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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■AAの共同体とは(その2)
 前回の雑記では、アルコホーリックが集まる共同体の中から12ステップが生まれたのではなく、まず最初に12ステップ(の原型)が存在し、それを広めるためにAA共同体が誕生したという話をしました。ビッグブックのあちこちを参照しながら、ビル・Wの元に12ステップのパーツが揃っていく様をたどってみました。

 では、ドクター・ボブはどうだったのでしょう。

 彼の回復の物語は、ビッグブックの個人の物語のパートに『ドクター・ボブの悪夢』として掲載されています。そこにはビルとの出会いも書かれています。

 実はドクター・ボブは、ビルと出会うより前に、オックスフォード・グループに参加していました。p.250には、彼が「ビールなら飲んでも大丈夫という実験」を繰り返している頃に、「見るからに落ち着いて、健康で、幸せそうに見える人たちのところ」に顔を出している記述があります。その集団は「何かしら霊的なこと」だと分かり、興味を持ったのですが、酒は止められませんでした。この集団がオックスフォード・グループです。

 彼はその後の2年半オックスフォード・グループの原理を研究することで、ステップ3以降(相当部分)には相当通じていたでしょう。おそらくはステップ2についても同様だと思われます。つまりドクター・ボブは3つのパーツのうち、2つは手にしていました。彼は何度もこの手段を使っては失敗を繰り返していました(p.xxi(21))。

 だが、残る一つのパーツ(ステップ1)を手に入れていませんでした。彼は自身が医者であったにもかかわらず、自分の病気についてはその本質を知らなかったのです。

 そこへビルがやってきて、医者に対して「あなたの病気は・・・」と説明しました。それはp.251〜253に書かれています。そのおかげで、彼は「前には決して奮い起こせなかった意欲」を持って、オックスフォード・グループの原理を実践することができ、回復したのでした。これについては「再版にあたって」に書かれています。

 その後、このアル中の集団がオックスフォード・グループから独立するのにはまだ数年かかるのですが、それは別の話にしましょう。

 ビルもボブも、3つのパーツ(12ステップ全体)がすべて揃うことによって回復することができました。ここが大事なポイントです。

 エビーがビルに伝えたことも、ビルがドクター・ボブに伝えたことも、12ステップをやった自分の体験でした。

 AAは自助(セルフヘルプ)グループだと言われます。自助グループとは何か? 同じような苦しみや悲しみを経験したり、問題を抱えている人が、おたがいを理解し、助け合って問題を解決していくグループだとされます。

 自助グループの要件が「同じ問題を抱える人」だとするならば、AAも自助グループに違いありません。

 しかし、AAは同じ問題を分かち合うだけではありません。ビッグブックのp.26〜27には、こう書かれています。

 「同じ苦しみを味わったということは、私たちを結び合わせる強力な接着剤の一つではあるが、それだけでは、いまの私たちのようには決してなれなかっただろう」

 同じアルコホリズム(アルコール依存症)という苦しみを抱えた人が集まってもAAにはなりません。依存症者どうしの出会いは、現在の日本でもたくさん起きています。もし、アル中同志が出会うだけでAAが誕生するなら、日本の精神科病棟やデイケアで山ほどAAが生まれ、今ごろ日本はAAだらけになっているはずです。でも、そうはなっていません。それはなぜなのか?

 「私たち一人一人にとっての偉大な事実は、私たちが共通の解決方法を見つけたということにある」

 ここでいう共通の解決方法とは12ステップのことです。つまりAAは、皆がアルコールという同じ問題を抱えるばかりではなく、皆が同じ解決方法(12ステップ)を使う集まりだということです。アル中同志が出会っても、そこに12ステップがなければ、決してAAたりえないということです。

 ところが、現実のAA(少なくとも日本のAA)のミーティングは、この12ステップによる「解決方法」の分かち合いから離れてしまっています。

(続きます)

08月20日(月)
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