あまおと、あまあし
あまおと、あまあし
(セイレイ) 2004年12月24日(金)

(二十四時、飛行術の訓練)

「私たちは誰でも空を飛べるのです」

暗闇の中で目を閉じましょう
光と共に輪郭も喪われます
かたちのない私たち
内側の丸い、まるいひかり
それはいつか遠い日に
空を飛んでいた記憶のかたち
思い出すだけで良いのです
私たちの来た場所と
これから行く場所の事を
形のない場所から来て
形のない場所へと戻る
その間にはいつも空があり
私たちは飛んでいたのです、誰でもが

「せんせい、いつか私たちが私たちでなくなるのなら
 どうして私たちは私たちなのですか」

「空に聞いてごらんなさい、いつか行けた日に」





(メタセコイア、千年の樹) 2004年12月22日(水)

約束されるものが欲しくて
私たちは木を植えたのだった

水辺には鳥たちが羽を休めている
パンを投げ与えれば
大騒ぎをしながら寄り集まる
今は一羽しか覆うことのできない木陰も
鳥たちの子供のその次の子供たちをも
休ませることができるほどになるだろう

若木の伸びゆくほどに
木の葉は落とされるだろう
泥の上に落ちた葉は
深く沈められ
木の事も木を植えた私たちのことも
そこに水辺があったことすら忘れられた頃

一枚の化石となって掘り起こされるだろう

ああ、その石を拾う人は
私たちの営みの事を知らぬままに
触れるのだ
私たちが託した密かな祈りに

素早く
私たちは口付けを交わした
鳥たちは気づきもせず
パンに群がるばかりだった





八百比丘尼 2004年12月11日(土)

三千の海の底に真実を見つけようと
祈る人の手のひらは
美しく、しわ一つないのであった

 生きることを望んで争いが起きます
 争うことを厭うて堕落が訪れます
 欲することそのものが罪なのであります
 このわたくしは
 望むことを放棄しながら
 世界の調和を祈るのです

私の手、に
つながれた伴侶の手にも
土にまみれたしわが刻まれ
いくら洗い流しても、落ちない
汚れ
平安は遠い、と言うと
土はいつか平らになると
濁った眼球がまばたき、海で見た
牡蠣の内側の色を
思い出したのだった

祈る人は海をわたり
今も遠くへと旅をしているだろう
わたくしたちは此処で、踏みしめるのだろう




(充足、) 2004年12月08日(水)

あらゆる方角から打ち寄せてくるものたちが
境界を曖昧にしようと奮闘している
掘り起こされた土を踏み固め
私は眠る夢は呼ばずに

そら、木の芽が出ているぞ
冬はまだ始まらない
はじまらないのは夜も昼も
その境い目がどこにもないからだ

砕かれる
砕かれて土そのものになる
それでもまだ、足らない

no smoke here 2004年12月02日(木)

鳥たちは夜 放たれてゆく
眠る赤子のくちびるから
まどろむ彼女のまぶたから
眠ることのできない
あなたの煙草の先から

白い鳥は夜
空へと羽ばたいて
星になるのだという

都会の空が明るいのは
そういう訳で
うめつくす白の隙間から時折
羽ばたきの音が
聞こえてくるのだ


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 著者 : 和禾  Home : 雨渡宮  図案 : maybe