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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■発達障害について(その6)
自閉症グループの子供は、驚くほど記憶力がよいことが知られています。
例えば子供の頃にお母さんに「お前なんかいらない」と言われると、大人になっても言われた日付まで含めてしっかり覚えていたりします。施設に預けられた子供が、そこでの職員との会話を忠実に再現したおかげで、施設スタッフの言葉の暴力が明らかになったという話もあります。
興味を持ったことは覚えるので、天気の週間予報を全部覚えていたり、ポケモンのキャラクターの名前を全部言えたりします。しかし、暗記が得意というわけではないようで、興味のないことに記憶力は発揮されないようです。
記憶力はすぐれているけれど、想像すること、応用することは苦手です。
標準誤信課題というテストがあります。
「A君はチョコレートを後で食べようと<机の中>にしまって遊びに出かけました。A君がいないあいだに、お母さんがそのチョコレートを<戸棚>にしまいました。その後で、A君が帰ってきました。A君はチョコがどこに入っていると思いますか?」
A君はお母さんの行動を知らないので、正解は<机の中>です。けれど、3歳児の多くは<戸棚>と答えてしまうのだそうです。人の気持ちよりも、事実に引きずられてしまうのです。これが4才になるとほとんどの子が正解できるようになります。
最初にチョコレートの箱を見せ「何が入っていると思う?」と聞くと、答えは「チョコ」です。でも開けてみせると中には鉛筆が入っています。そこで、「最初に見たとき、何が入っていると思った?」と聞くと、3歳児は「鉛筆」と答えてしまいます。過去の自分の気持ちより、現在の事実に引きずられてしまいます。
「他の子はこの箱を見て、何が入っていると思うかな?」と聞いても、やっぱり「鉛筆」と答えてしまいます。これが4才になると正解を答えられるようになります。
つまり健常な子は3才から4才になるあたりで、「人の気持ちを想像し理解する能力」や「過去と現在の自分の気持ちを区別する能力」を手に入れます。相手の気持ちを想像して嘘をつく能力も手に入れます。こうした能力を「心の理論」と呼びます。
いつも挨拶をする人が、今日は挨拶をしてくれない。あれ、なにか気分を害してしまっただろうか、と心配するのも「心の理論」が獲得されているからで、これがなければ極めてマイペースな人になります。
知能の遅れがあるダウン症児でも「心の理論」の獲得に問題がないことが分かっています。一方、自閉症児は心の理論の獲得がないことが知られています。
アスペルガーのような知能の遅れがない高機能群では、9〜10才ごろにこの課題をクリアすることが知られています(つまり普通の子の4〜5年遅れ)。しかし普通の人のように直感的に相手の気持ちを読むのではなく、推論を重ねて人の気持ちを理解していることが確かめられています(つまり心の理論そのものの獲得ではない)。
例えば、相手のほほの筋肉が動かず低い声でしゃべっていれば「不機嫌」、目が大きく開かれ口の角があがっていれば「喜んでいる」。おそらく、持ち前の記憶力の良さが発揮され、状況ごとに辞書が作られていくのでしょう。やはり新しい状況は苦手なようです。
このように「心の理論」の獲得がないために、人の気持ちをおもんぱかる、場の雰囲気を読んで正しい行動を選択する、ということが苦手になってしまうのです。
(続きますよ)
01月07日(木)
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