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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■外在化・内在化
週末には実家で田植えが行われていたはずですが、土日とも東京・横浜にいたのでまったく手伝えませんでした。最近、(当事者)仲間からばかりでなく、援助職の方からもこの雑記を「読んでます」と言われることがたびたびあり、うかつなことを書かないように気をつけておかなくちゃ、という気持ちでいます。ただ、雑記の更新間隔がのびているのは、単に忙しいのが理由です。
しばらく前のことですが、某所で竹内達夫先生と話をしていました。
僕は、12ステップは基本に忠実にやること、つまりビッグブックに書かれたようにやることで、ステップの有効性が高まると考えています。それは例えば「本能」という概念を使うことや、表を使った棚卸しをやることです。それについては実績も上がっているので心配していません。
ところが、ビッグブックに忠実にやろうとすると、それについて来られない人たちが出てきてしまう悩みもあります。ジョー・マキューの作ったリカバリー・ダイナミクスは、12ステップを視覚化・構造化するテクニックで分かりやすく伝えています。これには間口を広める効果が確かにあります。それでもやっぱり、誰でもオッケーというわけにはいきません。
12ステップは誰にでも効果があるわけではない・・というのは冷徹な事実です。ビル・Wはその事実と向き合い、対応策を見いだそうとした人です。霊的体験こそが回復のカギだと信じた彼は、それに似た体験をもたらすLSDに期待をかけ、実際にLSDユーザーになり人に勧めてもいました。(当時はLSDは合法だったものの、AAの評判に関わると言われて撤回しましたが)。
ビッグブックのやり方が良いとしても、有効性を高めようと努力するほど、そこから外れてしまう人たちの存在が際立っていきます。何か別の手段が必要なのじゃないか。
その時に僕が気になっていたのが、べてる式当事者研究です。「当事者研究」は北海道浦河にある精神障害者のグループホームべてるの家で作られたアプローチです。
べてるの家というと、「降りていく生き方」や「幻覚妄想大会」という言葉ばかりが注目されますが、実は12ステップの流れを汲む「8ステップ」というものを持っています。もともと統合失調の分野では、SA(スキゾフレニックス・アノニマス)というAA類似のグループがあって、その流れを汲んでいます。
当事者研究は、以前は自己研究と言われていたように、自分で自分の病気のことを研究します。ここで言う病気とは、統合失調の症状(幻聴など)に限らず、生活上の困難や、対人関係の問題を含みます。自分一人で研究し、症状に名前(病名)をつけ、解決策を探っていくやり方もあるそうですが、普通は、たとえばホワイトボードを使って開示し、同じ立場の仲間や支援者といっしょに解決策を考えていきます。
僕が当事者研究に興味を持ったのは、これが発達障害の人の支援の現場で使われていることを知ったのがきっかけです。その場に依存症の人も仲間として参加していると聞いたとき、「なんだ、じゃあこれをアディクションの人に使えば良いじゃないか」と考えたのです。
統合失調であれ、発達障害であれ、またアディクションであれ、本人は日常生活で様々な困難を抱えていますが、それをうまく言葉にして表現できるとは限りません。なので解決の手助けを受けることもできず、自分なりの対処方法(大声を上げるとか、過食するとか、ひきこもるとか)に留まってしまっています。当事者研究はアセスメントに使える道具です。
12ステップにしても、当事者研究にしても、キーワードは「外在化」だと思います。その人の抱える問題がその人の「中」に留まっている限り、自分なりの対処方法しか取れず、解決に導けません。12ステップでは、棚卸し表を使って、問題を「外」に取り出します(外在化する)。そしてそれをスポンサーと一緒に分析します。スポンサーが他者の視点や違った対処方法をを提供してくれます。当事者研究では、ホワイトボードを使って外在化を行い、仲間(ピア)やコーディネーターと一緒に分析し、違った対処手段を提供します。
12ステップと当事者研究。細部は違っても、大まかな構造は同じではないか。
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05月14日(月)
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