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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■すきま市場ばかり開拓したがる日本のAA
竹内達雄先生とのお話の続きです。

日本にはアルコール依存症者が80万人いる、という数字があります。

これは、2004年に厚生労働省研究班の発表によるもので、3,500人を対象に調査を行ったところ、男性の1.9%、女性の0.1%がIDC-10の診断基準を満たしました。全体では0.9%で、これから80万人という数字がでてきます。(※「成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究」主任研究者樋口進)

(ちなみに、判別にIDC-10ではなくKAST(久里浜式アルコール症スクリーニングテスト)を使うと、440万人という数字になります)。

一方、厚生労働省では「患者調査」ってのもやっています。
患者調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html
これは病院や診療所をどんな患者が利用しているか3年ごとに調べているものです。最新の調査は2011年に行われましたが、まだ統計データが公表されていないので、2008年のを参照することにします。

統計表の中で、疾病の小分類まで分類しているものを見てみます。IDC-10の「アルコール使用<飲酒>による精神及び行動の障害」の小分類では、

推定入院患者数12.7千人
推定外来患者数 4.5千人

これは、調査の日(2008年10月のある一日)に全国の医療機関に入院しているアル中が12,700人ぐらいいること。その日に外来で受診したアル中が4,500人ぐらいいる、ということを示しています。

この二つの数字を合計すると、1万7千人ぐらいになります。外来については、別の日に受診する患者さんもいるので、

総患者数=入院患者数+初診外来患者数+再来外来患者数×平均診療間隔×調整係数(6/7)

という式を使って、総患者数を計算します。すると

総患者数50千人

つまり5万人という数字が出ます。(男性は4万1千人。女性が9千人です)。

アルコホリックが80万人いる中で、医療機関を受診しているのは5万人しかいない。1割以下です。残りの75万人はどうなのか。おそらく大多数は依存症の治療は受けていないでしょう。

この75万人をどうすればいいのか。

一つの案として、アルコール依存症で医者にかかっていなくても、その他の病気で医者にかかっている人はたくさんいるでしょう。だとすれば、内科医や産業医に対してアルコール依存症の啓発活動をすれば、早い段階でアディクションの専門医へと紹介してもらうことができるはずです。

「自殺者の3割から、血中に高濃度でアルコールが検出された」という調査がありました。アルコール依存症は自殺のリスクファクターです。だったら自殺予防と依存症の啓発を組み合わせることにすればいい。自殺予防のゲートキーパー教育で、「うつ」ばかりでなく、大酒飲みは自殺予備軍という知識を広める手もあります。

いやいやそもそも、アルコホリックを医療で治療する必要があるのかどうか。いまは過剰な医療化が批判される時代です。例えば中年ハゲにAGAなんて病名を付けて治療する必要があるのか。アルコホリズムが病気であり治療が必要だとしても、その治療を健康保険を使って医療機関で行う必要があるのかどうか。薬物療法中心の精神科医療のなかで、前述の5万人の中には、不要な薬を飲んでいる人が結構たくさんいるのじゃないか。特に、ベンゾジアゼピン系の常用量依存の問題は前にも書きました。

竹内先生との話から少し離れて、AAメンバーとして考えてみます。

AAの唯一の目的は、「いま苦しんでいるアルコホーリクにメッセージを運ぶこと」です。まだ酒をやめられない人に、酒をやめる手段を伝えていくことです。だから、AAメンバーは、アルコホリックが入院している病院を訪問し、患者さん相手に話をします。最近ではそれは、病院の治療プログラムに組み入れられることが多くなり、AAがやっていることなのか、病院がやっていることなのか、区別が曖昧になっています。

そして、AAメンバーは、この「病院を訪問して患者さん相手に話をすること」が、AAのメッセージ活動そのものだと考えるようになっています。(もちろんそれは勘違いですが、今回はその話ではなくて)。


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05月21日(月)
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