琥珀色の時
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2004年06月23日(水) |
デイヴィッド・デイ「トールキン指輪物語伝説」 |
「トールキン 指輪物語伝説」 デイヴィッド・デイ著 アラン・リー画 潮崎麻彩子訳
指輪物語の解説書のたぐいかと思って手にしたら、なかなか読み応えのある指輪に関する世界各地の伝説を解きがたってくれる本だった。 筆者は『地面の穴のなかに、ひとりのホビットが住んでいました』からはじまった、壮大な指輪の世界がちゃんと指輪探索の伝統に則っている、しかしトールキンはその伝統を刷新し、生気を吹き込み、結局は独創的な小説だと紹介している。
ヴァイキングの世界には中つ国が、オーディンからは魔法使いの原型、アーサー王やシャルルマーニュからはアラゴルン王様の像、ギリシャ・ローマの神話からプロメテウスの指輪、聖書にはソロモンの指輪、はてまた東洋にも翡翠の輪の伝説があるとは…、まことに指輪は奥深いものでした。
伝説には荒唐無稽な出来事や、現代のセンスからは正邪が解らなくとも、当時の習慣としてはあり得た事、などにもふれて書かれてあり、もう一回昔から馴染んだ神話世界を復習させてもらえた。
また本にはうつくしいアラン・リーの絵がたくさん入っていて、指輪関係のものやこの伝説本のための絵など、とても楽しめる。 影の濃淡で描き上げる絵はどれもすばらしい。
繰り返し伝わる指輪と鍛冶の術は、人類がつかんだ鉄器の象徴でもあるわけで、使い方(もしくは棄却した方がいいのか…)次第で、あるいはその人知を越える力故に人々を狂わすのか… あらためて、指輪物語の主題に深みを覚えた。
2004年02月19日(木) |
清水義範「偽史日本伝」 |
ずっとファンな清水義範のパスティーシュ、マンネリだとかいう人もいるけれどパロディが好きな人にはやめられない読み物です。 今回はパラレル・ヒストリー・ワールドと銘打って日本国の歴史をおもしろく授業してくださる。 歴史に弱い私にはぴったりな本でした。
こんな風に教えてもらったら日本史もよく覚えただろうに、特に近世に近くなると学年末が近くなって駆け足の授業、これではさっぱり訳が分からぬ。 特に歴史的な事件は教わるけれど、その時該当者がどんな気持ち、どんな意識で行動を起こしたかは(勿論、真相は分かるわけもなく…)よくわからないままだ。 この人がこれこれのことを起こした…昔からどうしてそんな風に考えたのかなあと疑問だったので、この本は駆け足ではあるけれど、結構本気で読めた。
初出は小説すばるで、93年から97年まで。
『おそるべき邪馬台国』 邪馬台国はどこにあったのか?あちこちに邪馬台国の散らばる訳は? つまりは邪馬台国銀座というわけで、ちゃんちゃん。
『大騒ぎの日』 御存知、大化の改新ですな、中大兄皇子、中臣鎌足のおこした蘇我入鹿殺害クーデター。 一市民が朝のニュースや昼のワイドショーで事件を知り、夜のニュースで背景を解説してもらう。 ハハハ、ニュースショー、やはり大事件の時はチャンネルを変えてよく見ますよね、そのノリでした。
『封じられた論争』 これが私的には一番うけたかな、清少納言と紫式部のあざとい論争。 清少納言は「沓草子(くつのそうし)」を続編として発表、式部は「続・紫式部日記」を発表して丁々発止とやり合うという話。才女もかたなしの面白さだ。 (これを読んだ後すぐ、某サイトでこの二人に小野小町を加えた、いわゆる雛人形三賢女のパロを読んだ、いゃあ、めちゃめちゃおもしろかった。枕草子、源氏物語の文体まねっこはおもしろいなあ)
『苦労判官大変記』 アッと驚く、入れ替え物語。どっちにせよ弁慶はいいよなあ。 源の兄弟がどうして仲悪くなったのかがよーく解ると思う。
『嵐』 この辺で嵐と来ればもうあのことしかないでしょう。 蒙古来襲ですね。何故台風が起こったのか、うむむ、神風をおこすには…!!
『日本一の頑固親父』 さあ、またよくわからない南北朝時代のこと。やあ、もうわかる名前は後醍醐天皇だけかなあ(不安) して頑固親父は…北畠親房クンです(はあ、聞いたことがあるような、ないような…)
『種子島であったこと』 鉄砲伝来は種子島。鉄砲を売りつけ大もうけを企てるポルトガル人を後目にハイテク・メカ好き日本人はすっかりコピー術を身につけ鉄砲自主生産。 さて種子島にもう一つ伝わったことは…??
『転がらぬ男』 家康の性格がわからない、動向が読めない。秀吉は悩む。 鳴くまで待とうホトトギスの男である。 NHKの大河ドラマでもよく放送される時代、でもほとんど見てない…(やはり苦手)
『戦国情報ウォーズ』 戦国時代をおもしろくした忍びの者達。昔も今も諜報員は大活躍。 霧隠才蔵。ああ、なんだったっけ?ナメクジやガマが出てくる漫画(大昔)えっ、ちがう?
『人殺し将軍』 八代将軍吉宗公、なんやかやで転がり込んだ将軍職、ちょっとうまくいきすぎじゃない? ひょっとしたら、あの運の良さは人殺し? 尾張藩松平通春(みちはる)はつぶやきます。通春は清水先生お好きなのか小説になさっているはず。
『天保ロック歌撰』 ひょんな事から雨宿りのボロ地蔵堂に集まったのは…鼠小僧次郎吉、高野長英、安藤広重、大塩平八郎、佐竹の福次郎(都々逸坊扇歌)片山直之助(直侍こと片岡直次郎) 身の上話をしているうちに、雷が三味線を直撃、しぇきなべいびー♪になっちゃった。
『どうにもせい』 ますます時代物好きな方におもしろい幕末ですね。 尊皇攘夷、倒幕開国、揺れる時代に優柔不断な殿様は長州の毛利家。 攘夷と開国がどうせめぎあうのか、歴史の先生はあんまり上手く教えてくれなかったよなあ…
『人生かし峰太郎』 これもおもしろかったほう。この題から想像できる者があの人とは! シュワちゃんもびっくりのたーみーねーたー→みねたろう ま、人斬り半次郎の逆だわね。坂本龍馬を未来に運んでどうする…??
『開化ツアー団御一行様』 岩倉使節団(米欧回覧団)の内情は… しかし、この使節団を迎えたアメリカ側からの映画でも見たい気分になる。 日本史と西洋史がいつもばらばらな私はこの時代のアメリカが具体的に想像できないの…
非常に久しぶりな清水本でしたが、最後まで読み切ったのは、やはり人間の心の動きがよく描かれているせいだと思った。 歴史的な流れは最低限に、工夫はあれこれと、縦横無尽に清水節が語ります。 歴史苦手組はいい勉強になるんじゃない??
2004年01月14日(水) |
J・R・R・トールキン「指輪物語」 |
いやはやとんでもないものに嵌ってしまった。 なにげなく噂の映画「ロード・オブ・ザ・リング」を見てしまったのが最後、あの長い物語を読み終わり、「ホビットの冒険」も読まなきゃ状態になり、ついでと言うには長くて複雑すぎる「シリマリルの物語」まで、フルコースいただきました。
なによりも訳者が素晴らしい、瀬田 貞二さん(故人)完璧な日本語訳といえるのではないでしょうか(英語版を読んだ訳じゃないけど…) 主人公の一人、未来の王様アラゴルンの通り名レンジャーを野伏、足早く野を駆ける人なので付いたストライダーを馳夫と訳す術にコロリ。 これは好きずきなのだろうけれど、私はとても気に入ってます。
「ナルニア国物語」も瀬田 貞二の訳だったのを知らずに読んでいた。 朝びらき丸と名の付いた船とかが結構気に入っていたので、フロドの持つ剣スティングが「つらぬき丸」だなんてすごいセンスと思ってしまうわけです。
さて、あまりにも長い話なのでとても細部まで記憶できるわけもなく、読みたくなると「旅の仲間」上下「二つの塔」上下「王の帰還」上下「追補編」を図書館より借りてくることにした。 ネットサーフィンして指輪サイトを見て、また物語に戻るとサイトマスター皆さんの熱意がよく分かるんですね。皆さんの熱情でまた本もおもしろくなること請け合いです。
評論社から出ている本自体も文庫版やら、上記7冊セットものやら、全三巻の辞書のごとき本もある。 この厚い三巻ものは、うつくしいアラン・リーのイラストが全編に入っておりコレまた必読。 確か出版されたときには、「果てしなき物語(ネバー・エンディング・ストーリー)」の厚い本が出たときと前後していたと思う。 その時には本を開くこともなく、ただ読み通すのが難しい本という評判だけで敬遠していた。 きっと読んでも途中でリタイアしていたことであろう、映画のおかげ、PJ(監督ピーター・ジャクソン)さまさまである。 ファンタジー本はどこまで自分で空想できるかが勝負。若い頃はSFでもなんの苦なく読んでいたが、近頃はこうした他力がないとどっぷり浸れないのには苦笑である。 図書館の司書のかたも言ってらしたが、小さい頃にこの空想が出来ると本読みになれるとか、絵本から児童書までが大切なんだな。
肝心なストーリーは何しろ設定が特異であるから、作者の思うまま読むよりない。 神、エルフ、ドワーフ、ホビッツ、オーク、人間(馳夫のような長命人間も含む)が生きている世界を何千年にもわたって物語りするんだからね。 神様の作られた中つ国ではあるが、最初から悪しきものがずうっといるし、この神さん側の論理がいったいなんやねんとツッコミ入れたくなること多々あり。 まあ常に【神よあなたはどこにおられるのだ…】は人間の永遠の問いだし、試練の後に悪を自身の力で討ち滅ぼすのもお約束。 細かい設定、書き込みをしつつ、淡々と、ユーモアも交え長い物語は続いていく。 劇的なラストのあとも物語は続き、さらに「追補編」で各主人公のその後を知る。 オタクが喜ぶわけだ。 中つ国は人間社会になり、平和が続く…そう、あのすてきなエルフがいつまでもいたら、絶対人間と仲違いするから、西国へお帰りになって大正解かな(笑)
2004年01月10日(土) |
林望「リンボウ先生の書斎のある暮らし」 |
前回よりなんて日が開いてしまったことか。いかんなあ。 今回の副題は「知のための空間・時間・道具」 お馴染み林望先生のエッセイ。 【武蔵野の片ほとり菊離高志堂の北窓下にて】の〆言葉も久しぶり、前回読んだ「くりやのくりごと」以来のリンボウ本である。
男の書斎と銘うって作ったものの物置と化すような部屋ではなく、可能な限り自分の時間をやりくりし一人になる部屋を作る、そこでは明確なライフスタイルを具現せよ。 リンボウ先生は、理想的な書斎、道具、机などにお馴染みの蘊蓄を傾けます。 男でも女でも、もちろん夫婦でも、各々がひとりになる必要性を説いてます。 狭いうさぎ小屋ではなんとも大変な事でしょうが、あえて個室を確保する意義には納得させられますな。
事柄でおもしろかったのは、イギリスの貴族屋敷でのライブラリー、男性陣はここに集まって談笑(政治的な密談から単純な猥談まで)し、夫人方はドローイングルームでおしゃべりするというヴィクトリア時代の習わし。映画「日の名残り」にもそんなシーンがあったとかで、今度見るときには注意しよう。 昔は男性社会と女性社会は別物だからそういうことも当たり前でしたが、今でも(どんなに愛してる仲でもね)男と女の違いはあるでしょうね。近頃では男の方も女性的になってるから段々隔たりはなくなってるかな。 女の人はひとりになっても楽しみごとがそれなりにあるし、また見つけだすのも上手いが、男性は仕事一辺倒になっていると定年後をどうするか?ですね。 女房にべったりしてないで早く自分の趣味を見つけないと嫌がられるだけですよ、といわれる世の男性は少なくないでしょう。
一万余の蔵書のために造った書庫ももはや満杯というリンボウ先生には遠く及ばないが(比較対照にもならぬ)詰め込みすぎた本棚、ネット中毒気味なパソコン、コレが今の私の書斎ですね。 本棚もパソコンも共有してはいるけれどログインは別だし(管理者はダンナなんで見ようと思えば見られるが…)ダンナの蔵書はほんのすこしだから… はたして、わたしの知的財産(笑)は確保されてると言えるだろうか。 個人的な秘密はかえってネット上にあげておいたほうが知られないというもの、ウム、家庭内で秘密を持つにはwebが一番と言う方策が出てきたぞ。
2003年06月28日(土) |
ジェーン・S・ヒッチコック「魔女の鉄槌」 |
鉄槌ってなんだと思います?ハンマーです、おっきいかなづち。 そんなもの原題を見れば大わかりだった、「The witches's hammer」 表紙からして、実際に1497年に出版された魔女裁判の本「マレウス・マレフィカールム」に載っている木版画を使用してるので、なかなか本格的な魔女ものかと思って読み出した。
ヒロインのビアトリス(ダンテの神曲ベアトリーチェより命名)・オコンネルは本の下調べを職業とする×いちの出戻り娘。 父は有名な外科医で、稀覯書の収集家でもある。 このお父さんが手にした「魔法書」がそもそもの発端で、殺人事件が起こる。 父と浮気の事で喧嘩になり(主人公はダンナの浮気で離婚)家を飛び出して、戻ってみたらお父さんの死体。 父との喧嘩の原因は、清い人と思っていた父もかって浮気をして(そのせいで母が苦しんでなくなったと思うビアトリス)いたとの告白。 父にしてみれば、男とはこのようなものと自分の過去を話したつもりだが、ビアトリス(カトリックのいいトコのお嬢さん育ち)には許せなかった。
出だしから、とても女性には共感できる話立てで、訳者浅羽莢子の読みやすい訳もあってずーんと引き込まれる。 秘本の「魔法書」の秘密はとても意外で、そこにいたるまでに本の半ばまで行ってしまうので、オイオイこの話一冊でおわるんかいと心配になる。
狂信的な団体がその本をねらっているのだが、その団体の強さと来たら、個人ではどうにもならない、警察に訴えても信じて貰えない怖さである。
ラストはちょっと破天荒であるが、最後はすっきり、いやあもうすこし引っ張って欲しい気もする。
男と女の性愛と心の問題、父と娘の関係などアメリカ女性にしては珍しいくらい、ウンウンとうなずきたくなる描き方でした。 復縁を迫ってくる元夫もいい感じなんだが、最後はねえ…
魔女=男が怖がった女、中世の魔女裁判も現代的に解釈すればこういう事かな。
それにしても、お父さんが残した本の数々を始末するのになかなか困っている様子のビアトリス。 貴重な本、高価な本やはりバラバラになるのはもったいないので寄付しようか、それにはどこへと悩む娘。 故人には宝物でも、継ぐものが不必要だということはあるので、ものを必死に蒐集するむなしさを感じましたね。 まあ、生きている間楽しんだんだから、それで十分と割り切るしかないですね。
ふーん思わず我が書棚を見る、全部捨ててよいぞ、子供達心配するな(笑)
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