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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■脳の機能障害と回復
掲示板のほうで、脳の機能障害という話をしました。

この脳の機能障害が何を示しているかというと、大脳皮質、特にその前の部分(前頭前皮質)の機能低下のことを指しているわけです。前頭前皮質は、僕らの額の中の所に収まっています。前頭前皮質は、過去の経験や知識に照らし合わせて計画性や創造性を発揮する・・という、まさに人間らしさを実現しているようなところですが、その部分の活動が鈍ってしまいます。すると考えることやることが、無計画で衝動的になってしまいますし、トラブルになると易怒的・他責的な対応になってしまいます。

アル中は、酒をやめて素面になればすぐにマトモに戻る、と信じています。しかし、アルコールによる脳への影響は酒をやめても長く残ります。自分の脳が酒のせいで萎縮しているかどうか、を気にしている人がいますが、容積の問題ではなく機能しているかどうかです。脳の働いている部分は、酸素の消費量が多いので血流が増えます。この血流を計測して三次元的に視覚化したSPECT画像が こちらのページ にまとめてあります。

これを見ると大脳皮質の機能は、断酒後の時間の経過と共に戻っていく様子が分かります。1年経過しても、かなり機能低下が目立ちますが、それでもかなり正常に近づいています。「イライラ3年、ぼちぼち5年」というのもうなずける話です。

ちなみに、うつ病の人も、前頭部の血流が低下している(機能低下)が認められ、これを利用した診断方法の開発が進められているとニュースにありました。

何もしなくても経時変化で良くなっていく、というのなら、自助グループに通わない人でも良くなっていったり、共同生活とミーティングだけで特別なプログラムのない回復施設の効果が説明できます。ただ、なかなかそれだけでは、うまくいく人が少ない、というのがアルコール・薬物依存症の現実です。だからみんな苦労するわけです。

断酒初期に再飲酒が多いのは、前頭全皮質の機能障害で衝動的に行動してしまうことが多いから、という理由で説明できるとします。ではなぜ、10年経っても、20年経っても飲む人がいるのか。それについての話をしてみます。

ジェリネク博士は、50年以上前に大量のアルコホーリックを調査した研究者です。彼の文章は こちら に置いてあります。アルコホーリックになる前の段階のところに、こんな記述があります。

「後のアルコール中毒者(時々異常に飲過ぎる人も)は、大方の社会的なドリンカーとは対照的に、間もなく酒による際立った開放感を味わう」

後にアル中になる人は、酒を飲んだときに感じる快感が普通の人より大きい、と言っているわけです。

人間の脳には「報酬系」とか「報酬回路」と呼ばれている仕組みがあります。生存に有利なことが起きると、報酬系が働きます。人はそれを「快感」とか「気分の良さ」として感じます。食物を食べれば血糖値が上がりますが、それは生存に有利なので気持ちよさを感じます。暖かい布団で寝るのが気持ちよいのも、セックスが気持ちよいのも、お金が入ると気分がいいのも、良い人ですねと褒められれば気分が良いのも、この報酬系の働きによるものです。

この報酬系というのは脳全体の働きによるものですが、その中核は、側坐核や腹側線条体と呼ばれる部分です。これは脳の表面(皮質)ではなく、もっと真ん中あたりに存在します。人が心地好さを感じているときには、側坐核が活動しており、現在の技術はその活動を測定することを可能にしています。

なぜアルコール依存症になる人は、他の人と比べて際だった快感を酒で感じるのか、という疑問に挑んだ人たちがいます。

参考リンク:
心の由来:「心」についての身もふたもない話
依存症なままでは早死にしちゃうよ? パートIII
http://blogs.yahoo.co.jp/kopheee/9869947.html


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