ジョージ・エルスの日記...ジョージ・エルス

 

 

ハッピー・ディパバリ - 2002年10月30日(水)

サプライヤーからの、1枚のファックスが僕のデ
スクに置かれている。

その書面にはこう書かれていた。

「11月2日〜6日の間、当社は休日とさせてい
 ただきます。ハッピー・ディパバリ!」

この国の10%の人口を占めるインド人にとって
一番大事な休日、それがディパバリだ。


ヒンズー教の”光のお祭り”。家の中をオイルラ
ンプで照らし、幸福・富・知が訪れることを祈願
する。

僕の工場は11月1日も休みにした。全従業員の
70%がインド人だからだ。

肌が黒く、目が大きい。頭が小さく足が長い。話
好きで愛想がいい。シャイなマレー人と違って工
場内で目が合えば必ず微笑んでくれる。

インド人は他の国ではその国の経済掌握してい
る場合が多いが、この国では貧しい人達が圧倒
的に多い。

もともと住んでるマレー人、経済を握ってる中国
人に挟まれ、この国では肩身が狭いようだ。



インドといえばカレーだ。


クアラルンプールから来る業者の日本人の担当者
からこのあたりで味のいいローカル・レストランが
ないか尋ねられる。

何の迷いも無く、あのお気に入りのスリムダのカレ
ーレストランを紹介した。


一ヶ月が経ち、再度彼が訪れたが、あれから3回
もそのレストランに行ったという。今日も僕との面
談の後そこへ行くそうだ。

何よりも彼の車のインド人運転手が「うまい、うま
い」と気に入ってるらしい。

そのレストランのファンが2人もできて素直に嬉し
い。


しかし僕の方はいつも頼むミネラル・ウォーターが
1.0リンギット(=33円)から1.2リンギット
(=40円)になって少し不満になってる。

このレストランの女店主に「新規客2人も紹介した
よ」と言えば1回くらい、前の価格で提供してくれ
るだろうか。

この国に来て以来、会社経営に携わるようになって、
少しの値上げも大きな損をしたように感じてしまう。


一種の職業病だ。


全てがアバウトにみえるこの国でも、この種の仕事
に携わっている限り、少し残念だが この感覚が抜け
てしまう事はないのだろう。











...

マチュアー - 2002年10月11日(金)

激しいスコールも昼過ぎにはすっかりあがったので
愛車・ペルダナのエンジンオイル・チェンジのため
会社を抜け出す。

フランス車・シトロエン公認のいつもの自動車修理
屋へ。1時間ほどの外出。

オイル交換の間、ペルダナのそばで作業が終わる
のを待っていた。

ふと隣の車を見ると ぼろぼろの3ドア 白のシトロ
エン車が置かれてある。その持ち主がニコニコしな
がらこちらに向かってきた。


陸(ローク) 義光。チャイニーズにしては珍しい
名前だ。親、親戚、日本との関係はないという。

60歳。前に勤めていた工場は日系電気メーカー。
ファクトリー・マネージャーとして勤務。

日本人が嫌がることをしているのか、甲高い(かん
だかい)声でまくし立てない。落ち着いた話し方に
好感がもてる。

彼の前の仕事のこと、家族のこと、僕の仕事のこと、
など他愛ない話のあと、僕の年齢の話になった。


 ローク:「君は年、いくつなんだ?」

 僕  :「当ててみて。」

 ローク:「...40歳か?」

 僕  :「まだ35歳にもなってないよ。」

彼は少し天を仰ぎ、意外な言葉を返してきた。

 ローク:「話の内容から察して、君は マチュアー
      (mature)だと感じてた。もっと年をと
      ってると思ったんだ。」



"マチュアー(mature)" とは「成熟した」「円熟し
た」「大人びた」という意味。若い人にも使われる
誉め言葉だ。


フランスの女性は実年齢より下にみられることを嫌
がり、むしろ上にみられる事を好むそうだ。

彼女らにとって年をとる、という事はすなわち 成熟
や円熟そして大人である事を意味するのだろう。


最近は若く見られる事が多かった。そしてそれを喜
んでいた。


「成熟」や「円熟」ではあまりにダイレクトで、言う
方も、言われる方も少し照れくさい。

"マチュアー" が外来語として 日本でも使われる様に
なれば 年をとる事に誇りを持てる大人達が増えると
思うのだが。



僕の車の方が先に仕上がった。

他人と話す機会があまりなかったのだろうか。別れ
の握手の時も嬉しそうにニコニコ笑う。

運転席からバックミラーを覗く。まだ彼はこっちを
みてる。車中から手を振った。


そして彼は、その年にしては少しぎこちないかな と
思わせるぐらいの満面の笑みで 僕に手を振っていた。











...

アンダー・コントロール - 2002年10月01日(火)

首都クアラルンプール(KL)市内にある巨大ショッピ
ングモール、"メガモール"。

430ものショップ、2件の大型スーパー、映画館、ボ
ーリング場、スポーツジム。東南アジアで最大。

正式赴任前の3ヶ月間ここに隣接するホテルに滞在
した思い出の場所。当時はホテルからの連絡路を通
り、ここに訪れ、行き交う人々をみて異国情緒に浸
ってたものだ。

最近は、週に1度のスーパーへの買出しに家族で訪
れる。昼食はもっぱら異国情緒たっぷりの屋台風フ
ードコートにて。

KLで好きな場所のひとつだ。


休日に 家族3人、買出しのため訪れた。

いつもなら車を止めた後、地下にあるスーパーへ直接
行くのだが、この時はたまたま、1階の靴屋に寄った。

妻のおなかも相当大きくなってきたので、ヒールの低
い靴を捜しに。

「パーンッ!」

店の外、すごい音が館内に響く。

人々が出口を求め、逃げ惑う。

「パーンッ、パーンッ!」

その音と共に、店のシャッターを下ろす音が鳴り渡る。

本物の銃声だ。これは現実だ。

50歳くらいの中国人・女店長。 「大丈夫。しばらく
ここにいなさい。」客と従業員を店の奥の倉庫に避難
させる。

彼女の冷静な態度が 僕らを安心させる。



新聞報道によると、2年前から連戦連勝の強盗集団に
よる宝石強盗。その宝石店は靴屋と同じ階で わずか
50mほどしか離れていない。

地下に行くスーパーへのエスカレーターは靴屋と宝石
店のちょうど真中にある。

靴屋に寄ってなかったら逃げ惑う人々に巻き込まれ、
妻がつまずき、おなかの子供に影響あったかもしれな
い。



しばらくすると 人々が館内に戻ってきた。館内放送に
耳を傾ける。

「...シチュエーション・アンダー・コントロール。」
 (ただ今状況は監視下にあります。ご安心下さい。)

店を出る。なぜか さっきの店長も店を出て行く。


なんと、彼女は僕らと同じただの客だったのだ。


日本にも場を仕切る頼もしい"おばさん"がいるが、彼女
もそうだったのだ。



世界中どこの国であろうと 最も強い人達というのは、
女として、そしておそらく母として長年生きてきた彼女
のような女性達なのかもしれない。












...




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