2003年11月18日(火)
はななの なのの ぬばたまの くろきつちふむ きみがため なのりて まねかん はるのつき 灯りを、と探したけれど 燃えるものどころか火打石さえ 私は持つことができません ひよよ 風が通り抜けてゆく身体は 影 いえ影よりも薄く 飛ばされてしまうのです はななの なのの くらがりの まなかの はなの そのいろは ゆかりのこえの またうらの 飛ばされて、そしてまたこの花を 一面の花を私は目にするのです はかなく吹き飛ばされて ちりぢりになって なおも凝るこの思いは 私なのでしょうか 私などではない ただの思いでしょうか 朽ちてなお ありつづける はななのなののまんなかの のじをつらねてものおもう その よる 祝言歌 2003年11月11日(火) おめでとう、とまずは言い 祝言を迎える娘に ひとそろいの包丁を送ろう 刃は研がぬままに ひとそろいの包丁を送ろう 産み落とした娘のために 百の生命を殺しただろうか 千の言葉を殺しただろうか 汚れぬようにと 壊れぬようにと育てたお前が 愛を知ったと賢しらに言う 娘よ 包丁を砥ぎなさい 愛という言葉を口にして お前は戦う者になったのだから 寝屋の暗がりに潜む 落胆をそっと殺しなさい 朝の台所から 匂い立つ退屈を殺しなさい 隣の庭に茂る 美しい誘惑を殺しなさい 小鳥が虫をついばむように 他の仔を猫が噛み殺すように 蟷螂が雄を食い殺すように 愛がどこかへ逃げないように おめでとう、とまずは言い 娘よ お前に包丁をあげよう 砥ぎ続け 砥ぎつづけて 2003年11月06日(木) その夜放たれた数多の声を 私たちは聞かなかった 遠すぎたからでもなく 近すぎたからでもなく 広がり続ける野火を前に 何かを護ろうとするならば 投げ出して、身の丈ほどしか得られぬことに 気づきたくはなかったのだ 夜よ、うつくしい夜よ 私たちが知るのは諦めと言う言葉だけで 立ち尽くし夜明けを待ち続けるのだ 朝は、白く 野火は、薄らいでいった |
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