ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■AAの共同体とは(その1)
 AAの12のステップは、3つのルーツを持っています。「12ステップは3つのパーツから成り立っている」と言ってもかまいません。

 その最初の一つは「ステップ1」です。これについては、ビッグブックの「医師の意見」の章に詳述されています。

 ドクター・ボブとの出会いの2年前、1933年にビル・Wはチャールズ・B・タウンズ病院に入院し、シルクワース医師からアルコホリズムの本質について教えられます。その場面は、第一章「ビルの物語」のp.10あたりに書かれています。

 そこに出てくる「全米でも名の知れた病院」とはタウンズ病院のこと、「親切な医者」はシルクワース医師のことを指しています。医師がビルに教えたことと同じことが「医師の意見」の章に書かれています。

 ただし、ステップ1だけを把握しただけではビルの酒は止まらず、彼はこの病院にその後さらに3回入退院を繰り返します。

 さて、この出会いよりしばらく前、ローランド・ハザードという人物が、チューリヒでカール・ユング医師の治療を受けていました。ローランドは、ロードアイランド州でも屈指の裕福な家に生まれ、この当時は銀行を経営していました。

 彼はお金持ちだったので治療にはいくらでも金をつぎ込めたのですが、酒を止めることはできなかったため、ヨーロッパに渡ってユング博士の治療を受け、治ったものと信じてアメリカに帰国しました。しかし、再飲酒してしまったのです。

 ふたたびユング博士のもとを訪れたローランドは、なぜ自分が酒を止められないのか尋ねました。ユングの答えは、尽くすべき手だてはすべて尽くしたこと、見込みがあるとすれば、それは「霊的な体験」による人格の変化しかない、と彼を突き放します。この下りはビッグブックの第二章、p39〜42に詳しく書かれています。

 ローランドはユングの勧めに従い、イギリスのオックスフォード・グループに参加し、帰国後アメリカのオックスフォード・グループで、カルバリー伝道所のサミュエル・シューメイカー師へとつながります。

 このアルコホリズムの解決には霊的体験が必要である、というのがステップ2の主旨であり、それはユング博士から、ひとまずローランドに伝えられました。

 オックスフォード・グループはルター派の牧師フランク・C・ブックマンが始めた霊的運動でした。20世紀のこの時期、アメリカでは非常に勢いがあったそうで、多くの人が参加していました。ただし、これはアルコホーリクのためのグループではなく、この世に生じる問題は、各人が霊的な変容を遂げることによって解決できると信じる人たちの集団でした。

 オックスフォード・グループの原理を、アルコホーリク向けに整理したのはシューメイカー師でした。彼はこれを6つのステップに集約しました。その2〜6番目が、現在のAAの12ステップのステップ3〜12に相当します。

 ローランドは、学生時代の友人エビー・サッチャーが飲んだくれているという噂を聞き、オックスフォード・グループの原理のひとつ(人を手助けする)に従ってエビーを訪れ、彼が酔っぱらって銃を撃った罪で投獄されそうだったところを助け出します。

 ローランドと同じように、オックスフォード・グループで酒をやめたエビーは、学生時代の友人ビル・Wが飲んだくれているという噂を聞きます。そして、1934年11月、ビルを訪問し、キッチンで彼に酒をどうやって止めたかを説明しました。その内容は、アルコホリズムからの回復には霊的体験が必要なこと(ステップ2に相当)、そしてエビーがそれを得るために何をしたか(ステップ3〜12に相当)でした。この部分は、ビッグブックの第一章、p.13〜19に書かれています。

 ビルはその話を聞かされてムカついたものの、結局自分が助かるためにはそれしかないだろうと受け入れ、タウンズ病院に最後の入院をして酒を切り、入院中にエビーの手助けでステップ3〜11に取り組み、回復しました。この下りはp.19〜21にあります。


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08月16日(木)
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