(SleepWalking)



かえる
 
小さなものも大きなものも
けっきょく
その命などちっぽけなものだということを
わたしは先生に教わりました
先生は
変な音をたてて飛んでいる虫を ぱちん と
叩いて殺したあと
ほらね、と言いました


きっと人間も同じなのです


その帰り道
大きなかえるを見つけました
大きな目をして
わたしを見つめていました
わたしは怖くなってにげだしました
けれど かえる
追いかけてくるのです
げろげろと鳴きながら
口角をあげて笑いながら
そこで思い出しました
小さなものも大きなものも 関係ないんだって
そしてわたしは傘を持っていること
ほらね


忘れてはいけないのは
みんなちっぽけな命だから
人間が大きな顔をしてはいけない ということです
人間はえらくなんかないのです
ちっぽけな命は守らなければならないのです
わたしは
口角を上げて笑う変質者を殺した
ちいさな殺人鬼

2004年07月13日(火)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



あいたい
 
あなたは
ただの、気になるひとなの
あたし
あなたみたいなひとには生理的に弱いって
解ってるから
気になるだけなの


だけ、なの


だから
お願いよ
夢にまで出てこないで
あたし本当にあなたのことが好きなんだって
勘違いしちゃうじゃない
違うの
そんなんじゃないから


おねがいよ


ただ視界から外せなかっただけ
あなたが誰と笑っていても
そんなこと構わなかった
あたしは
あなたの近くには居られなかったから
だから


何で今更
あいたいなんて思うんだろう
あたし
そんなんじゃないのに
どうして?

2004年07月05日(月)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



よる
 
眼鏡のレンズが
エッジに光を集めて反射する
傾きかけた太陽があなたを
愛しているのだろう
きっと


声を出すことすら出来ない
その指が
あたしを撫でるのを
大人しく感じているしかない
レンズ越しの優しい眼があたしを殺すなら
それでも良いと思ったのよ
あたしは幸せになれるから


あたしは


冷たい夜の空気と
消えてしまったあたしをあなたが
抱いていてくれるなら
こんな日も悪くない
うっすらと考えて目を閉じる
口付けの雨が降るこんな夜に
あなたが泣くことを願いながら。

2004年07月02日(金)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



あと一歩
 
近づけば、良いのに
出来ずにいる愚かさ
階段はあと一段
降りて
あのこの隣に座ったら
あなたの顔も、正面から見れるのに
どうして立ち止まるの
なにも変わらない
あなたは
あたしを知らないままで
あたしは
大きな容器に入れられた
たくさんの金魚のいっぴき
そのくらいにしか
なれない


あなたの向かいに陣取っている
彼女が正直、羨ましかったわ
きっかけすら掴めないでいるあたしと
対照的なあのこ
なにを思ってるかなんて知らない
あたしもそこに、居たかった
それっぽっちの勇気も出せないまま
そのまま
うずもれて
死んでしまう
あたしのちいさな思いが、そこに
倒れて駆けだしてもがいてる
あなたの背中が邪魔をする
見ていられたら幸せだ、なんて
あたし
そんなかわいい子供じゃないから
あなたの耳に静かに欲情したまま
暑さに身を任せている
あと一歩
踏み出せたら、どんなに良かっただろう
思い出しても戻らない
時間を無視した臆病者

2004年06月30日(水)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



薄紅色
 
視線の先に入れないように
慎重に見つめている
あなたの影


視界から外さないように
懸命にとらえている
あなたの姿


手を伸ばしても届かないカミサマの生きるところ
あなたは
光の先に消える影
くちづけても死なないあぶくの人魚
いつか消えて
薄紅にはじける
ふわり
柔らかなかたちで
あなたの眼に溶ける


ここに焼きついた
どうしようもなく淡いことばは
支配する
いつまでも
あなたを焦がすまで
その冷たい指先で
あなたを焦がすまで

2004年06月26日(土)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



あさ
 
うるさくすずめが鳴くのです
あなたが起きてくれないとわたし
からすに目をつぶされてしまうの、と
泣いているのです


おろかなすずめ


お前の目など


わたしの


知ったことか!


するとすずめはさらに激しく泣き出したのです
ぽろぽろと雨を降らすちいさな目
つぶされなくたって
零れ落ちてしまいそうなほど
おおきななみだ


ああうるさい


お前そんなになけるなら


からすにも泣いてやれば良いじゃないか


お前のその声で


からすの耳を壊してやればいい


するとすずめ
こくりと頷き飛び去った
その夜
わたしの家の大きな木に
からすが一羽引っかかっていたのです
耳を枝に突き刺して


なるほどすずめはその声で


からすを殺したらしい


からすのもっとも大切な部分を


ひといきにぶちこわして


そしてわたしは考えたのです
うるさいすずめは同じように
わたしが羽と嘴を
もぎ取ってしまえばよかったのだ、と
わたしは刃物を取り出した
それは暗い部屋に鋭く光る
明日のあさを切り出すための
高価な道具なのです

2004年06月19日(土)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 



左手小指
 
もうだめ


って呟いた


そう


って返ってきた


あなたは


どこまで知っているの


そのまま突き放して


一番楽に


してくれた


ありがとう


空の果てから


指切りげんまん


左利きのあなた

2004年06月17日(木)


にほんブログ村 散文詩

 
 
 
 

back  next  chronological  latest  index

芳   Mail  My Favoite