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江草 乗の言いたい放題
by 江草 乗
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■「政府紙幣」を発行するとどうなるか?
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 江戸時代、財政が逼迫した藩の中には、藩内で通用する「藩札」という紙幣を発行したところがあった。その藩札と引き替えに実通貨を手に入れ、それで藩の借金の返済に充てることも行われたという。兌換紙幣として発行する以上、十分に正貨をを準備する必要があるわけだが、もともと財政逼迫を理由に発行しているわけでそんな余裕もなく、また藩が改易などになればその藩札は紙くずになってしまう。藩札を札元として発行するのがいつのまにか藩自身ではなくて富裕商人になっている場合もあったという。

 地方財政もそれから政府の財政も借金まみれになって身動き取れなくなってくる中で、まさかと思ったがやはり「政府紙幣」の構想があると聞いてオレは笑いたくなったのである。やっぱり行き着くところはそこなのかと。財政を豊かにするためには殖産興業によって経済活動を活発にして藩の収入を増やすというのはかつて米沢藩の上杉鷹山が実践したことだが、そんな正攻法を思いつけないのでこんな奇策に走るのである。

 政府紙幣を毎年50兆円ずつ発行すれば、今の政府の借金800兆円を16年で完済することができる計算になる。年間80兆円発行するならば、余剰分の30兆円を歳入に加えることができるわけで、かなり財政は豊かになるわけだ。そして貨幣の流通量も増えるから金余り現象が起きて、土地や株式の価格が上昇し、インフレになることは間違いない。しかし、そうやってバブルを作り出すことはどんな悪弊をもたらすだろうか。
 
 超インフレになれば円の価値は暴落し、今の1ドル=89円くらいから一気に1ドル=200円くらいまで下がるかも知れない。それは輸出企業を潤すことになって景気が良くなると考える人も出るだろう。ただ、円の価値がそれだけ下がると、外国人が保有する日本株の価値もそれに応じて下がるわけで、そうなると果たして外国からの日本への株式投資をより減らしてしまうような気もするのだ。また輸入品の価格は上昇するわけで、原油価格は為替レートの関係で一気に上昇し、レギュラーガソリンは200円を突破するだろう。その物価高と収入アップが連動していれば問題ないのだが、必ずしもそうではない人が多数だろう。

 政府紙幣の発行によって潤沢になった資金で政府がさまざまなバラマキ的な施策を行うことは少なくとも一時的に景気の刺激にはつながる。しかし、そうして起きてしまったインフレがその後にどんな世の中をもたらすのか、そのイメージがオレにはどうもつかめないのである。金余りという現象がいったい何をもたらすのか?ということである。

 たとえばある限定された市町村だけで通用する地域通貨を発行して、その街の公務員の給与をその地域通貨で支給し、その街にある銀行ではその地域通貨と日本銀行券の交換を行い、その交換レートは変動するという仕組みにすればどうか。そうした実験を行いつつ、政府紙幣の導入を試してみるしかないという気がするのだが。

 ただ、日本政府が「政府紙幣の導入を前向きに検討」という報道が世界に流れたら、おそらく激しい円売りが起きるだろう。それだけ日本経済の不安定要因が増すと言うことになって日本株売りにつながるかも知れない。そんなあれこれを考えるだけで想像はさらに広がっていくのである。経済学というのはなんと面白い学問だろうか。

 もしもオレが大学入学時点から選び直せるのなら、迷わず経済学部を選んだだろう。今、一番面白いのはやはり経済活動の結果、社会がどう動くかを予想することだからだ。そして自分の研究成果を活かして株や為替に投資して莫大な利益も同時に手にしていただろう。

 今から一年前に、一年後の株価がこれだけ暴落していることを予想した証券アナリストは一人も居なかった。オレはアメリカのサブプライム問題でかなりのダメージはあると思ったが、少なくともベアスターンズ救済で一段落して後は上昇すると思っていたからかなり甘い予想を立てていた一人である。リーマン破綻からとめどもなく崩壊していくところなど全く予想していなかったのである。


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02月03日(火)
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