(SleepWalking)



澄まない青
 
ちらと見やって思いがけず目に入るときの
ばかみたいにちっぽけな歓喜
なにも無いふりをして触れた
たっぷりと空気を吸った空間
挟み込んだ瞳
澱みもせず澄むこともなく
ただ怠惰に横たわっていた青に
花は灰となって散った
ちいさな雨に引き寄せられた
明るい宴会場
溢れ出す笑い声に責められて
いまだになにも出来ずにいる
気の迷いに殺されてしまいそうだ
縮まらない空との距離も

2005年04月16日(土)


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北国
 
あの人が何処に行ったのかわからないけれど、
わからないからこそわたし、北に走ったのよ

と、彼女は言った。
あの人は雪が好きだったそうだ。
それも、この国の最も北の岬で見るのが
大好きだったそうだ。

あの人は岬から消えた。
海に落ちたのかもしれないし、
船に切り刻まれたのかもしれないし、あるいは
誰かと東の国へ逃げたのかもしれないが

彼女はそれを知らないのだと思う。
あの人にまた逢えると信じているのだ
果たしてそれが叶うか叶わないかに関わらず
雪に触れに行ったのだと信じているのだ。

電話口の彼女は微かに震えて、けれど
まだ優しく笑っているようだった。
次の朝、彼女はこの町の西で死んだ。
珍しく雪の降った夜が明け、彼女を見つけたのは
他でもない、あの人の影だった。
あの人の姿は未だに見えないままだ

2005年03月31日(木)


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知識量ゼロ
 
何も知らないでいるのは只の惰性なのかも知れない
一つの意思表示もしないでいるのは只の傲慢なのかも
ほんとうは好きになって欲しいくせに
だけどそうしているのは
踏み込んで崩れる恐ろしさを忘れられない
只の愚かさだ
遠巻きに眺める笑顔のほうが自然に見えてしまうからだ

2005年03月29日(火)


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消えていく
 
つぶやくほどに薄れていくのはたぶん

あなたへのあいとか、そんな名前の

本当につまらないもので

そんなわたしはいまだに

あいというのは何たるかを知らない

抱き締めて感じるのはあいではない

ただの体温で

あなたがそれをあいというののら

あなたはわたしに映しているのだと思う

遠くに置き去りにした母を

ひとつになったぐらいで感じるような

くだらないあいはいらない

ほんとうにあいしているのならあなたは

わたしに触れたりしないはずだ

生きているあいだに、ただの一度も

2005年03月28日(月)


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くう
 
悲しくなるから、

もう期待するのはやめようと思った

わたしにそんな価値などないのだから

2005年03月21日(月)


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かすりあめ
 
目を凝らさないと見えないくらいの
細い絹糸がきらきらと光る
わたしの世界は
きれいなおりの中にある
その鉄は透明で
手をかざせば消えてしまう
けれど
けしてここから逃げることは出来ない
わたしのおりは美しい
閉じ込められた長いねんげつ
世界は遮断されたまま
どこかで汚くなっている
わたしはそれを知らない
汚れた雨のきれいな世界が
それを教えてくれるまでは

2005年03月11日(金)


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記憶の海
 
どうしても思い出せない何かを探しに

あなたはそこで死んでいるのだと知りながら

裸足のままで海に出た

腕を突っ込んでかき回す

あなたのなかみを抉り出す

あなたのきおくを抉り出す

私の記憶は欠けている

あの春の雨に消えている

小さな茶髪の頭にひとつ

咲いていたのはアジサイだった

季節はずれのアジサイは

海に埋もれて流された

淡いピンクは寂しい藍へ

それはあなたが死んだから

月が微笑む優しい晩に

冷たい海へと沈んでしまおう

はらはらとちる花びらのように

あなたと一緒に揺られよう

寂しい藍から優しい桃に

あなたにこいをしてるから

2005年03月09日(水)


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