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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■日本アルコール関連問題学会岐阜大会の印象(その1)
80万人のうち75万人は治療を受けていない、つまり日本にも大量の未治療者が存在しているということです。彼らはなぜ治療を受けないのか。それには様々な理由がありますが、主な理由は「アルコール依存症者は断酒を嫌がる」ということです。治療側が断酒という目標だけを提示すると、彼らは治療を中断してしまい、未治療の状態に戻ってしまいます。
ひとつには中間的な目標として節酒を掲げるということがあります。これによって治療を受け入れやすくなることが期待されます。シンポジストの一人は飲酒量の低減が肝機能を向上させることを示していました。現在治療を受けている5万人は、重篤な(つまり重症の)アルコール依存症者が多いがゆえに、断酒という治療を目標を選ばざるを得ません。しかし、もうすこし軽症の人であれば、節酒を中間目標にした上で、最終的に断酒へと導いたほうが良い結果が得られるかもしれません。
さらには、あまり診断基準を多く満たさない人であれば、節酒を最終目標に掲げることもあり得るということです。実際飲酒量を低減させることにより、安定した緩解にいたる人もいる、というエビデンスも揃いつつあるそうです。軽症なら節酒も可ということか。
「渇望現象によって飲酒量のコントロールが不能になるのがアルコホーリクだ」というAAの考え方からすれば、長期に渡って節酒が可能だなんて信じられないかもしれません。僕の考えでは、操作的な診断基準の下では違う病気の人が混じってきている可能性も十分あるはずです。ジェリネク博士はアルコホーリクをいくつかにタイプ分けしましたが、その中でγ型(AAが本物のアルコホーリクと呼ぶもの)が多くを占めているのでしょうが、それ以外のタイプもあり得るし、中には飲酒のコントロールを回復する人がいる可能性は否定できません。(つまりアルコホリズムとアルコール依存症は違うということ)。
今後、断酒という治療目標だけでなく、中間目標としてあるいは最終目標として節酒を掲げることが日本でも広がる可能性は十分にあります。実際にすでにそれは始まっています(いくつかの医療機関で飲酒量低減という目標の治療が始まっているという報告がありました)。
日本のAAでは「アルコール依存症には重症も軽症もない」と言われます(他の国のAAでも同じことを言うのか知りませんが)。これは軽症だから節酒が可能というわけではなく、断酒するしかないことを説明するための言葉ですが、医療が節酒を指導するようになれば前提が崩れてしまいます。
新しい仲間が、私たちの生き方に何の喜びも楽しみも見つけられなければ、彼らは私たちのように生きることを望むはずがない。(p.192)
AAメンバーが、単に「酒を飲まない」以上の魅力を発信できなければ、新しい人たちがAAに魅力を感じてくれることはないでしょう。AAは特に重症の人たちが酒をやめるためにやむなく参加するところ、として扱われるようになるかもしれません。
「飲んでいた頃のひどい自分を正直に語ることで酒が止まり続けるんだ」とか言っていても、そんなやり方には魅力を感じてもらえないでしょう。また、「仲間の中で荷物(嫌な感情)を吐き出すことでスッキリするためのミーティング」にも魅力を感じてもらえないでしょう。なぜなら、節酒を目標にすることができるのであれば、飲める選択肢を選ぶのがアルコホーリクだからです。
12ステップを通じて得た新しい生き方の魅力を発信することで、「古い生き方のまま酒を飲み続けるよりも、新しい生き方を選んだ方が良いかも」と新しい人に思わせることができないと、AAは徐々に衰退し、忘れ去られていくでしょう。これからのAAは量だけでなく、質も追求していかなければならないのだと思います。
大会のプログラムとは関係なく、会場内の雑談でアカンプロサートの次の薬「ナルメフェン」について耳に挟みました。製薬会社のルンドベックだそうです。ネットで検索してみると、確かにルンドベックが nalmefene(商品名Selincro、セリンクロ)という薬をヨーロッパで4月から launch したとあります。
Lundbeck introduces Selincro as the first and only medicine for the reduction of alcohol consumption in alcohol dependent patients
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07月23日(火)
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