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たったひとつの冴えないやりかた
by アル中のひいらぎ
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■ステップQ&A: 全部 vs. 基本的に
では、子供時代の虐待や性被害の話に戻りましょう。その子供時代の被害について、自分の落ち度を追求するのはフェアじゃありません。でも、棚卸し表を書いているのは大人になった人です。大人として現在の自分の行動に責任を持つ必要があります。
子供時代の被害はたいていトラウマ(心的外傷)になっているもので、それがPTSDを引き起こしています。(PTSDの解離による場面の再現と、前述の恨みの再現は、区別した方が良いと思います。両者は地続きなのかもしれませんが、ここでは分けて考えた方が良いと思います)。恨みの表にこれを書く人は、PTSDを未治療のままにしているのがほとんどです。
なぜ治療しないのか。その理由の一つは、単に治療可能であることを知らない場合です。治らないと思っているケースです。さらに、別の理由として、自分が治療をしなければならないことに対して、腹立たしく思っているから、つまり恨みです。
こんなケースを考えてみてください。駐車場にとめておいた車に戻ってみたら、窓ガラスが割られ、中の荷物が盗まれていました。この場合、車を駐めておいたあなたに落ち度はなく、車上荒らしが悪いのです。けれど、あなたはやるべきことはやらねばなりません。警察に届け、車を修理し、必要なら保険の請求をするのはあなたです。
それを、「私には何も落ち度はないから、何もしなくて良いはずだし、元の状態の車を受け取る権利がある」と言って、何もしなかったら、車は壊れたままです。後で犯人が捕まれば、修理費や慰謝料を請求できるかも知れませんが、とりあえず車は修理しないといけません。それは自分がやるのです。
同じように、トラウマを抱えた人は、自分に落ち度がないからという理由で、自分を治す行動を取らず、壊れたままにしておく人が珍しくありません。そうして、援助を受ける機会があったとしても、それを拒み続けます。その原因は恨みです。アルコホーリクは助けづらい人たち(援助希求能力が低い人たち)だと言われますが、恨みは、他人も自分も信じなくさせ、援助を拒ませています。
12ステップはPTSDそのものにはあまり効果がないようですが、恨みの棚卸しがきちんとできた人は、(PTSDを含む)他の様々な問題の解決のために、必要な行動を取るようになっていきます。援助を求める能力を取り戻していきます。
日本にはPTSDの専門家はまだ少ないので、近くには見つからないかも知れません。けれど、近くにないからと諦めてしまってはもったいない。もしガンにかかったとき、近くの医者に「私には手術できない」と言われたらそれで諦めるでしょうか。遠くの手術できる医者まで出かけていくはずです。PTSDだって同じではないでしょうかね。最近はEMDRのような良い治療法もできているのですから。
恨みは許すことで消すことができると言う人がいます。それは「忘れよう」と言っているに等しいことですが、恨みの性質から言って忘れるのは難しいことです。それよりむしろ、恨みによって自分で自分を傷つけていることが棚卸しで分かれば、バカバカしくなって恨みを手放そうという気になれます。相手が来て謝罪してくれれば気分が晴れると言う人もいますが、謝罪するかどうかは相手次第です。相手が謝罪するまで気分が悪いままだというのなら、自分の気分・自分の幸せは相手次第だということになります。それは自分の幸せ・不幸せを相手にコントロールさせているということで、これまたバカバカしい話です。
少々極端な例を挙げて説明しましたが、恨みというものが自分に不利益をもたらす以上、恨みを大切に育ててきたのは<全部>自分の落ち度でしかない、ということが理解できると思います。だから、あの90ページの文章の訳は「全部自分で招いた結果」であっているのです。
08月05日(日)
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