レプリカントな日々。

2002年09月12日(木) 「老いたる霊長類の星への賛歌」ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア著 1989年早川書房

 家中の電灯が消えつつあります。
 いや・・・球が切れただけですけど、一度に切れるのはとても迷惑です。今や天井にある電灯の半分くらいが切れてます。買いにいかなきゃぁとは思うんですが、なんだか色んな種類があるみたいで面倒くさい今日この頃です。
 玄関が真っ暗になってからもう一週間。
 はぁ・・・。

 今夜のお題は、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの第三短編集です。
 7つの作品が収録されています。
 あまり「面白さ」では読ませてくれませんが、この作家さんの文体には結構憧れていたりします。
 私はリアルタイムでこの作家の作品を読んでいたわけではないんですが「ティプトリーは女性だった!」という話を聞いた時にも、それほど驚きはしませんでした。
 他の「フェミの時代」の作家を読んでいない事や、その時代をリアルタイムで経験してないせいか、この作家さんはやたらジェンダーにこだわるなぁというのが感想でしたので、普段はジェンダーに疑問を持たない男(失礼!)には書けない視点だよなぁなんて感じてましたから。

 ヒューゴー・ネビュラ賞を総なめにした作品たちではありますけど、エンターテイメント性はあまりありません。
 むしろ哲学的、民族学的な要素が強い「読み物」です。
 トマス・ハリス(「羊達の沈黙」の作家)あたりが書くと実に楽しくワクワクと読めるだろうシーンも、この作家が書くと二度と読みたくない代物になってしまったりします。
 アーシュラ・K・ル・グィンが、長い長い序文の最後にこう書いています。

 ここには本物の物語がおさめられています。







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2002年09月10日(火) 「航宙軍提督ハリントン」デイビッド・ウェーバー 2002年早川書房


 今年の夏はとうとう向日葵も花火も撮れませんでした。
 来年こそは・・・ってもう聞き飽きましたね?
 昨日の朝は実に秋らしい朝でした。
 そろそろ夏も終わりなんですねえ。
 なんとか体調不良も回復しつつあるようで、やっと視界もクリアになりつつある今日この頃です。
 さてさて、しなきゃいけないことは山のように・・・。

 本題ですが。
 をを!ハリントン様ったら、とうとう提督にまで・・・。
 <紅の勇者オナー・ハリントン>シリーズの第五作です。
 今回のテーマは「テロリズム」
 作者も後書きに「連邦ビル爆破」の件を書いてますが。
 時事問題は置いておいて。

 相変わらず厄介事に巻き込まれる能力は誰にも負けないハリントン様、巻き込まれっぷりはまさに「ダイハード」的になってきました。
 光速の何パーセント等といったスピードで宇宙艦隊が闘うわけですから、戦闘シーンはそれなりにあっけないものです。
 国レベルの戦略、そしてそれを支える戦術がいかに巧みかで、闘いの様相は一変します。こうしたお話につきものの訓練シーンは、他の宇宙軍ものに比べて実にリアルでわかりやすく、最後にハリントンが勝つとわかっていても「ああ、なるほどなぁ」とうなずけてしまう所以だったりします。
 ヤワな男なんぞ気合もろとも斬り捨ててしまう、とても怖い女性だったりしますが、心根が優しく正義に満ちあふれているというのも、アメリカで称賛されている理由でしょう。
 まさにスーパーウーマン。
 素直に憧れてしまうのは、作者の思うつぼといった所でしょうか。

 この作品に出てくる最高のキャラは「モリネコ」ですね。
 六本足の猫に似た生き物ですが、普段はハリントン様の肩に乗っています。セロリが大好きで、宇宙での戦闘時はちゃんと特注の宇宙服もあったりします。(宇宙檻といったものですけど)
 このモリネコ、特技というか特殊能力の持ち主で、人の心が読めたりします。そのテレパシーで、そーっとハリントン様に相手の感情を伝えちゃったりしてるんですが・・・。問題になるようなシーンは今回は出てきませんけど、あまりそうした「筒抜け」な展開になると、ふと「をいをい」と突っ込みたくなります。

 今回の第五作では、前回までに稼いだお金で会社を立ち上げているわ、とある星の領主様になっているわ、出向とはいえ軍ではとうとう提督にまで登り詰めてしまうわで、次回は一体どんな出世が待っているのでしょう。
 前回亡くなった恋人のタンカースレイ宙佐、彼を失った心の傷も癒えた頃に、叉新しい恋物語でも始まるのでしょうか。お相手はきっとどこかの星の王子様に違いありませんね。
 期待しましょう。


 階層を問わず生きていくのは辛いもののようです。
 しかし・・・。






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2002年09月02日(月) 「ミラー・ダンス」L・M・ビジョルド著 2002年創元SF文庫

 「蘇生への一縷の望を託して低温保管器に収められたマイルズの遺体が行方不明に。一体どこへ消えたのか?マイルズの訃報は故国バラヤーにも伝えられ、彼の皇位継承権はマークが引き継ぐこととなる。だが皇位への忌避観から、マークは全力をあげて遺体の捜索にとりくみ、機密保安庁に先んじて手がかりを得た彼は、傭兵艦隊の面々を率いて出港する。マイルズ奪還はなるのか?」(下巻背表紙より)

 いわゆるワームホール・ネクサスシリーズの一話。
 あまり前の話を覚えてないんですけど・・・道具立てやギミックは最高です。とっても面白いスペオペですね。この方の作品は一作づつ読んでも充分面白いです。
 作者は「人間らしく生きることとは?」と同時に「若者の成長物語」だとしていますけど。どーもなんだか最近の「ヒューゴー賞」に輝いた長編には、ん〜、一風変わったというか、実にアメリカ?らしい(作者が何人かは知りません)精神分析的要素が盛り沢山なのには、少しだけげんなりします。
 宇宙の荒鷲シーフォートシリーズや、紅の勇者オナー・ハリントンシリーズにもそうした極端な「自己犠牲」や「正義」が顔を覗かせていますけど、曖昧な日本で暮らしていると、そうした世界にすんなり入り込めない所があったりしますね。いや、宇宙軍士官もの、皇位争いものは大好きなんですけどね。
 まぁ・・・最新の精神医療の臨床例をふんだんに盛り込んでいるからこそ、それだけ「リアルさ」に共感出来るのかもしれませんんけど。
 時代がどれだけ進んでも、ヒトの持つ悩みは変わらないってことですか。
 遺伝子操作で作られた2メートル40センチの美女戦士タワラ軍曹(鉤爪が自由に出たり引っ込んだりします。しかも18歳食べ頃)なんて設定が当たり前の世界で「お兄ちゃんと比べるなっ」と言われても、ちょっとぴんとこない時もあります。

 印象に残ったのは「本当の富とは、常に生物学的なもの」という言葉ですね。これはまぁ、要するに「愛する人」や「機知・学習」や「信頼」といった「ヒトとの関わり」を指しているようですけど。
 けだし名言ですな。
 っていうか・・・社会学ではふつーに言われている話なんで、さすがそうしたことが充分に敷衍されているアメリカの作家さん(最早決めつけてます)だなぁと感じたりもします。

 オヤジ好みの戦闘シーン、お決まりのどんでん返しがどんでんどんでんしちゃう、とてもスピーディで読み手を飽きさせないストーリー展開と、主人公「たち」の性格が実にミスマッチな一作。
 一点だけ・・・。
 「学校に行くよ、親の七光りだと言われない学歴を手に入れる」というノーテンキな台詞には、作者に「あんた親金持ち?」と聞きたくなりますね。
 学校に行く事自体がスネカジリだってば。







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