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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■危機と成長
このサイトへのアクセス数はこれまで3,000/日ぐらいだったのが、3月から6,000/日とほぼ倍増しています。3月の何が影響したのか(あのシンポジウムか?) 無差別なアクセスが増えている可能性もあるので、セキュリティ対策のためCMSのアップデートをしておきました。

さて、少し前に掲示板でこんな文章を取り上げました(文章は田辺等先生のもの)。

> G.キャプランという、かつて地域における精神保健活動で指導的な活躍をした精神科医は、危機は、人がそれまでのその人なりのやり方では解決できないが故に危機なのであるが、そうであるからこそ、人は平時以上に、新しい対処法、新たな取り組みへの助言や指導に耳を傾ける。だから、危機は、人がそれまでにない新たな方法を身につけて、大きく成長していくチャンスでもある、という主張をしています。
http://www.knt.co.jp/ec/2013/jhcpa56/aisatsu.html

キャプランの危機理論というやつです。

「危機」は、問題を克服できない状態です。そこには混乱と動揺があります。

「アルコール依存症になって、飲みたい酒をやめなくてはならなくなった」という事情そのものは危機ではないと思います。多くの人が自分なりのやり方で酒をやめてみようとします。そして、ある程度それに成功します。

自分のやり方で断酒が続いているうちは、その人に危機という意識はないか、あっても薄いものでしょう。このまま断酒が続いて酒の問題が解決されていくという希望を持っていますし、周囲の人もそれを期待します。

しばらくすると、再飲酒が起こります。目端の利く人なら、次は別のやり方で酒をやめてみます。それでも失敗すると、また別のやり方を試します。そうやって何種類かの解決手段を試し続けるうちは、やっぱりまだ「危機」とは言えないのだと思います。

やがて万策尽きます。その人の行動レパートリーの中に解決手段が含まれていないことが明らかになります。つまり自分のやり方では酒をやめられない、ということが分かります。これこそが本当の危機です。

その人は混乱し、動揺(絶望)するでしょうが、危機は成長へのチャンスだと言います。つまり自分のやり方では解決できなかったのだから、新しい方法を身につければ良いのです。そのために、それまで拒んできた助言や指導に耳を傾けることができるようになります。

イネーブリング理論とか底つき理論は、この「危機」を早くもたらすために、周囲が本人を手助けせずに突き放す必要があるという考え方でした。最近この理論が否定されつつあるのは、本当の危機が訪れるまでには長い時間がかかり苦しみや損失を不必要に増やすこと、また絶望して死を選んだり、危機に直面しても変わることが出来ない人が多い、という欠点があるからです。

人間には知能があって、未来を予測することができます。自分が飲まなくても、同じ病気の他の人が飲んだことを知って、再飲酒が自分の身にも起こる危険の高いことを知ることもできます。十分な情報を提供されれば、実際に危機と絶望を体験しなくても、いま自分が十分危機的立場に置かれていることが理解できる人は少なくありません。デタッチメントからコミットメントへと時代は変わりつつある(はず)。

AAで「自分の考えを使うな」と言われるのも、「新しいやり方を身に着ける」という考え方をすると理解しやすくなります。今までの自分が持っていなかった(持っていても使えなかった)やり方だからこそ、「新しいやり方」が必要なのです。

人は信念や信条というものを持ちます。信念や信条はどうやって身につくのでしょうか?

生きていれば大小いろんな問題が起きます。問題に直面して、人に教えてもらったり、自分で試行錯誤して、何とか解決手段を見つけ出し、問題を克服します。次に同じ問題が起きたとき、今度はもう試行錯誤を繰り返すことはせず、前回やってうまく解決できたやり方で問題を解決します。こうして成功体験を繰り返すことで、「こういう場合には、こう考えてこう行動すると良い」という信念・信条が出来上がります。


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06月04日(火)
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