ID:54909
堀井On-Line
by horii86
[398980hit]

■1320, 2000年前のポンペイ −3
彼女の家はヴェスヴィオ山のふもとにあって海路でしか脱出できません。
そこで救いを求めて来たのです。

伯父は急遽予定を変更し、救助に向かうことにしました。
研究心から乗りかかったことを、義務感という高い次元の感情で実行することに
したのです。
レクティナだけでなく大勢の人々を救助することに決め、
4段櫂ガレー船を用意させてみずから乗り込みました。

 魅力的なその海岸には実際多くの人々が住んでいました。
人々が脱出を始めているその場所目指して伯父は急ぎました。

航路を直線に保ち、危険に向かってまっすぐに舵を取ったのです。
全く恐れることを知らない伯父は、噴火の全段階と様相を、
目にするそばから人に書き取らせるか、みずから書き留めていきました。

 すでに灰は船の上に降り注いでいました。
目的地が近づくにつれそれはしだいに熱を帯び密度も濃くなりました。
真っ赤に燃える軽石や砂利も見え、川床が露出し、崩れた岩が岸を塞いていました。

伯父は引き返すべきかどうか一瞬ためらいましたが、
水先案内人が引き返しましょうと進言すると答えました。
「勇気を持て。運命の女神がついている。ポンポニアヌスの家に進路を取れ」。

 この家はスタビアエにあり、ミセヌムからは湾の半分程難れていました。
海岸線はわずかに湾曲していて、そこに海が入りこむような形になっていました。

このあたりには、当面の危険はなかったものの、状況は目に見えて危うくなって
きていました。

ポンポニアヌスは船に荷物を積み込み、向かい風が止んだら直ちに出航するつもりで
いました。
この風がじつに都合よく伯父の船を押し進めたのです。

無事上陸した伯父は、ポンポニアヌスを抱きしめて慰め、元気づけました。
そして、自信に満ちた態度を取って友人の恐怖心を和らげようと、風呂場に
向かいました。
水を浴びると食卓につき、楽しげに食べました。
というよりは、これが伯父の偉大なところで楽しいふりをして、
友人を励ましたわけです。

 この間、ヴェスヴィオ山の何カ所かで大きな炎や火柱が上がり、
その輝きが夜の闇にあかあかと浮かび上がりました。

しかし、伯父はみなの恐怖を鎮めようとして、あれはあわてて逃げた農夫が
消し忘れていった火だとか、取り残された屋敷が燃えているのだと繰り返しました。

それから少し休憩するといって、本当に眠り込んでしまいました。
伯父は太っていたため寝息が大きく、戸の前を行き過ぎる人にもいびきが
聞こえました。

しかし、伯父が休んでいる部屋に通じる中庭は、すでに軽石混じりの灰に埋まり、
もう少し休んでいたら脱出できなかったと思われるほど地面が高くなっていました。
目を覚まして起き上がった伯父は、一晩中起きていたポンポニアヌスらのところに
戻りました。

彼らは屋内にとどまるぺきか、外に出るべきかについて協議を重ねていました。
頻繁に起こる大きな地震で、家は土台から大きく揺れ、それも今こちらに揺れたかと
思うと次はあちらという具合でした。

一方、家の外では人々が軽石の雨におびえていました。屋内と屋外、両方の危険を
検討し、結局外に出ることになりました。

伯父にとっては当然の判断でしたが、他の人々にとっては恐ろしい方の選択でした。
皆、頭に枕を載せて布で結わえ、降って来る軽石から身を守ろうとしました。

 もう夜は明けていたのに、屋外ではまだ暗闇が続いていました。
どんな夜よりも深くて濃い闇がたれこめていたのです。

とはいえ、いくつもの赤みを帯びた輝きや様々な光が闇を照らしていました。
一行は海岸に戻り、船を出せる状態かどうかを確かめることにしましたが、
このときもまだ海は荒れ狂っていました。

伯父は海岸の地面に布を広げてその上に横になり、
何度も冷たい水を欲して飲みました。

火の前ぶれである硫黄の匂いが近づいてきたため、伴の者は逃げ出しました。
目を覚ました伯父は2人の若い奴隷に支えられて立ち上がりましたが、

[5]続きを読む

11月13日(土)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る