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鈴木君たちのシュールな一日
信井柚木
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2002年12月29日(日)
「学園祭」編(高二)  その2

「・・・なんだ?」
「あら、主人公が帰ってきたわね」
 にこりと委員長が微笑む。
「だから、なんなんだ」
 不吉なものを覚えながらの佐藤の問いに、高橋女史は黙って一歩下がる。
 彼女の影になって見えなかった黒板の内容を初めて目のあたりにして、佐藤は ―― 思わず絶叫した。

「・・・・・・しらゆ・・・。
 ち・・・ちょっと待てーーーー!!!」



『二年五組 劇「白雪姫」
 キャスト
  白雪姫 佐藤
  王子  高橋』




 その後もキャストは延々と続いているが、佐藤に今そこまで見ている余裕はなかった。
「姫?! なんで俺が姫?!
 ていうか、なんで委員長が王子で俺が姫なんだ?!! 普通逆だろ!!」

 至極常識に乗っ取った発言、否必死の訴えに、二年五組最高権力者は平然とのたまわれた。

「面白くないから」
「面白・・・ってオイ?!!」
「佐藤君、いい? 考えてみなくても、あの理事長に普通の劇でウケるわけないでしょ?
 今回の賞品は、クラス全員分の食堂のゴールドチケットなのよ?!
 負けるわけにはいかないのよ!!」

 拳で力説する委員長。若干名を除くクラス全員が同じ意見らしい。
 これぞまさしく四面楚歌。
(なんで俺ばっかりいつもこんな・・・)
 苦労性の少年は、呆然と黒板の文字を凝視するしかなかった。



 毎年、学園祭では劇・展示・出店等の部門ごとに審査が行われていた。
 審査方法は、理事長、校長、PTA会長、生徒会などによる『審査委員』の採点と、一般生徒による人気投票の合計点で優劣を競うという一般的なもので、特別変わった方法を採っているわけではない。
 であるにも関わらず、毎年白熱した『バトル』が繰り広げられている原因は ―― 用意されている賞品にあった。
 各部門最優秀クラスには年替わりで賞品が用意されているのだが、例えば、地元商店街のフリーパス商品券であるとか、年によっては、優勝したクラスのみに「修学旅行自由プラン」の権利が与えられるとか・・・とにかく、生徒たちの目の色が変わるものが多いのである。
 ちなみに、必要経費は全て理事長のポケットマネーから支給されている。
 なんとも太っ腹な話である。
 いや・・・単に理事長が自分の楽しみのために投資しているだけ、という噂もあるにはあるが、なにはともあれ、生徒たちにとっては毎年準備に熱が入るのも当然といえよう。
 問題となる今年の賞品は、食堂のゴールドチケット・・・1日1品限定無料券(二週間有効)である。
 この学校の食堂は、理事長と数代前の生徒会長のワガママから、やたらと味がよくメニューも豊富。それだけで(田中安田市の詳しい事情も知らずに)市外からの受験希望者が後をたたないというエピソード付きの『名物』であった。

 そう、委員長たちの気持ちも判らなくもない。
 しかし・・・だからといって、佐藤にとっては納得しきれる話ではない。

「だからって、俺の人権は!!」
「諦めてちょうだい」
 即答されて、佐藤はガックリと肩を落とす。
「いいじゃない、私も王子役で付き合ってあげるんだから」
「・・・なら、やっぱり逆でもいいじゃねぇか」
「あら。私は自分より背の低い王子様なんて嫌だもの」
「う・・・・・・っ!」

 佐藤少年の身長、167.7センチ。
 かたや、バスケ部エースの高橋女史の身長、173.5センチ。
 誰がどう見ても説得力のありすぎる理由だった。

「でも、なんで俺なんだ・・・」
「身長がほどほどで、女装して見苦しくなさそうなって言ったら、佐藤君しかいないから」
「身長の話なら、小林もいるだろう?!」

 自分よりも背の低い友人の名を持ち出す。
 この際、自分が女装せずに済むなら何でも良かった。
 が。

「・・・あの小林君に、舞台で主役張らせる気なの?」
 思わず視線を巡らすと、つられたクラス全員分の視線まで浴びて卒倒しそうになっている、超絶人見知りの友人がいた。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・佐藤君・・・あの、呪っても良
「わかった、俺が悪かった」
 聞こえるか聞こえないかの弱々しい声でとんでもないことを言いかけた友人の言葉を、佐藤は慌てて遮った。
 今の一言で、冗談ではすまないこの配役が決定してしまっただろう。周囲もとうに決定事項の雰囲気である。
(・・・・・・・・でも、仕方ねぇよな・・・。
 噂で聞いてるだけだけど・・・アレはゴメンだ・・・)

 佐藤は遠い目をして、ハハハと乾いた笑い声を上げる。
 夜な夜な丑の刻参りをする小林の姿を夢で見させられる、という長期にわたる精神的苦痛と、女装で舞台に立つという数時間で終る精神的苦痛を天秤にかけた佐藤の、苦渋の選択であった。

「で、俺と山本の配役も決まったのか?」
 学祭実行委員会でこの場にいないもう一人の友人の名を挙げ、鈴木が初めて口を開く。
 委員長は軽く肩を竦めた。
「ええ、一応希望通りにしておいたわよ。それってちょっと面白いかなって思ったから。
 それに、鈴木君たちが劇に参加しても、佐藤君が同じ舞台の上ならなんとかなるだろうし」
「・・・俺の仕事は役だけじゃねぇのか?!」
「だって、鈴木君止められるのって佐藤君くらいじゃない」

 当たり前のような顔をしている高橋女史の発言に、再びクラスメートが揃って頷く。
「お前ら・・・・・・」
 人の苦労も知らず、とやり場のない怒りに拳を握る自分の頭上で、
「面白そうだな、ははははは」
 淡々としたいつもの口調で、わくわく、と呟いた輩の鳩尾に思わず肘打ちをかましてしまったとしても、それは相手の自業自得だと思いながら、昏倒した幼馴染を置き去りにして佐藤は自分の席に戻っていった。


「・・・で、希望って、なんの役希望してたんだ?」
「俺が継母で、山本が鏡の精だ」
「・・・・・・」
「なんでも、学祭のテーマにのっとって『バトル』があるらしいぞ。楽しみだな」
「・・・勝手に言ってろ」
「他人事みたいに言っているが、お前とやりあうんだぞ」
「王子とじゃねぇのか?!
 ていうか、継母と白雪姫がバトルするって、どんな劇なんだ!」
「さあな、実に楽しみだ。はっはっは」

 (続く)



2002年12月22日(日)
「学園祭」編(高校二年時) その1

「『闘う青春』・・・って、相変わらず理事長の考えることはワケわかんねぇな」
「そうか? 判りやすくて俺は好きだが」
「・・・お前も相変わらずだよな」

 学園祭のテーマ発表があったのは昨日のことだった。
 担任から預かったプリントの山を抱えて歩く道中、なかなかにインパクトのあるその煽り文句 ―― 否、学祭テーマを口にして、ひとつ溜め息をついた佐藤の隣で、いつもの如く鈴木が淡々と返す。
 二人だけを見ればいつもと大して変わらない光景だが、周囲の空気だけがいつもとは違う。
 三階の渡り廊下でふと足を止め校内を見渡すと、学校全体がざわざわと活気に満ちていた。
 どの教室も、学園祭の準備に向けた打ち合わせに熱が入っている。
 ―― もう『闘い』は始まっているらしい。



 鈴木と佐藤が通う高校では、毎年理事長の決定したテーマに基づいて学園祭の方針が確定する。
 生徒会執行部も含めた生徒たちは皆、その発表を受けて色々な学祭の細かいプランを詰め始める。
 ちなみに、この理事長。
 来賓のない校内限定(いわば内輪)のイベント・・・もとい、学校行事の際、例えば予餞会などで生徒会の司会が面白くない ―― あくまでも理事長視点である ―― 場合など、司会の生徒からマイクを奪い取り、

 「ふはははは、生徒諸君待たせたな!」

 と、高笑いとともに自由気ままに『暴走』するという、非常にお茶目な教育者(自称、花のロマンスグレー)であった。
 ・・・つまりである。
 この学校の学園祭の行方は、全てこの理事長の気分次第という、なんともアバウトかつ、ある意味年間を通して最も『危険』なイベントでもあるということだ。

「あの理事長が絡むと退屈しないな。楽しいことは良いことだと思わないか?」
「退屈しないってのと、楽しいってのとは、全然別物だと思うぞ。
 特にあの理事長が絡むと・・・」

 佐藤は、いささか疲れたように肩を落とす。
 鈴木と山本、小林が、件の人物に気に入られているせいか ―― 佐藤としては、気に入られている対象の中に自分を含めたくないらしい ―― なにかの時には、ほとんど必ず仕事を割り振られ、面倒ごとに引っ張りだされてしまうのだ。
 そう、いつぞやの「徒競走大会」の時のように…。
 もちろん、毎回タダでこき使われているわけではなく、バイト代という名のなんらかの報酬があるにはある。
 しかしそのバイト代にしても、学食のチケットはまだしも ―― 理事長室への自由な出入りの許可とか、放送室に専用マイクを準備してくれたりだとか、意味もなく豪華なお中元が自宅へ届いたり(シェフ三人とウェイターの『フレンチディナーセット』が一般家庭の台所に乱入)だとか、そんなもの貰っても・・・と思うようなものが多いのは一体どうしたものか。

「巻き込まれる内容も内容だけど、あの『バイト代』もなぁ・・・」
「お中元は楽しかったぞ? オフクロも喜んでいたな」
「・・・いや、俺のかあさんも異様に喜んでたけど・・・」
 時々、自分の母親も理解の範疇から遠ざかる。
 佐藤少年にとって、自分の周辺に『常識』の二文字は限りなく縁遠かった。

 頭の痛い問題をあれこれと思い返しながら、佐藤は教室のドアを開ける。
 ガラリとドアが開く音と、
「おおーっ!」
 という歓声がほぼ同時だった。

(続く)



2002年12月21日(土)
告知〜。(『田中安田市』シリーズの、正規シリーズ化について)

 はい、どうも。
 とりあえず生きてます(笑)の信井です。
 ていうか、HPの作品の方は、ほぼ毎週末更新継続していたのですけどね。
 創作帳は久方ぶりです。

 ということで、エンピツだけでお世話になってる方には『ご無沙汰してます』ですね。



 さてさて。
 鈴木くんシリーズ、改め、『田中安田市』シリーズですが、このたび信井のサイトにおいての立場が前進(待て)した模様です。
 というより、ぶっちゃけ『正規シリーズ』化です。
 ・・・・・・はは。
 まさか。
 「行き当たってバッタリ」がテーマのはずの『連中』が。
 正規シリーズに成り上がろうとは。
 時代はまさに下克上です(違)

 ということで、気が向いた時&余裕のある時にだけ書くはずだった、このシリーズですが(そういえば、いつの間にシリーズ・・・?(汗)、正規の作品更新枠に含められることとなりました。
 もうひとつの作品「ウィルトゥース・クロニクル」と交互、もしくはキリの良いところで切り替えつつの『週末更新』です。
 ・・・ま、『田中安田市』については、今まで通り、気が向けば&余裕があれば、週末より早く更新してるかもですけど(笑)

 そして、もうひとつ。
 シリーズ名変更に伴い?、鈴木だけが主人公のエピソードだけではなく、他の面子が主人公になる可能性も出てきました。
 というよりも、そのためのシリーズ名変更だったりします(笑)
 佐藤君だったり、山本君だったり、小林君だったり、もしかすると高橋さんだったり・・・あるいは理事長の場合もあるかも<待て
 どう転ぶかは・・・やはり「行き当たってバッタリ」ということで(笑)

 なにはともあれ。
 皆様、今後とも連中をご愛顧?(笑)下さいますよう、なにとぞよろしくお願いいたします・・・のです(汗)
  <リアルに「仕事」を連想して思い切り嫌だったらしい末尾文



 ・・・そのうち、ていうか、近いうちにHTML化しないとだなぁ・・・(遠い目)