...ねね

 

 全てフィクションです

【DRESS】 - 2003年02月28日(金)

「丘の上の王子様がキルトをはいてもかっこいいけど
 そこらの男がスカートはいてたら、やっぱ変に感じる」
と由希は言った。
「じゃ、僕も変?」って聞いたら
「兄ちゃんは顔が男じゃないから変じゃない」
「兄ちゃんは背が低いし女みたいだからいい」
瑤子と由希が同時に言う。

喜んでいいのか?

多少複雑な思いをしたが、似合うといわれれば
正直嬉しく思う。
でも僕は、ホモでもオカマでもない。
自分の事を変態だとも思いたくはない。
手放しで喜ぶ事も出来ないで居る。

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そんな3人だけの秘密のお着替えごっこが1年続いた。
僕達は少々飽き気味で
もっと刺激が欲しくなった。
部屋の中だけで慎ましくしているなんて出来なくなった。

そして、瑤子が提案する。


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【DRESS】 - 2003年02月22日(土)

そういうわけで、
僕たち兄弟は秘密のファッションショーを開く事になった。
両親が出掛けている時や、夕食が終わって自室に引っ込んだ後など
3人で瑤子の部屋に集まり次々と洋服に袖を通した。
時には母さんのスーツを黙って持ち出したりもした。

最初は「えー」などと言っていた由希も
なかなかノリも良く付き合ってくれた。
ある時は由希が自分のTシャツやスカートを僕に着せて
「パツパツ!」
と言って大笑いしたりした。
そしてお小遣いを貰うと、僕たちは街まで出掛けていって見て周り
瑤子や由希の服を色々悩んで買ったりするのが楽しくなった。
妹に服を買ってあげる優しいお兄ちゃん、と両親に褒められた事があるけど
瑤子に買った服は僕だって着ることになるんだ。

男の服なんて地味な物ばっかりだ。
だから自分の服なんか選ぶ気にもならない。
少しでも華やかな服にしたいと思っても中々売っていない。
大抵地味かサイケかどっちかだ。
少女の服はどうしてこんなに奇麗で可愛くて
様々なバリエーションがあるんだろう。
ああ素敵だ。
とても楽しい。
世の中の少女達はこんな楽しい事を共有していたのか。
どうしてズボンもスカートも着ても許される女の子と違い
男はこんな狭い選択肢しかないのか不思議だ。
スコットランドじゃバグパイプを持ったオッサン達が
揃ってミニスカートをはいているというのに。



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【DRESS】 - 2003年02月21日(金)

な、なんて言い訳しよう・・・
と思いながら瑤子を見ると、その時瑤子が口を開きかけていた。
とっさにワー!と言おうとしたが・・・
「あのねママ」
自分の瞳孔が開いた気がした。
見開いた目で多分僕は凄い顔で瑤子を見ていたと思う。
「あのね、ママ。プロレスごっこしてた」
・・・ぇ
「そうなの?もう、あんまり家の中で暴れないでよ二人とも」
「はーい」

ほんとにもうっと一人ごちながら、母さんは下に降りていった。
変な格好で絡み合った僕と妹が残された。
しばらく、母さんが下にたどり着く頃までそのままじっとしていた。
瑤子がニッと笑って僕を押しのけた。
「どいてよ。もー」

・・・・・

「兄ちゃんって、女装趣味の変な人だったんだ」
「あの、他の人には内緒って事に・・・してくれる?」

僕は妹二人に向かって正座していた。
小さい僕がますます小さく見えたに違いない。
瑤子は、更に由希まで連れてきてしまったのだ。
「どうしようかー由希」
「どうしようねー姉ちゃん」
ニヤニヤ笑いながら僕を見ている二人。
ますます萎縮する僕。

「勝手にクロゼット開けたりしたのは悪かったよ。ごめん。
 でも女の子の服って可愛いから好きなだけなんだ。
 小さい頃母親に着せられてたから、それで」

幼少の頃の自分と母親の事を説明すると、
瑤子は暫らく考えた後にこう言った。
「あのね、じゃあね、こうしよう。
 私達がいる時に着せ替えごっこしよう。
 私だって勝手にタンス開けられるのとかイヤだしさぁ。
 こそこそやってないで一緒にしよ」

その提案は意外に思ったが、これからも服に触れる事が出来るなら
それでもいいと思った。
由希はちょっとだけ「えー」と小声で呟いていたが。


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【DRESS】 - 2003年02月20日(木)

「ねえ、なにしてんの兄ちゃん」
固まった僕は、それでもゆっくりと後ろに首を回した。
「え…えーっと」
「あー!私の服ー!」
「こ、これは…」
とっさに瑤子の服を腹に丸めた。
が、全然隠せてない。
隠しても駄目!と瑤子は僕の腹から服をもぎ取った。
「しわしわ…兄ちゃんのばかー!ママー!ママー!兄ちゃんがー!」
わー!と叫んで慌てて瑤子の口を塞いだ。
塞いでもまだ瑤子はもごもご叫ぶ。

「瑤子、ごめん、しー!しー!」

とかやってる時に母さんが部屋を覗いた。
「なにやってんの、あんた達」
こんなまずい状況で母さんが部屋に来るなんて・・・
もう駄目だ・・・
妹の服を漁って鏡を見ながら悦に入るなんて知れたら・・・
変態と思われてしまう!
いや、変態か・・・
違う、僕は妹の服に興味があるわけじゃなくて
女の子の服が着たいだけで!
いやそれでも充分変態だよ・・・

一瞬の間に頭の中でいろんな事を考えていた。
考えているうちに自分の手が瑤子の口から離れている事も気付かずに。


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【DRESS】 - 2003年02月17日(月)

僕が中学3年の頃には
妹の瑤子と由希と一緒になってファッションショーごっこ
のような遊びをするようになった。

実母と暮らしながら可愛らしい洋服を着て過ごした日々。
僕にはそれを忘れる事が出来なかった。
決して実母との思い出に浸るためなどではない。
僕自身がドレスに魅せられていたのだ。
幸いな事に、僕はあまり背が伸びなかった。
それどころか度々女の子に間違われるほどの容姿。
あまり自慢できる事ではないが、
女の子の洋服を着るにはこの上ない事だ。

それに比べて瑤子は、その頃には小学生ながら
僕と身長はほとんど変わらなく、彼女の服は僕にぴったりだった。

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僕は瑤子のクローゼットに手をかけ、
それを胸にあてては鏡を覗くようになっていた。
彼女の居ない時間はパラダイスだった。
家族に隠れ、こっそりと選んだ服を一枚取り出し、胸にあてる。
この服が着られたら。はぁ。
勝手に人の服をこんな風に扱っておきながらでなんだけど
これを勝手に着てしまうのは、さすがに罪悪感があった。
だから、体にあてるだけ。
見るだけ。布に触るだけ。
いつもドキドキした。

ある日いつもの様に瑤子の居ない時間クローゼットを開けていた。
淡いグリーンのワンピース。
ハンガーを外して鏡の前へ。

ドアが開く音がした。

がちゃ

心臓が縮み上がる思いがして振り返る事は出来なかった。

「兄ちゃん、なにしてんの」

よ…瑤子だ…


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【DRESS】 - 2003年02月14日(金)

「兄ちゃん、これどーお、これこれ」
自分の部屋に戻ってくると、上の妹の瑤子が待ち構えていた。
「うわー。どうしたのそれ」
僕は瑤子の手に持つ洋服をつまんだ。
・・・また新しい服を買ったんで見せびらかしに来たな?

「着てみなよ、兄ちゃん」

そう言って瑤子は僕にそのスカートを押し付けてきた。
「じゃ、ちょっとだけ」
スカートを掴んで足を通してみた。
膝より少し長い丈の、フレアスカート。
「あ、似合う似合う!由希呼んで来るよ、由希ー!由希ー!」
瑤子は下の妹を呼びに、廊下へ飛び出していった。
僕はスカートをはいたまま、鏡の前に立ってみた。
下は可愛らしいスカートなのに、上に着ているのは白いTシャツ。
「・・・なんか変」
一人で呟いて、鏡の前で横やら後ろやらを映してみた。

「瑤子そっくりだなー」

鏡の中の自分を見て、そう思った。


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【DRESS】 - 2003年02月13日(木)

「サチの母親なんだけど」

僕の母親の話?
ドアを開けて入ろうとした手が止まった。

「男と、逃げたらしい」
「あなた調べたの!?」
「さすがにあれから気になっててな。そういう会社に調べさせた。
 どうも相手の男が子供を連れてくるなら結婚しないと言った様だ。
 当時のあの女の同僚だった人がそう聞いていたらしい。
 今は・・・結婚して何食わぬ顔で暮らしているそうだよ」

動きを止めたまま、僕は両親の話に聞き耳を立てていた。

「それで・・・どうするの?まさかサチの事そんな人の所へ・・・」
「いや、あいつには何も言わないし、あの女にも連絡は取らないよ。
 ただどういう事情があったのか、知りたかっただけなんだ」
「それだけ?」
「それだけだ」
「でも、あの子が母親に会いたいって言い出すかもしれないわ」

「言わないよ」

ビックリした顔で両親がこちらへ体を向けた。
僕はずかずか今に入り、椅子に座って言った。

「もう子供じゃないんだし、そんなのトラウマにもなんないよ。
 今更会いたいとも思わないし、向こうだってきっと迷惑だよ」

じゃおやすみ、と言って部屋を出た。

居間ではしばらくドアを見つめたまま唖然としていた両親が
顔を見合わせて複雑な顔で笑っていた。


-

【DRESS】 - 2003年02月10日(月)

家族は僕に優しかった。
継母だから僕を苛めるとか、余計に気を使うという事も一切無かった。
普段はとても優しく、同時に厳しくしつけられた。
それは今でも同じ事だ。
義母も妹達も正直で善良な人たちだった。
妹達は素直で可愛い。

実の母が働いていたせいなのか、面倒を嫌う人だったのか
家事をあまり好んでやらない人だったので
この一般的な平和な家庭がとても珍しい物に思えた。
朝起きると白いご飯が並んでいる毎日。
中学に上がってからは妹達と一緒に、進んで仕度を手伝った。
楽しい。
そう思った。
ただ、「ママと呼んでね」という義母の言葉には従えなかった。
実の母親をそう呼んでいた事を思い出すのだ。
義母の事を母と認めたくないわけじゃない。
深く実母を憎んでいるわけではなかったが
やはり心の中では「あんな女と義母を同じ呼び方で呼ぶのは嫌だ」
という気持ちがあったからだ。
そうする事で、僕は僕なりに義母に敬意を示したつもりだった。


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++++++++++++++++++++++++++

ある夜、両親が居間でくつろいでいた。
僕は勉強を終えてコーヒーでも入れようと居間に入ろうとしていた。
ドアノブに手を掛けた時に父の声がした。


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【DRESS】 - 2003年02月06日(木)

「ママはどこへ行ったの?」
父は、僕の問いに暫らく口を開かなかった。
何か言おうとはするが唇が重そうだ。
僕の眼を見ようとしない。
何か言いたくない事なんだ。

何度目かに父が戸惑う口をパクパクさせた時に
思い切って僕の方から話しかけてみた。
「ママ、もう帰って来ないんだね?家出しちゃったの?」
すると父は申し訳無さそうな顔でこちらを見た。
「そう・・・実はそうなんだ」

「えーと、その・・・彼女には事情があってな、
 お前と暮らす事が出来ないそうだ。
 今朝早くここに電話があって・・・5年ぶり以上になるな。
 それでパパ達がお前を迎えに行ったんだよ。
 捜しても見つからないと思っていたが、案外近くにいたんだな」

父の目はキョロキョロしながら、口は言いよどみつつも早口だ。
そして僕の顔を窺うようにニカッとわざとらしく笑った。
まだ何か隠している事があるんだろうな、と思った。
一瞬、もう少し突っ込んで聞いてみようかとも思ったがやめておいた。
せっかく気を使ってくれているのに、
この作り笑いを無駄にする程、僕は薄情にはなりたくなかった。



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【DRESS】 - 2003年02月05日(水)

僕はまだぼぅっとしていた。

「ここはパパの家だから、安心してここにいなさい」
そう言って僕をここに座らせている。
大きな家だ。
今まで僕達が住んでいた小さなアパートとは全然違う。
さっきの知らない女の人が僕に温かい珈琲牛乳を入れてくれた。
「ありがとうございます」
珈琲牛乳を両手にとって口をつけた。
昨日学校から帰ってきてから、まだ何も食べてない。
飲み物が胃に温かかった。
「お腹空いたでしょ。今何か作るからね」
女の人は向こうへ行ってしまった。
父は僕の肩に手を置いて口を開いた。

「あの人は、パパの奥さんだよ」

ああ、そうか。やっぱりな。
母と別れた後に再婚したっておかしくはない。
「お前には妹が二人いるんだ」
そうして父は、今の自分の環境を淡々と語り始めた。

僕より3歳年下の妹、そして年子で更にもう一つ下の娘がいると言った。
小さい頃に僕が入院した時、あれからずっと僕を探していたそうだ。
最初は跡継ぎの為の男の子欲しさに僕を探していたが、
今は単純に僕に会えた事が嬉しいと言った。

そして「これからはここがお前の家だよ」と。


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【DRESS】 - 2003年02月04日(火)

ピンポンピンポンピンポンピンポン

激しく鳴らされるドアチャイムの音で目が覚めた。
いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったのか、
窓の外はすっかり明るくなっている。
ぼうっとして周りを見渡すと
テーブルの上には、冷たくなった味噌汁のお椀と
硬く乾いて脂の浮いた肉がまだそこに乗っていた。

夕べの悲しい気持ちがよみがえって来てまた涙が出そうになる。

僕のそんな感情なんかお構いなしに
狂ったようにチャイムは鳴り続けた。
仕方なく、むっくり起き出して玄関に向かった。

鍵を開けると父が凄い勢いでバンッとドアを開けた。
僕をノブに手を掛けていたので少し前方につんのめる。
「おい、大丈夫だったか!サチ!」
僕が返事をする間も無く、父にぎゅっと抱きしめられた。
父の肩越しに後ろを見ると、知らない女の人も
心配そうに僕を覗いていた。

「可哀想に、可哀想に・・・」
ぎゅっと抱かれたままでちょっと苦しかった。
ご飯も食べずに初めて一人で過ごした夜は辛かったんだろう
父親の腕の中でわけの分からない事を叫びながら
僕はまた泣き出してしまった。
でもこれは安心感からの涙だ。
普段いっちょ前な事を言って生意気な自分も
まだ子供なんだよな、と心の隅で恥ずかしくなった。


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【DRESS】 - 2003年02月02日(日)

母の事を考えていると、炊飯器の炊き上がりの合図である
ピーピーという音が聞こえた。
そこに近寄ると、温かいご飯の匂いがして
僕の気持ちも少し温まった気がした。
大急ぎで茶碗をヘラを持って来る。
そして空き過ぎたお腹を抱えて炊飯器のふたを開けると・・・

そこにあったのは
ネバネバのおかゆの様になった、
僕のイメージしたふわふわのご飯とは似ても似つかない物が
そこに大量にあった。


炊飯器のふたを握り締めながら、涙があふれた。

「う、うっく・・・うぅ・・・」

そのまま僕は茶碗を持って泣き出した。
声をあげて小さな子供のように大泣きした。
こんなに惨めな気持ちになったのはそれが初めてに思えた。
連絡も無しに帰って来ない母親にも腹が立ったし
そんな時に自分がどれだけ役立たずかという事にも腹が立った。

胃はキリキリ痛んではいたが
急に何も食べる気がしなくなった僕は
泣きながらソファーの上で丸くなり、
いつまでもTシャツの短い袖で何度も涙をぬぐっていた。


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