ID:19200
たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■底つきではなく「底入れ」のために
福島のカオルさんが
イネーブリング理論の功罪、底つき
http://powerless.cocolog-nifty.com/alcoholic/2010/12/post-fce0.html
というエントリを書かれているので、ぜひ読んでください。
これに関連して「底つき」について書いてみます。
「底つき」という言葉はビッグブックにはなく、12&12のステップ1にあります。
「AAのメンバーは、なぜ底をつく必要があるのか」(12&12 p.5)
底つきは元の文章では hit bottom です。「どん底のケース」は low-bottom 。どん底とはたくさんのものを失って「もっともひどい状態」にたどり着いてしまった人たちのことです。他のAAに関する本には、high-bottom という言葉も出てきます。底の浅い人たちという意味です。
「底つき」というと、まるで沼にずぶずぶ沈むものが最後に底に到着するように、アルコホーリクが社会の底辺に沈むような印象を与える言葉です。「資金が底を突く」と言えば、財布の中身がすっからかんになることです。
しかし辞書を引いてみると「底つき」には別の意味もあります。株の取引の用語で、底値になるという意味です。株価が底値になったら、あとは上昇するばかりです。hit bottom は景気を表現する言葉にも使われます。The economy has hit bottom は「景気が底入れした」という意味です。hit bottomは「底を打つ」「底入れする」と訳されます。(精神科医が「AAの用語には株式用語が多い」と指摘されたことがありますが、それはビル・Wの元の職業を考えれば当たり前かも知れません)。以前見たヘイゼルデンの資料には hit bottom を示すイラストにまさに株のチャートの底値の図が描いてありました。
「回復には底つきが必要だ」と言われますが、それはつまり「悪くなる一方の状況が止まり、反転することが必要だ」と言っているにすぎないことになります。
底つきとはつまり、「悪化するだけの状況が反転して回復に向かうこと」です。
底には低い底(low-bottom)もありますが、高い底(high-bottom)もあります。何も社会の底辺に落ちる必要はありません。「まだ元気で、家族もいて、仕事も失わず、そのうえガレージには車が二台もある」(12&12 p.32)という恵まれた状況でも、余裕で底を突くことはできるのです。
では底つきには何が必要なのでしょうか?
カオルさんのブログにもありますが、放置することは良くないことです。適切な関わりが必要です。また景気の話を持ち出しますが、政府が無策なら景気はどこまでも悪化していきます。有能な政府が良い経済政策を実施すれば、景気の底は浅くてすみます。悪い政策を実施すればかえって悪化します。依存症も同じことです。
しかし依存症者に関わろうとしても、本人に否認がありやる気も不足している状況で、まわりがどう関わればいいのでしょうか? それに対して明確な解答を用意したのが、ジョー・マキューのステップであり、同じく彼が施設プログラムとして開発したリカバリー・ダイナミクス(RD)です。
彼は回復が始まるため(つまり底を突くため)には、適切な情報が提供される必要があると説きます。ビッグブックのステップのやり方をやっている人は、ステップ1と2が「情報を得るステップ」だということを思い出して下さい。この二つのステップは、スポンサーからスポンシーへと情報が手渡されるステップです。
ステップ1では、何に対して、なぜ無力なのか。いかに状況は絶望的か、ということが伝えられます。依存症者に対して「いかに状況が絶望的か」ということは医者ですら伝えたがりません。「医師は、アルコホーリクの患者に真実のすべてを告げることを嫌うものだ。良いことは伝えられないのだから(p.134)」。しかし、解決策を示せるのならば別です。絶望はどんなに深くてもかまわないのです。
(ちなみに、「何に対して、なぜ無力なのか」という大事な情報は、12&12のステップ1にも、ミーティング・ハンドブックにもありません。この二種類の本だけを使う難点の一つです)。
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12月08日(水)
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