物か偽物かそれほど重要な問題なのだろうか?もし絵がうっとりするほど
魅力的で、力強く、心乱されるものだったら、その絵が誰の手によるものかと
いうのは、本当に重要なのだろうか?』は印象的。彼には、画家として決定的
な何かが欠けていたのだろう。しかし「贋作」を書くことについては天下一品。
それも、すでにある絵を模写するのではない。
その画家のあらゆる特徴を捉え、存在しない絵を描くのだ。≫

  コトバンクによると…

03月30日(月)
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