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頑張る40代!plus
by しろげしんた
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■飲み会 その2
「あのう、今の歌、何という歌ですか?」
「黄昏のビギン」
それでぼくはピンと来た。
中森明菜の『歌姫U』というアルバムに入っている歌じゃないか。
「誰の歌ですか?」
「水原弘です」
「中森明菜も歌ってますよ」
「ほう、明菜が」
「いい歌ですね」
「うん」

そういう話をしている時、ママさんがぼくの席にやってきた。
そして言った。
「あの人ね、前は歌手やったんよ」
「へえ」
「ほらここにも名前があるよ」
そう言って、ママさんはぼくにカラオケのメニューを見せた。
「ほら、ここ」
そこには、ぼくが聞いたことのない名前が載っていた。
『K.J』
「へえ」と答えておいた。
もしかしたら偽者かもしれない。
ちょっと古い歌手だし、一般には顔も知られてないような人だから、地方に行けばごまかせる。
元ヴィレッジ・シンガーズの清水道夫の例もあることだし。
しかし、そのおっさんが本人でも偽者でも、ぼくにはどうでもいいことだった。

ぼくのグループが仕事の話などを始めたので、ぼくはその『K.J』なる歌手のおっさんの横に移動した。
「歌手だったらしいですね」
「昔ですね」
「歌手なら先生ですね。いよっ、先生!」

「先生はどちらの出身ですか?」
「北海道です」
「東京に出て歌手になったんですか?」
「まあ」
「それから黒崎に来たんですか?」
「いや、博多に5年いましてねえ」
「で、黒崎に」
「いろいろありましてねえ」
「先生も苦労されたんですねえ」
ぼくが歌手のおっさんのことを「先生」と呼んだので、気分をよくしたのだろう。
「まあ、一杯やらんですか」と、ぼくに酒を勧めてきた。
その後もぼくは「先生、先生」と持ち上げたので、歌手のおっさんは完全にぼくを気に入ってしまった。
カウンターの中に入り、勝手に酒をついでは、ぼくに振舞った。
しかし、質の悪い冷酒だった。
これで、ビール、焼酎、ウィスキー、日本酒、と全部の酒を制覇したことになった。
もちろん、今日頭が痛かったのも、チャンポンで飲んだせいだろう。

帰るまでずっと、歌手のおっさんと話をしていた。
歌手のおっさんは話の中で、有名な歌手の名前を連発していた。
みな懇意らしい。

店を出たのは2時を過ぎていた。
タクシーで帰り、すぐに布団の中にもぐった。
日記は朝起きてから書いた。
会社に行く前に風呂に入ったのだが、頭の痛みはそれで引いた。
しかし、酒はまだ抜けなかった。
二日酔いというよりも、まだ酔っ払っていた。
おそらく、歌手のおっさんからもらった冷酒が効いたのだろう。
この酔いは午前中一杯続いた。
立っているのが辛く、歩くとフラフラした。
きっと周りの人は酒臭かっただろう。

しかし考えてみると、その状態で車を運転して行ったのだから、恐ろしいことである。
運転中に、並走車や対向車が、こちらに向かってくるような錯覚を何度か起こした。
会社に着いた時、よく死ななかったものだ、と一人で感激していたほどだった。
けっこうスピードを出していたから、ちょっとした運転ミスで大惨事になっていたかもしれない。
もしそうなっていたら、「また、福岡県の事故件数が増えた」と、福岡県公安委員会のおっさんを嘆かせることになる。

ところで、昨日飲んだグループとは、年内に何度か飲む約束をした。
次回は、ぼくの休みの前の日にして欲しいものだ。
10月27日(日)
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