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華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年07月30日(火)

あの遊戯の、その後。 後編


<前号より続く>




マヤの耳障りの悪い話を聞き流しつつ、美砂の言動を思い返してみた。
今の複雑な思いを紐解くきっかけにもなる。


営業所ではトップの成績だという『嘘』。
10歳以上の『年齢詐称』。

俺を引き合いに出して、全部『消させた』部屋の電気。
『暗闇』でこそ表せた、美砂の淫らな女の部分。

ルイヴィトンのモノグラムライン、
当時最先端の携帯電話・・・
同性からの羨望の眼差しを痛いほど受ける『ファッション』アイテム。

突き放す時に泣いて何度も言った台詞。「何故私を抱いたのよ・・・」
「もう本当に帰るからね」と、いかにも止めて欲しそうだった『素振り』。


『冷め切った』夫婦関係の危うさも省みず、他人の見合いの面倒を見る。
そこで仲人だってこなす。

また営業所でも『うわべだけの付き合い』を続ける仕事仲間。
前からいる『不倫関係』の彼にも突き通す、一連の嘘。



誰に対しても、またどんな場面でも『見栄』と『虚勢』を張る女だ。

そんな見栄や虚勢は、孤高な彼女を包み込む、脆い鎧だった。



旦那とは、美砂の言動にどういう態度を取る男なのだろうか。

旦那は彼女の行動に、何も感知しない様子だ。
例え夫婦関係を逸脱した行為でさえも。


妻は寂しさを紛らわせるために、他の男との逢瀬を心待ちにする。


収入の格差が、そんなに引け目を感じるのか?
家庭不和になるまでの、大きな問題なのだろうか?

それでも旦那か?
親より長い時間を共に過ごすと誓った、人生のパートナーなのか?


美砂の稼ぎ出す旦那顔負けの高収入は、
大きく時間を裂いて没頭する仕事の代償であろう。

本業の保険外交員に、お見合いコーディネーター、さらにバイトのテレコミ。

自分の努力で収入の上積みもある、歩合制の仕事ばかり。
働いて結果を出し続けていないと自分の存在が不安なのだ。

給料の明細書と預金通帳の金額が彼女の努力を誉め、孤独を癒す。
そして娘や家庭に還元していく。



本業ではたまに帰宅も夜遅くなると言っていた。

先日の美砂の言葉・・・「週3回は会おうね」・・・を思い返す。

それだけ彼に会って仕事と孤独に疲れた心と身体を癒すから。
その役割は本来、旦那のものだろう。

結婚したとはいえ、生まれた場所も育った環境も違うのだから、
そう簡単に全ては分かり合えないことは分かるのだが。


家庭では・・・自分に関心の無い旦那に、世話の掛かる娘。
『妻』であり『母』である家庭には、心休まる場所は無い。

でも彼にさえも嘘を吐き、見栄を張って本当の自分を表に出さない美砂。


自分の本音を出せない人間関係ほど窮屈で辛いものはない。


男に甘える女の芝居は出来ても、
きっと本当に甘えることが出来なかったのだ。


家庭も仕事も、遊びでさえも力一杯やらないと、
それより巨大な寂しさ、空しさを忘れる事が出来ない。

きっと働く女性に共通する虚空感ではないだろうか。


男から見れば、仕事も遊びも一流の『やり手』の女。
でもこれだけは間違いない。


本当の美砂は孤独で寂しい『女』だ。


振る舞い上手でも、甘え下手な美砂の苦悩。
一人っ子で上手な付き合い方も甘え方を知らない、この俺の人生経験と重なり合う。


俺と美砂は、実はどこか似た物同士だったのかも知れない。


・・・・・・



 「ちょっと、聞いてるの?ねえねえ?」

焦り気味のマヤが声を荒げる。


「あ、ごめんごめん」
 「寝てたの?」

「違うよ、寝てないよ」
 「わかったー、どうせ美砂さんの事、思い出してたんでしょ」

「・・・・ああ、思えばいい女だったな〜ってね」
 「その言葉、美砂さんに伝えてあげようか?」

「いいよいいよ、向こうは俺のこと、もう思い出したくないだろうし」
 「でもね、ずっと言ってたよ・・・あの男、あの男って」


美砂に相当恨まれているのだろう。
あんな仕打ちをしたのだから、当然だが。


 「女ってね、そういう言い方してる時のほうが、
               本当は心から気になってるんだよね・・・」


意外なマヤの言葉だった。
俺は何か見えなかったものに気付かされ、息を呑んだ。

「言葉」は必ずしも、本当の心を表している訳ではない。




マヤも俺の事が気に入ってくれたのか、その後もテレコミで何度も話をした。

しかしマヤとは逢う事はなかった。
どうしても俺とマヤの間に存在する美砂の影に、
俺も強く求める事が出来なかったのだ。


俺との事で、美砂から心無い言葉を聞いているだろう。

例えどんな真意があろうとも、口を突いて出るのは悪口なのだ。
俺だって気分の良いものではない。





『釣った魚に餌をやらない』という慣用句があるが、
『釣った魚に餌もやらず、見向きもしない』男が増加している。

それと自由とは違うだろう。
また放任主義でもなかろう。


ハンティングは狩りをする課程を楽しむのであって、
狩りをし終えた獲物に関心を失う事もある。

でも相手は自分の人生を共に過ごす女性であれば、
その後の生活や人生も、最期まで見守る義務があろう。


心の繋がりのない男と女には、人智を超える信頼も奇跡もない。


相手は女性。
生身の人間だ。

自分の意志を持ち、自分の手足で行動できるのだ。
決して金銭やSexだけでは、繋ぎ止められないのだ。

当たり前の事実に、また余りの甘えに気付いていない男のなんと多い事か。





そのテレコミ店は、不況からかしばらくして店を閉めた。
マヤ、そして美砂ともそれっきりになる。


それにしてもテレコミは脆い関係である。
存分に遊びつつも、どこかで自嘲する俺。



  甘え下手な女は疲れる。
  特に不倫などの「遊びだと割り切った」関係になるとな。

  週3回だ?
  ふざけるなよ。
 
  もし旦那にばれたら、俺は責任持てないぜ。



甘え下手よりも、もっと性質の悪い「遊び下手な男」が、
そう自分自身に気付かないうちに言い聞かせていたようだった。



そういえば、マヤに言い忘れてた。
かねてからの疑問だった、美砂と俺に肉体関係があったかどうかを。







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☆ 毎度「華のエレヂィ。」を読んで戴いて、ありがとうございます。
  マヤの言葉は、美砂のうわべだけの鎧を引き剥がす鍵になりました。

  あなたは、大好きな人を「信頼」していますか?
  そして「信頼」されていますか?

  俺の場合は・・・大好きな人が仮にいても、「信頼」に値する人間という自信がありません。
  だから優しくなれるのでしょうか。
  だから横柄な振る舞いができないのでしょうか。
  だから・・・本当の姿を見せることが出来ないのでしょうか。


  お気に召したら投票&My登録を宜しくお願いします。

2002年07月29日(月)

あの遊戯の、その後。 前編
<前号より続く>



マヤのあまりに意外な言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になった。

俺は風俗遊びやテレコミ遊びは、誰にも一切秘密にしてあった。

からかっているのか?
本気か?

ただ過去に聞いた事のない声だし、その年齢での知り合いもいない。


「な、何故俺を知ってるの?」
 「何故って・・・そんなに聞きたい?」

「だって、おかしいよ。初めて話したのに」
 「でもね、うふふっ、知ってるの」


主婦らしい柔らかい声と口調で、どうにも意地の悪い事を言う。

俺は話の方向を変えて、マヤの真意を探ってみる作戦に出た。


マヤは兼業主婦で、仕事も持っていた。

彼女の仕事は保険外交員。
それも業界第2位の大手保険会社。

住まいは三重県四日市市。
今年幼稚園に通う男の子がいる。

まさか・・・・?

 「そう、そのまさか、かもね」


美砂だ。

ここまでマヤと共通するのは、奴しかいない。

美砂はマヤと同じ営業所の先輩にあたる。
子どもも同い年で同じ幼稚園に通う。


美砂が俺のことをマヤに話していたのだ。



 「美砂さんが色々聞いたから、こういうの面白そうだなって思って・・・」
「・・・・・・そう、なんだ」


俺はそれ以外の言葉も声も出ない。

美砂はあの後、職場で部下のマヤに様々な事を喋ってくれたそうだ。


 「あいつ新人の女の子なら飛びついてくるよ・・・って
                 言ってたけど、本当に来るとはね」

美砂は愉快そうに笑っていた。
俺は呆気に取られて、言葉も出ない。


 「いろいろ言ってたよぉ」
「何を?」

こうなったら俺も開き直るしかない。


 「声と外見のギャップが凄くて、見事に騙されたって」
「・・・・・・それで?」

 「だから遊ぶ気も無くなって、お茶しただけで帰ってきたって」
「・・・あ、そう」


女という生き物は自分に都合の悪い事だけを切り取って、
他人にそれが全てのように喋る。

いかに標的が悪いかを抽出して、そして自分の落ち度を濾過して、だ。


何がお茶しただけで帰ってきた、だ。
あの夜の真実を全て暴露してやろうか。


 「ね、本当の事を教えてよ」
「な、何?」

 「美砂さんと寝たんでしょ?」
「・・・何でそんなこと聞くの?」

 「だって有名よ、彼女。契約のためにだったら誰でも寝るって」
「・・・そうなんだ」


噂に聞く『肉体契約』か。
そいつは見上げた美砂の営業努力だ。

女の世界というは結束が固そうに見えて、何時裏切るのか本当に分からない。
俺が女という生き物の中で、最も忌み嫌う部分だ。



契約のためなら彼女は寝る、と言うマヤだが・・・
もしかして俺は保険契約の標的にされかかったのだろうか?

「何故私を抱いたのよぉ!」
まだ生々しい美砂の絶叫が脳裏をかすめる。

そういう意味だったのか?
いや、違うはず・・・しかし本音はどうだったのだろう・・・

複雑に絡み合う美砂への思い。




 「知ってる?美砂さん、ああ見えて18も年下の彼が居るんだよ」
「彼?・・・ああ」

 「一度旦那にばれたって言ってたけど、何時の間にか復活しているし」
「そんなことあるんだ・・・信じられないなぁ」
 
 「優しい旦那と彼が居て、そんな契約の噂でしょ。そりゃいい話はないわよ」


そういえば彼がいることは言っていたが、確か24歳だったはす。
彼女は32歳といっていた。
18歳も年下なら、彼は・・・中学生か?


 「そんな訳無いじゃない(笑)、その彼24歳だっていってたかな」

「・・・美砂さんって、いくつなの?」
 「私よりも8つ年上だから・・・42、3くらいじゃないかな?」

「そ、そうなんだ・・・」
 「彼女、歳より若く見られるから・・・騙されたんじゃない?」


歳よりも若く見られるとはいえ、10歳もサバを読んでいた。

本当は肌の衰えや皺を隠すために、部屋の電気を消せと言ったのか?
美砂の印象が微妙に変化してきた。


「騙されてた、かも(笑)。よく分かったね」
 「だって、彼にも本当の事を話してないみたいだもの・・・歳も誤魔化しているし」

「・・・有名なの?美砂さんは」
 「内輪ではいい話しないね・・・女のやっかみもあるけど」


私は嫌いじゃないけどね・・・と言い訳がましい枕詞をつけて、
マヤは美砂の話を聞きもしないところまで、どこか毒のある言い方で話す。


美砂は保険業のほかにお見合いのセッティング業も行っており、
そこで多額の謝礼を獲得している。

実質はかなりの高収入なのだそうだ。
旦那はやり手の美砂に圧されて、彼女の行動に何も言えないでいる。


「美砂さんって、売り上げトップなんだって?そう言ってたよ」
 「へ?彼女?トップなんて位置じゃないよ・・・中の上くらいじゃない?」

「そうなんだ、それも騙されたかな」
 「でも身体で取ってくるからぁ・・・本気出せば結構上位なのかも(笑)」

「本気ねぇ(笑)本当の話なの?」
 「あくまでそういう噂なんだけどね、無い事もあるように聞こえるから怖いね」

「女の世界は怖いね」
 「ノルマに届かない時は身体使ってでも達成しな!って言われちゃうし」

「そんな事言われるんだ!」
 「私はしないけどね・・・でもうちもセクハラ営業所だよね(笑)」



その後も冗談にしてはきついマヤの言葉が続く。

上司である美砂の、営業所内での微妙な立場を表しているようだ。


 「でさ、教えてよ。美砂さんと・・・したんでしょ?」
「興味ある?」

 「だってぇ、そういう話って盛り上がるじゃない」
「どうだったかなぁ・・・」


女の集団はいい話よりも、断然悪口で盛り上がる。


俺を悪く言いふらす美砂。
陰で美砂を悪く言いふらすマヤと仕事仲間。
そして美砂の悪口を聞く俺。

奇妙なトライアングルである。
関わりたくないものだ。



<以下次号>







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2002年07月26日(金)

怒りと決別の遊戯。 『朝焼け』


<前号より続く>


俺は問答無用に全力で腰を振った。
汗と愛液に濡れた男の肌と女の肌がぶつかり合う。
破裂音が響く。

美砂自身からの濃厚な滑りと匂いが俺を燃えさせる。
Gスポットに当たるらしく、美砂は狂おしいほどの反応を起こす。


剥き出しの尻と、スーツ姿の上半身。
男の欲情に火をつける、見事にアンバランスなコラボレーションである。

女も男の猛火に煽られ、また延焼していく。


 「ダメぇ〜〜〜〜、イッちゃうから〜〜、イックゥ〜〜〜」

美砂は間もなく下半身に鳥肌を立ててイッた。
でも俺は腰の律動を止めない。

 「お願い、止めて、止めて、止めてっ!また〜〜〜っ」
「イキっぱなしになっちゃえよっ!狂っちまえよ!」

 「あああああああああああああ〜〜〜〜っ、ああああああっ!」


俺は脱力する美砂を、強引に引き摺って部屋に入れる。

俺はそこでまだグッタリする美砂を床に仰向けに寝かせ、腿を開く。
そして、まだ勃つ俺自身を正常位から突き入れた。

半失神状態だったはずの美砂が、一気に意識を取り戻す。
俺にしがみ付き、背中に爪を立てて俺の律動を受け入れる。


「平良ぁ〜〜〜〜〜〜、ダメぇ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・」


俺が果てるまでに、美砂は一体何度絶頂を迎えただろう。
俺はこの日2度放出したが、彼女はきっとその数倍は迎えたかもしれない。


美砂は草臥れたぬいぐるみのように、あられもない格好でグッタリしている。
今晩は煙草を吸う余裕も、無意識に叩く憎まれ口も無い。


男をなめてきた美砂よ。
この姿、ざまあ見ろ。


俺は未だ押さえきれない。
玄関先の姿見を部屋に持ち込み、角に置く。

グッタリする美砂をうつ伏せに寝かせ、今度は尻から挿入する。
バックのつぶれた格好だ。

しかし、女という生き物は不思議だ。
グッタリしていても、挿入すれば息を吹き返し、再び喘ぎ出す。


「顔を上げてみなよ」
 「え・・・嘘ぉ」

「どうだ?男に悦ぶ美砂自身の顔は・・・・」
 「・・・ダメぇ止めて、恥ずかしい・・・」

「見てないと、抜くからな」


美砂は恥ずかしさから、嫌々ながらも鏡を見ていた。
快楽に耐え切れないのか、目を逸らすと動きを止めた。

俺が果てるまで美砂はさらに何度も昇天した。



遊戯の終了後。

まだ余韻に全身を痺れさせている美砂。

 「こんな抱かれ方もあるんだね・・・初めてよ、こんなの・・・」

「満足したか?」
 「・・・・・・うん、もうダメよ・・・他の男じゃ満足できないかも・・・」


そこで俺は美砂に告げた。

「今夜が最後だからな」
 「・・・・・え?何故?」

「決めたんだ、俺が。今夜が最後。もう会わないし、抱かない」
 「・・・・・」


虜にさせて突き放す事が、何より辛いはず。
俺は美紀子との経験を悪用しようと考えていたのだ。

百戦錬磨の美砂に、今更小手先のテクニックは通用しない。
意表を突く方法を思いつく必要から、今回の“遊戯”にたどり着いた。



美砂の大きな瞳に、みるみる涙が溢れてきた。

 「嫌よ、そんなの・・・何故、何故私を抱いたの?」

俺はそっぽを向いたまま答えない。
先日のハンドルに伏した美砂の態度そのままだ。


 「こんなに平良の事、好きになってしまったのよ・・・何故抱いたのよぉ?」

「決めたんだ。理由なんか無い」
 「嘘よ、こんな事ってあるぅ?答えなさいよ、何故私を抱いたのよ?!」


俺は言葉にして答える気は無い。
敢えて言葉にするとすれば、「学習しろ」といったところか。


 「答えなさいよぉ・・・・何故抱いたのよぉ!」

俺の身体を、美砂は涙ながらに力の入らない拳で何度も何度も叩く。
美砂は自分の世界で悲劇のヒロインを演じている様子だが、
俺には痛くも痒くも無い。


朝4時。
表には新聞屋のカブのエンジン音が聞こえる。


「最後ったら、最後」
 「・・・・・・ひどい、こんなに好きなのよ、平良の事・・・」

勝手に妄想で俺を作り上げ、自分の理想と大きくかけ離れていることで勝手に落ち込み、
今度は勝手に恋人気取りで、ふられて悲劇のヒロインか。


笑わせるな。



 「もう来ないから」

朝焼けがまぶしい時間。
美砂は玄関先で、足蹴にされたバッグを持ち、俺を恨めしそうに見つめる。


「ああ、もう来ない方がいい」

俺も冷たく突き放す。


美砂は玄関のドアを閉め、階段を足音を立てて下りていく。
俺はやれやれと思い、寝る準備を始めた。


電話が鳴る。
こんな時間に誰だ・・・と思い受話器を上げた。


 「ちょっとぉ!なんで追いかけて来ない訳?違うんじゃない?」

声の主は美砂だ。 

 「いいの?私、本当に帰っちゃうよ!」
「帰れよ・・・気を付けてな」

俺はそう返事をして、まだ未練がましい台詞を並べる美砂を無視して受話器を置いた。


数分後。
早朝の住宅街に、けたたましい程にタイヤを鳴かせて、
アウディは出て行った。


美砂がお土産にと残していったのは、
栄の松坂屋のB1にあったパン屋のミニクロワッサン。

 「行列に並ばないと買えない程だけど、美味しいんだよぉ」

美砂とまだ電話で話していた頃に、そんな話をした。

「今度遊びに行くときに、買っていってあげるよ」


約束は守ってくれたようだ。
俺はありがたく、ミニクロワッサンを戴いた。

口に運び頬張る度に、アプリコットジャムのほのかな甘味を感じる度に、
ちょっとひどい仕打ちだったかな・・・と省みる。

少々ハードな遊戯だったが、
彼女を痛めつける気持ちはなかった。


男という存在をなめる女は絶対に許せない。
なめられる男にこそ、問題の本質があるんだよな・・・

狙った女を自分のものにしようとする男は、気に入られようと何かと気を使う。
それはプレゼントであったり、デートのプランだったり。

女の機嫌を取るようでいて、下心があるのが男。
その下心を見破り、何時しか男の浅はかさに辟易する女。



もう会う事も無いだろうし、美砂とはこれっきりにするのだから。

でも、こんな仕打ちは金輪際にしよう。


俺の気持ちもあまり晴れていない。
後味の悪い、朝を迎えていた。








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俺は数日後の夜に、テレコミに電話した。
そこで新たに入った女性を紹介してもらった。
34歳の主婦で、源氏名をマヤという。


「初めまして、平良です」
 「初めまして・・・ふふふふっ」

「どうしたの?」
 「いや、何でもないの」

「何かおかしい?」
 「そうじゃないんだけどね・・・・私、知ってるの」

「何を?」
 「・・・・平良さんの事」


俺は一瞬心臓が高鳴った。
何故だ?




<以下次号>


☆ 毎度のご訪問、誠にありがとうございます。
  次回のエレヂィは、この話の後日談から始まります。
  ぜひ併せてご覧ください。
  どうぞお楽しみに!

2002年07月25日(木)

怒りと決別の遊戯。 『女の性』


<前号より続く>


次の日の夜。

 「平良?私。もうあと10分ほどで到着するから待っててね。お土産もあるから」

まるで恋人に思いを馳せる乙女のような口調での連絡が入る。
俺の鼓動が早鐘のように響く。


15分ほど経った時に、部屋のドアベルが鳴った。

傷付けるのではない、怪我させるのでもない。
思い知らせるのだ。

俺は若干の迷いを振りきった。
いよいよ、俺の“遊戯”が始まる。


今回は美砂からは何の指示もないが、俺は部屋の明かりを前回同様に全部消した。


 「お邪魔しまーす」


美砂がドアを開く。

俺は美砂の腕を引っ掴み、力任せに引き入れ、ドアを音を立てて閉めカギを掛けた。


暗闇の玄関先で、美砂を壁へ突き、押し付ける。

驚きで声も出ない美砂が、
手に持っていたルイ・ヴィトンのモノグラムラインを下に落とす。

俺はそいつを迷うことなく足蹴にした。
派手な音を立て、中身が壊れんばかりに吹っ飛ぶ。

俺は悲鳴を上げる美砂の両手首を左手で掴んで頭上に押し付ける。
身動きできなくなった美砂の顎を掴み、その唇を奪う。

舌を強引にこじ入れ、右の掌で胸を鷲掴む。

目が慣れて来た。
美砂は恐怖ではなく、恍惚の表情を浮かべる。


俺は美砂を靴箱に手を付かせた。
そして後ろから髪をかき上げ、首筋に吸い付く。
胸を今度は大きく揉み、乳房の芯を目掛けて愛撫を始めた。

美砂は早くも濡れた声を上げた。

 「止め・・・て、乱暴しないで」
「本当に止めていいのか、止めるぞ?ああ?」


俺は手を止め、美砂に大声で確認する。


 「・・・・うう、止め・・・ないで・・・」


美砂は対照的に消え入りそうな声で、肉体の欲望を告白する。

俺はそのまま前へ手を廻し、美砂のパンツのベルトの金具を外し、抜き取った。
そしてホックとジッパーを外した。


ここからがメインイベントだ。



俺は緩んだパンツとストッキング、そしてショーツまでに指をこじ入れ、
一気に下までずり下し、引き剥がした。
強引に、力任せに、そして乱暴に。


俺はその時点で玄関の明かりを点けた。
脇に姿身の鏡を置いていた。

美砂の上半身は仕事用のスーツだったが、下半身は全裸。
そんなあられもない姿が露になる。


「美砂、ヘア濃いよなぁ・・・・こうやって見ると、丸見えだな」
 「消してぇ!ダメぇ!」

とっさにスイッチに手を伸ばした美砂の右手を振り払う。

「もっとじっくり観ようぜ・・・毛の奥まで掻き分けてさ」
 「ダメよぉ・・・」


半ベソの美砂の代わりに、俺が明かりを消してやった。


靴箱に手をつき、露になった美砂の尻に、俺は舌の先を這わせる。
あくまで触れるか触れないかで。

美砂は腰に力が入らないのか、さらに尻を突き出す格好になる。
美砂自身からは、欲情した時の匂いがする。


俺は突き出した尻の後ろから指を二本、問答無用に挿入する。

美砂自身は何故かすでにぐしょ濡れ状態。
いきなりの挿入にも、指の動きに合わせて粘質の音が響く。
そして美砂の腰も動いていた。

立ってられない美砂は、壁にもたれて立とうと踏ん張る。
しかし腰が極端にひけており、我慢も長続きしなかった。

床に伏して四つんばいになった美砂は、あまりの展開に我を見失っているようだ。

しかし俺は見逃さなかった。
美砂は明らかにこれら一連の愛撫、いや遊戯の快楽に
存分に酔いしれた恍惚の表情を浮かべていた事を。


俺の狙い通りだ。

美砂の喘ぎ声はさらに艶やかになる。
俺は美砂をあお向けに力づくでひっくり返し、口を掌で強引に塞ぐ。


「こんな所で声を出したら、表に声が聞こえちゃうよ・・・」

美砂自身を攻めた右手の人差し指と中指を、今度は美砂の唇に押し込んだ。
一瞬歯を立てたが、指先をフェラするように味わいつつ舐め出す。


「味は?」
 「・・・しょっぱい」

「これが美砂の味だよ、ここのな・・・・」


俺は美砂の肉付きのいい腿を開き、美砂自身を舐める。
ふくらはぎから太腿が、舌の動きに合わせて震えて揺れていた。


 「や・・・めてぇ、お風呂に・・・お風呂に入らせてぇ!」

「ダメ」
 「仕事・・・お・・・終ってそのまま・・・来たのに・・・あうっ」


美砂の身体は甘い汗の匂いがする。

出来るだけ音を立てて吸うと、
美砂は今まで以上に腰を波打たせて泣き喘いだ。

すでにイキそうになった美砂を、ぱっと手放す。
意地悪に焦らす。


美砂は何とか這いつくばって部屋に入ろうとしたが、
俺は美砂の腰を掴み、力任せに引き寄せる。

体重は倍以上違う俺と美砂。
美砂は簡単に俺に引き寄せられる。

「逃げたい?俺の、いらないんだ?」

 「・・・・・欲しい・・・」
「どこに?どうして欲しい?・・・全部答えろ」


俺は言葉攻めで、美砂に淫猥な単語を一通り言わせた。

「そんないやらしい言葉を、もう平気で言えるんだな」
 「・・・言わせるんじゃない・・・平良が・・・」

「俺のが欲しいから言うんだろ?止めるぞ!」
 「ダメよぉ!ダメ!・・・止めないで・・・」 


おそらく男との情事では「いい思い」ばかりしてきただろう美砂。
今夜ばかりは、そうはいかない。

美砂はすでに自分の欲望を抑える理性を失っている。


俺はバックから、問答無用で美砂自身へ挿入する。
悲鳴に似た声を上げつつも、決して美砂は逃げない。

背中をグイッと仰け反らせながらずぶ濡れの自身を押し付け、
俺をさらに奥まで咥え込み、味わおうとする。

逃れたいはずなのに、逃げない。


女の性(さが)は不思議だ。



<以下次号>







↑エンピツ投票ボタンです。次号が美砂編の最終話です。



2002年07月24日(水)

怒りと決別の遊戯。 『高飛車』


<前号より続く>


「シャワーはもう準備できているからさ」
 「そう、じゃあ浴びようか」


俺は美砂の手を牽いて、風呂へと向かう。
自分の部屋でも、全て手探りというのも貴重な経験だ。

目も慣れてきたあたりから、美砂の肉体も目に入るようになった。
恥ずかしがるほどの肉体ではない。
ちゃんと乳房もある。
傷もある風ではない。


ボディシャンプーを泡立て、美砂の身体を洗う。
俺の掌、指先の動きのひとつひとつを肌で感じている。

感じやすい身体だ。

気分も盛り上がってきたのか、顔を上げて俺にkissをせがむ。
俺もそれに答え、美砂の薄い唇を吸う。


美砂は勃つ俺自身に手を添える。
今にして思えば、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
狙った獲物を自らの力で捕獲したかのような。


シャワーから上がり、やはり手探りで布団を引いた。
白いシーツが、ほんのりと暗黒に浮かび上がる。


美砂のタオルを剥ぎ取り、首筋に吸い付く。

濡れた音と美砂の声が真っ暗闇な部屋に響く。



 ・・・・


 「平良ぁ、煙草、擦っていいよね?灰皿は?」

「俺が吸わないから無いよ」
 「何でもいいよ」


一通りの情事の後。
俺は空き缶を灰皿代わりに差し出す。
その時、美砂はすでに煙草をくわえ、火を点けていた。

俺は一瞬、気分を害した。


 「私ね、本当は帰ろうかと迷ってたの」

「車の中でか?」
 「うん。だってね・・・」


紫煙を吐き上げつつ、さらっと俺の自尊心を傷付ける言葉を口にした。

 「だって平良って、声と同様にもっと格好良いんだと思ってた・・・」

「・・・・・・」
 「ショックだったもの、私さぁ、少年隊のヒガシだと思ってたから」

「・・・・・・」
 「あまりに予想と違ってて・・・」


俺はあんなに理想的で完成された男ではない。
顔も、運動神経も、体型もちがう。

何なんだ、この女・・・。


自分勝手に妄想上の俺を作り上げておいて、
俺の姿を見た途端にショックを受けたらしい。
だから、「嘘・・・」とうなだれつつハンドルに伏したのか。


「だから、部屋の明かりを全部消してって言ったのか・・・」
 「だったら、平良の姿を見ないでH出来ると思ったから」


はっきり言って、美砂も男に注文できるほどの美人ではない。

頬骨あたりに10円玉大のシミがある。
これを見られたくなかったから、部屋の明かりを消せと言ったのだと思っていた。

やはり顔の欠陥は観られたくないのだろう。
女性ならではの心理か、とばかり思っていた。

俺は呆れて言葉も出ない。


「・・・・・・」
 「だって優しい声と言葉が、あの平良だぁって思ったから・・・」

「・・・から?」
 「抱かれてみようと思った。でも本当によかった・・・」


俺は次の言葉を見つけられない程、呆れた。
自分勝手で自己完結型の、随分な高飛車女だ。



時間が3時を過ぎている。
着替えを済ませた美砂は、俺に言い切る。

 「ね、週3回は会おうね」

「しゅ・・・週3回?」
 「そう。心配しないで、私がこっちに来るから」

「そういう意味じゃなくて・・・」
 「週末は家族の時間なの。だから平日一日おきね。例の彼なら切っちゃうから」

「そうじゃなくてさ・・・」
 「平良、最高に良かったもの。今度は生理明けだから。じゃあね!」


美砂は俺の考えなど何も気付かずにご機嫌で部屋を後にした。


俺は美砂との時間を後悔した。
女を抱いて、これほどの気分の悪さを感じるなど、思っていなかった。



どうせこうなるなら、俺にも考えがある。


男の気持ちを踏み付けることを平気で言い、
やけにプライドの高い美砂の鼻をへし折るようなSexをしてやる。

俺は作戦を練った。

身体を傷付けたり、怪我させることは俺も望まない。
しかし明らかに男を見下すような態度を取る女は嫌いだ。

それにあんな女、嫌われようと構わない。


何も知らない美砂は、一週間後に電話してきた。

「生理終ったから。明日の夜に行くね」

 「ああ、溜まっちゃってしょうがないから、早く来てね」
「ふふっ、浮気していないのね・・・可愛い」


ちょっと白々しい演技だったか。
美砂も相変わらずな女だ。

愚かな女と、そんな女に芝居を打つ俺に、自分で嘲笑すら漏れる。


<以下次号>








↑エンピツ投票ボタンです。次号は過激です。過激な文章が苦手な方は、ご注意ください(?)。


2002年07月23日(火)

怒りと決別の遊戯。 『嘘・・・』
<前号より続く>


月曜日の夜になった。
俺はその夜の情事に心を馳せ、深夜にも関わらず部屋の大掃除を敢行していた。


そんな中で、軽やかな電子音で電話が鳴る。
美砂からだ。

 「今ね、仕事が終って直行しています。東名阪道から名古屋インターを過ぎたところよ」
「じゃ、そんなに時間掛からないかな」

 「だから・・・もうちょっと待っててね」
「気を付けておいでよ」


当時としては珍しい携帯電話から我が家に電話してくる。

その携帯を駆使して仕事に邁進し、遊びに没頭する。
平成初期に流行った、新しい女の象徴・・・an-non族的なライフスタイルだ。


それから20分程してから再び電話。

 「高速を降りて、言われた通り国道を走ってるよ・・・どうすればいい?」
「そのまま道なりに走ってくれればいいよ」

 「このまま?」
「そう、それで10分ほど走ると・・・消防署と歩道橋が見えるから・・・」

 「見えてから、どうするの?」
「そこから2つ目の交差点を左に曲がって、団地の脇に車を停めてから電話して」

 「分かった、その時にまた電話するね」


程なく、三たび電話が鳴る。

 「ここで良いかな?着いたよ」

携帯電話というのは、便利な代物だとこの時に思った。

部屋からその団地脇を見遣ると、一台の車が停まっている。
濃緑のアウディだ。

俺は部屋を出て、美砂を迎えに向かう。
街灯の明かりに照らされた車内には、女性の人影だ。
間違いない、美砂だ。

俺が近づくのを分かったのか、パワーウィンドを下す。


「初めまして、平良です」

俺は努めて笑顔で挨拶をした。
しかし美砂は、俺の理解をはるかに超えた一言を浴びせた。


 「嘘・・・」

美砂はそううめくように言った後、ハンドルに伏してしまった。


「どうしたの?体調でも悪いの?」
 「・・・・・・」僅かに首を横に振る。

「仕事で何かあったのか?」
 「・・・・・・」今度は何も返答がない。

美砂の態度に戸惑っている俺は中身のない話を繋げるのが精一杯だった。

 「独りにして・・・お願い」

会話も途切れてきた頃、美砂はそう言いウィンドーを閉めた。
俺も一度部屋に引き上げた。

あまりに不可解な美砂の態度に、俺は何か不手際があったか・・・と不安になった。

人は時に、何の気もなく起こす行動で他人の心を傷付ける事がある。



俺が部屋に引き上げて20分ほど経った。
落ち着かないまま、「きょうの出来事」を観ている。
一方、美砂からも何の行動もない。

俺は部屋のドアを開け、団地脇を見遣った。
美砂を乗せるアウディは、まだ街灯の下に停まっていた。

正直、もう帰ったのかと思っていたが・・・一体どうしたのだろう。


俺は再び美砂を迎えに行く。

美砂はハンドルから顔を上げていた様子だが、俺に気付いてまた顔を伏せた。
ウィンドウをノックすると、モーター音をさせつつ降ろす。


「どう?まだ何か迷っている?」
 「・・・・・・」美砂はまたしても黙して答えない。

「時間、どんどん遅くなるよ」
 「・・・・・・」

「俺、もう少し部屋で待ってるわ」


引き上げるしか、俺もなす術がない。


それから30分。
まだ美砂は居るのだろうか?
ドアを開けて覗くと、まだ同じ場所に停まっている。

いい加減、夜もふけてきた。
互いに次の日には仕事がある。



俺は半ば追い返すつもりで三たび美砂のもとへ向かう。
美砂はやはりハンドルに伏していた。


「どうするの?時間も遅くなるよ」
 「・・・・・・」相変わらずハンドルに伏したままの美砂。返事もない。

「そんなに嫌なら、機会を改めてもいいよ」
 「・・・平良、部屋は何号室?」

「え、201号室だけど」
 「・・・後ろの新しいアパートでしょ?」

「そうだけど・・・」
 「行く気持ちになったら、電話するから。一つお願いがあるの・・・」

「お願い?何?」
 「私が行く時には、部屋の明かりを全て消して欲しい」

「全部消すの?」
 「真っ暗にして欲しい。いい?」

「・・・分かった、でも・・・」

美砂はそう言うと俺の問いかけを無視してウィンドウを閉じてしまった。


俺はイライラしつつも深夜のバラエティーを観て時間を潰すしかなかった。
お笑い芸人達の賑やかなパフォーマンスにも、笑えない。

それからまた30分ほどして、電話が鳴った。


 「今から部屋に行くから、部屋の明かりを全部消して」


俺は言い付け通り、部屋の明かりを全て消して回った。
天井の豆電球に至るまで。
カーテンも閉め、外からの明かりも遮った。

間もなくドアベルが鳴る。

中からカギを開けると、ドアが開く。
そこには、思ったよりも小柄な美砂が立っていた。


 「入っていい?」
「ああ、どうぞ」

真っ暗闇の部屋、美砂の手を牽いて部屋に案内する。

今まで何人も客を呼んだが、こんな対応は前代未聞だ。


「ね、長い時間、何を車の中で迷ってたの?」
 「今は言えない・・・」

「でさ、いつも真っ暗闇にするの?」
 「・・・そういう訳じゃないけど」

「俺、何人かの女性に会ってきたけど、こんな人初めてだよ・・・」
 「そう?じゃ貴重な経験じゃない」


それ以外の会話の節々にも
『私がわざわざ出向いてやった』という意図を感じる。


それにしても、今夜の部屋は本当に静かだ。
俺と美砂の会話以外には、エアコンの室外機の音しかしない。
国道の方面からも、まるで通行車両の音が聞こえない。

明かりだけでなく、音まで遮っている様だ。


もう午前1時前だ。
今夜の彼女の目的は分かっている。

「シャワー、浴びようよ」
 「いいけど、明かりは点けないで」 



<以下次号>









↑エンピツ投票ボタンです。宜しくお願いします。



☆ 感  謝 ☆

7月23日付の七姫さんの『倖せな痛み。』にて、「華のエレヂィ。」が紹介されました。

「七姫(ななき)」さんと恋人の「りあると」君との恋愛日記です。
女性の微妙な心の動きが瑞々しい表現で、ストレートに文章で表現されています。
そして壁紙のガラスのウサギも涼しげで、可愛い演出だと思います。

俺もうらやましい・・・と思いつつ、毎日訪れて読ませてもらっています。
大好きな日記の一つです。
是非、日記も恋愛も頑張ってくださいね。


そういう読者の方々から支持されることが、俺の何よりのエネルギーです。
今後とも「華のエレヂィ。」を宜しくお願いします。


2002年07月22日(月)

怒りと決別の遊戯。 『やり手』

女性の社会進出が本格的になってから、しばらく経つ。

未だに女性への風当たりは若干あるものの、女性の管理職も見られるようになった。
男がだらしないのも一理あるが、個人の力量に性別は関係ないと思う。

女性の視点というのは、時々感心させられる。
しかし感情的になり過ぎ、物事の本質を見失うこともある。

男と女で成り立つ社会。
両方が活躍できるのが、きっと理想だと思う。

ただ女だけが飛び抜けるのも問題だ。




テレコミで出会った、三重県四日市市の主婦と仲良くなった。
聡明な話し方と声が好印象だ。
そして次々と繰り出す話題も豊富で、会話も否応なく盛り上がる。

話を聞くと、仕事もこなしているのだという。
八面六臂に活躍するやり手の女性か。


名前を美砂(仮名)といった。
32歳の保険外交員。
業界第2位の生命保険会社に勤務している。

優しい旦那と結婚して7年、幼稚園に通う娘が1人いる。


どこか寂しげな主婦が、自分の心の隙間を埋めるために電話するのは理解できる。
だが彼女のようなやり手の彼女がなぜテレコミに掛けてくるのか?

そんな疑問をぶつけてみた。



 「寂しいわよ。だって旦那は私の相手をしてくれないんだよ」
「どういう相手?」
 
 「夫婦だもん、話を聞いて欲しい時もあれば、抱いて欲しい時だってあるじゃない」
「そうだね。旦那さんはどんな人?」

 「普通のしがないサラリーマンよ」


聞いてみると、美砂は旦那よりも稼ぎがいいそうだ。

 「私ね、うちの支店でトップなのよ。だって誰にも負けたくないじゃん」
「ははぁ、そういうことかぁ・・・・」


男とは繊細な生き物で、女性より優れていたいもの。
そして、どこかで女性に尊敬されていたいものなのだ。
それが自分の家庭であれば、尚更の事。

自分よりも嫁のほうが稼ぎがいいのであれば、旦那が怖気づく気持ちも分かる。
男とは、そういう部分では繊細なのだ。


美砂のどこか高圧的な話し方も、自分への自信の表れなのか。
家庭の中心は私だと言わんばかりの言い方をする。


 「旦那の方から何時しか寝室を出て行かれて・・・」
「何も無いの?」

 「うふふふっ、そんなわけ無いじゃない」
「どういうこと?」

 「いるわよ、彼くらいは・・・」


現在、24歳のセックスフレンドがいるという。
週1〜2回、夜に情事を楽しんでいるそうだ。


「旦那さん、何も言わないの?」
 「私のやることには口出ししないわよ、大人しく寝てるし」

「じゃ、やり放題だなぁ」
 「でもね、誰でもいい訳じゃないからね」


性に奔放な女性は、誰でもいい訳じゃない・・・となぜか同じ事を言う。


「うらやましいねぇ、その男。美砂さんと俺もそんな付き合いがしたいなぁ」
 「何、平良君はいないの?彼女は」

「いないんだ・・・別れたばかりでさ」
 「なんだぁ、もったいない」


当時26歳の俺は、付き合っていた女性と別れたばかりだった。

欲望と体力を持て余し、『女なら誰でもいい』時期を、
男なら誰もが一度や二度は経験あるだろう。

そういう時期に差し掛かっていたのだ。


 「じゃ、Hはどうしているの?」
「う〜ん、こういう所で電話でしたりする・・・そのくらいかな」

 「電話でしちゃうの?いやらしいんだからぁ」
「だって、道を歩いている女性に頼むわけにはいかないし」

 「どうやってするの?」
「美砂さんはしたこと無いの?」

 「あるっちゃあるけど・・・平良君の話が聞きたいな」


年下の男をからかう口調の美砂。
その話し方からして、結構年下の男に慣れている様子だ。


 「こういう電話って初めてだから、すごく緊張しちゃうもんだね」
「でも、相当遊んでいるって言ってたじゃん」

 「だからって、男が変われば・・・初めても同然よ」
「いやいや、これからは師匠と呼ばせていただきますよ(笑)」


美砂との時間はあっという間に過ぎていく。
頭の回転の良い女性だった。話題に事欠かさない。
そしてどんな話題にも返答をし、向こうからも返してくる。

その時は夜の会話らしく、話題はあられもない方向へと向かう。


 「ね、電話でHしたい?」
「俺?当たり前じゃん・・・美砂さんがその気になれば、俺始めちゃう・・・」

 「私ね、そういう気分じゃないんだ・・・」
「そうか・・・残念っ」

 「・・・電話じゃ嫌だって言ってるの・・・分かる?」
「どういう意味?」


耳に吐息が掛かり、くすぐったくなるような甘い声で囁く。

言いたい事は分かっていても、自分で言うのは何か負けた気がする。
美砂の口からその真相を語ってほしい。


「俺、はっきり言ってくれる人、好きなんだな」
 「もう・・・平良君と、本当に会って、したいな・・・ってこと。興味あるの」

年下の男の子を虜にし続ける悪女は、こういう語りで誘惑するご様子だ。


「俺は今からでも良いんだけど(笑)。でも遠いだろ?」
 「大丈夫よ、東名阪道で名古屋まで出て、そこからそう時間掛からないよね?」


俺の住む街にも、仕事の関係上出張する事もあるそうで、
女性には珍しく車の運転にも不安はないそうだ。

夜に高速道路まで使って男に会いに行く・・・そんな行動力のある女性も珍しい。


 「でも、今夜は我慢して。もう午前様だし」
「いつならいいの?それまで俺、我慢して待ってようかな(笑)」

 「そうね・・・仕事の都合もあるから、次回の電話で決めましょう」
「そうだね、次の楽しみが出来たよ」


見事なコンティニューで、次に電話せざるを得ない状況となった。
さすがは支店トップの外交員だ。



1週間後。
前回と同様に時間にテレコミに電話し、指名をかける。
数分後にコレクトコール。


「何時頃なら、美砂さん大丈夫?」
 「そうだなぁ・・・明後日の夜はどう?」

今夜が土曜日なので・・・月曜日か。

「いいの?そんな平日の夜で」
 「構わないよ、私なら。丁度生理前だし」

「・・・生理前ってどうなの?」
 「なんだ、平良君知らないんだぁ・・・生理前の女って、淫らなのよ・・・」


当時の俺は生理のサイクルで女性の性欲までが移り変わるものだと思わなかった。

美砂の囁きに、またしても過敏な性欲を刺激される。
俺はすぐにバイクで四日市へ飛び出したくなる衝動を覚える。


「淫ら・・・か」
 「そう。教えてあげたいな・・・女を」

「俺もね・・・美砂さんをもっと知りたいよ」
 「そういう素直な子って好きだな・・・もう濡れてるかな、私」

「もう?」
 「だって、今も生理前よ・・・」

「今からでも、会いに行って美砂さんを抱き締めたいな」
 「そんな、平良君の声で言われたら・・・我慢できなくなるじゃない」


美砂は、艶やかな俺の声が好きだという。

俺の声は女性の誰からも誉められる、俺の唯一の売り。
今から思えば、露骨過ぎるほど誉めてくれた。

男を盛り立て、やる気にさせるのは、女からの賞賛なのかも知れない。


「いいよ、明後日の夜だな。空けとくよ」
 「良かった・・・浮気しちゃだめよ。他の女にも、自分の手でも」

「自分の手?」
 「そう。あなたの感じる所を一番知ってるでしょ?・・・私にとっては浮気なの」

「面白い例えをするね」
 「だって、負けたくないもの。私が一番でありたいの」

「分かった。我慢するよ」
 「楽しみだなぁ。明後日の夜・・・」


オナニーすら許さない、という美砂。
それだけ自信を持っているのだろうか。

面白い女だ。


<以下次号>








↑エンピツ投票ボタンです。今回は5話構成です。

2002年07月18日(木)

浪速の聖母の安息日。 〜忘れさせて〜

<前号より続く>


俺はチエミ自身にむしゃぶりついた。
俺は両手で腰を押さえつけつつ、チエミの突起を舐め、吸う。

チエミはこういう経験が無い。
恥ずかしいと抵抗し、イッちゃう!と連発し、
俺の髪を掴んで引き離そうとする。

俺だって負けない。
さらに舌で転がし、陰唇まで舌を這わす。

充分すぎるほど潤った。


俺はチエミと、ひとつになった。

 「なあ、なあ、好きや・・・」
「俺もだ・・・」

本気でなくても、この一言が逢瀬のスパイス。
しかし次の言葉に、俺は心を動かされた。

 「忘れさせて、お願い・・・何もかも・・・忘れさせて!」


尼僧でも、シスターでもない。
チエミだって、普通の女だ。


ほんの一時の儚い快楽でも、辛さも苦しさも、何もかも忘れるほど没頭したい。
毎夜に及ぶというバイブオナニーも、きっと現実からの逃避なのだ。
チエミを、必要以上にいとおしく感じる。


年齢の割に深い目尻の皺。
人知れず、試練に顔を歪ませていた何よりの証拠。

俺はチエミの両膝を抱える。
チエミに繋がる部分をより締め付けるようにした。


俺に全身の力を振り絞ってしがみ付くチエミ。
俺も次第に力を込めて、チエミを突き上げる。

俺自身で、チエミのGスポットを圧すように、突く。
あたる、あたる・・・とうわ言のように繰り返す。


そしてチエミの両膝を伸ばして俺の肩に担ぐ。
そのまま彼女に覆い被さり、奥まで差し入れる。
やはり痛いのか・・・顔を歪めるものの、俺をそのまま受け入れる。

 「そのままでええ、そのまま・・・来て」


今度はバック。
チエミを四つん這いにする。
すでにチエミ自身は緩み、雫を垂らして口をあけていた。

細い腰を鷲掴み、全力疾走で腰を振る。
言葉にならない声をあげ、のたうつチエミ。
シーツを離しては掴み、髪を振り乱して俺の律動に答える。




汗と、愛液と、精液にまみれ、ぐったりとするチエミ。
ベッドに倒れこみ、深呼吸を繰り返す俺。

俺も久しぶりに精根尽き果てる。
貧相な体つきからは信じられないほどのパワーだ。

「こんなに激しくなるとは思わなかったよ」
 「私も・・・初めてや・・・」


チエミは男性経験は1人だけ・・・・結婚した旦那だけだった。
淡白だった旦那は、自分のしたいときだけ近寄ってくるタイプ。

愛撫も無い。
下半身だけ互いに晒して、勃てば挿入して、果てれば終わり。
そして自分だけが満足すると、背中を向けて寝てしまったそうだ。

それがチエミ夫婦の営み。

独り取り残されるチエミは、どんな心境で夜を過ごしたのだろう。


「経験1人でも、こんなに激しくして、痛くなかった?」
 「・・・・・なんでそんなこと聞くん?分からへんか」


彼女の肉体を心ならずも開発したものは、バイブレーターだった。

 「私な、バイブでなけりゃイケへん女なんやと思ってた・・・
     本物の男の人のが、こんなに良いもんやって、すごいショック・・・」

「今日は、何回イケた?」
 「数えてへん、覚えてへん、真っ白になってもた・・・・・・」


しばらくベッドで抱き合い、まったりとした時間を過ごす。
今度は和気あいあいとシャワーを浴び、着替える。

ホテルを出ると、すっかり難波は夜の街となっていた。


近鉄難波駅まで送ってくれるとチエミが言う。
俺たちは一緒に歩いた。

次の近鉄名古屋行きのアーバンライナーの出発時間まで、30分以上ある。
俺とチエミは地下街の喫茶店で名残りの喫茶。

グレープフルーツジュースを味わう俺に、チエミが話し掛けてくる。

 「あのな、今日、おもちゃ持って来てへんって言うたやろ」
「ああ、さっきな」

 「あれな、嘘。ホンマは持ってきてたねん」

チエミは黒のバッグに手を入れてみろ、という。
手を入れてまさぐると、紙袋に入ったバイブらしき物体。

「何?今から使おうかって?」
 「何言うてんの!」

「いいよ、今からトイレで使おうか?」
 「アホ!知らんわッ!」

チエミは破顔して、俺に突っかかる。
満更でもない表情だったくせに。


数時間前に逢った時の不健康そうな顔色と別人のように、
血色も良く、肌つやのいい顔になった。

Sexとは不思議な行為だと、つくづく思う。
特に女性はいいSexをすると、女として息を吹き返したかのようになる。


時間が近づいてきた。
俺たちは構内に入りホームに向かう。
アーバンライナーはすでに入線していた。

俺は電車に乗り込み、窓側でチエミを見つめる。
チエミは外から、何とも言えない瞳で俺を見つける。
メガネの奥は、少し潤んでいるように見えた。

俺とチエミの間にある、特急列車の開かない窓。
姿は見えるのに、向こう側の声もまともに聞こえない。

別れの演出にしては、ちょっと切なすぎる。


電子ベルが鳴り、発車の合図と共に、電車はホームから滑り出す。
チエミは俺が見えなくなるまで、手を振りつづけてくれた。

俺も、見える限りで手を振った。
同乗する乗客の視線も省みず。


たった一日であったが、母親を休んだ日。
チエミも、この後大樹のお迎えに向かう。厳しい現実へと帰っていくのだ。




一週間後。
チエミから電話があった。

 「こないだは、ホンマにありがとう」
「いやいや、こちらこそ」

 「あのな、もう一つお願いしていい?」
「改まって、何よ?」

 「クリスマスイブに、もう1回逢いたいねん」
「クリスマスイブかぁ、俺が大阪に行くのか?」

 「今度は私が名古屋に行こぅ思うてんねん」


今は11月初旬。
1ヶ月半後には、クリスマスが控えていた。

別に予定があるわけでもなかったのだが、
一つ気になることがあった。

「大樹はどうするの?」
 「そうやなぁ、まあどうにでもなるんやない?」


俺はそういう返事を期待したんじゃない。
きちんとしてくれれば、きっと楽しい時間を過ごせたかもしれない。

その瞬間、電話で聞こえた大樹の泣き喚く声が脳裏をかすめた。


俺は返事した。
「クリスマスイブの日は・・・・・彼女と、約束があるんだ」


俺に会いたいと言ってくれる気持ちは素直に嬉しい。
俺だって、名古屋の街を二人で歩いてみたい。

もう一度チエミを抱きたい気もある。
前回以上に濃厚なSexも可能だっただろう。 

でも、残された大樹はクリスマスを施設で独りで過ごすのだ。

少しずつ心を寄せてくれるチエミの気持ちは嬉しい。
しかしいろんな意味で、今の俺には彼女と大樹を背負うほどの力は無い。


そんなことは無いだろうが・・・
もし俺とチエミがもっと緊密になれば、さらにどちらも気持ちが傷つく。



 「ホンマか、じゃ、しょうがないなぁ・・・・・・」
夢を壊され、落ち込むチエミ。

 「・・・・・・あ、そう、私な、あのテレコミ辞めたから」
「そうか・・・」

 「平良なら、彼女幸せに出来るな・・・大事にしたりや、じゃあね」


チエミはさっさと電話を切った。
俺は最後までチエミの電話番号を教えてもらってなかった。

その電話以降、チエミの声を聞くことは無かった。




  昼夜構わず 働き通しも
  泣き出す我が子に 眠れぬ夜
  
  苦情の度に 頭(こうべ)を垂れて
  我が子のために 詫びる日々

  か弱い身体で 覚悟を決めて 
  我が子を守ると 鞭を打つ

  疲れた身体に また鞭を打つ
  草臥れ果てた 母の顔   


  浪速の聖母に 安息日をと
  俺も一緒に 神に乞おう
  
  母を休んで 女に戻る
  そんな時間が あってもいい 

  復活したら 母に戻りて
  次の試練に いざ向かえ



とっさにしてもあまりに下手な、俺の“優しい嘘”だった。







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☆ 毎度のご訪問、ご精読ありがとうございます。
  自閉症児への偏見や誤解は、相当根深いものがあります。

  この「華」を通じて、その偏見や誤解を取り払い、
  自閉症者ならびにその家族への正しい理解を計れれば幸いに思います。

  ・・・・・・っても、無理かな(笑)アダルト分野のエロ日記じゃ。
  こういう女性も、試練に負けず頑張っているということだけででも、
  心に留めていてください。

  My登録&投票を宜しくお願いします。
  次回の「華のエレヂィ。」をお楽しみに。



2002年07月17日(水)

浪速の聖母の安息日。 〜アホ〜

<前号より続く>


部屋の隅には、半ば錆び付いたゴムの自販機。
そして轟音を立てる空調が効き過ぎて、肌寒いほどだ。

チエミはベッドの隅に座り、硬い表情で考え込んでる様子だ。

やはり初対面の男とホテルに来る事に何か抵抗があるのだろうか。
それとも大樹を施設に預け、自分だけ男と遊ぶ事に
どこか引け目を感じているのだろうか。


「どうしたの?俺とここに来る事に抵抗ある?」
チエミは何も答えない。

「息子の事が気に掛かる?」
チエミは何も答えない。

俺は風呂に湯を張る間、ずっとチエミに語りかけていた。
チエミはほとんど何も答えなかった。


「お湯が入ったから、一緒に入ろうか?」
 「・・・・・・いや、一人で入って、ダメ・・・・」

ようやくまともな返事をしたのは、こんな会話だった。

「だって、俺一緒に入りたいんだけど・・・洗い合いっこしよっか?」
 「・・・・・・アカンて、旦那とも一緒に入ったことないんやもん」

「俺、独りで入るのぉ?」
 「・・・恥ずかし過ぎるもん、アカンよぉ」


ふて腐れた俺は、独りで服を脱ぎ、風呂に漬かる。

「なあ、こんな機会ないよ、一緒に入ろうよ!」
俺はさらに風呂から呼びかけた。



数分後。
風呂のガラス戸が音を立てて開き、
メガネ以外全てを脱ぎ去ったチエミが入ってきた。
覚悟を決めた女というものは、大胆だ。

小柄で細身の印象を受けたチエミは、
裸になると一層貧相な肉体だった。

存在すらよく分らない程の乳房。
触れると取れてしまいそうな乳首。
肉のない、丸くない尻。
全身を覆う産毛。
濃いヘア。

女として魅力に欠け、自信も無い肉体を晒すことに
抵抗があったのかもしれない。


俺は風呂から上がり、洗い場でチエミに湯を掛ける。
ボディシャンプーでスポンジを泡立て、
まず背中から腰に掛けて流していく。

チエミのメガネを外し、脇へ置く。
そして今度は素手で、胸板の方へ泡を盛る。
感覚はすでに愛撫だ。

チエミはくすぐったいのか、時折腰をくねらせる。
声が漏れそうなのを必死で我慢している。


俺は背後から乳首をつまみ、転がしてみた。

チエミは壁に手をつき、身悶えている。
貧相な肉体からは見た目分らないが、とても敏感だ。

すでに勃つ俺自身が、チエミの尻の割れ目に当たっている。
俺はそのまま押し付けてみた。


「分る?」
 「アホ、でも嬉しい・・・・」

後ろに手を回し、掌で俺自身を掴むチエミは、
何時の間にかもう女の顔だった。


泡をシャワーで流し、そのまま二人で風呂に入る。
俺が先に入り、チエミを抱きかかえるように湯に漬かる。

俺自身が再びチエミの尻に当たっている。

俺は前の方からチエミ自身に指を伸ばした。

ビクッと激しく反応した。
指先には、偽りない女の滑り。


「身体を洗ってる時から、濡れてたな・・・・」
 「・・・・・・だって、手つきもいやらしかったやん・・・・」

「嫌だったか?」
 「アホ・・・・分かるやろ?」

とぼけた会話が風呂場に響く。



風呂を上がった俺たちは、ベッドに戻るとどちらからとも無く
いちゃつきだす。
チエミも緊張がほぐれつつあったようだ。

俺とチエミ、ふと目が合う。
つぶらな瞳が、俺の身体の向こうまで見通すように真っ直ぐ見据える。

俺はそのままチエミの唇を奪った。
不器用ながらも、必死に舌を絡めてくるチエミ。
意外にも濃いニコチンの香りと味がする。

チエミの胸をまさぐる。
本当に脂肪の無い乳房を、掌いっぱいで肉をかき集めるように揉む。

チエミが熱い吐息を漏らす。
その吐息は数を重ねるごとに深くなり、次第に声も漏らすようになる。

俺は唇で乳首に吸い付き、甘噛みし、舌で転がす。
チエミは激しく反応した。
手で、すでに俺自身を擦っていた。


「電話の時より、ずっとHだよな」
 「アホ、そんなこと言わんとって・・・・恥ずかしいから・・・」

俺はチエミのヘアの奥へ指先を滑らせ、潜らせた。
腿を広げさせ、俺はチエミ自身に指を這わせる。
チエミは恥ずかしさと、それ以上の快楽とで
今にも泣き出そうそうな顔をする。

俺の人差し指と中指で、チエミ自身を割る。
熱い粘性の愛液が尻の割れ目へと垂れていく。

「濡れてるの、分かる?」
 「・・・なんで聞くん?」

「もっと、もっと、チエミを喜ばせてみたいから」

俺は中指の先をチエミの奥へ差し入れる。

 「はう、あああうっ・・・・」

そこで敢えて抜いてみた。
 

 「意地悪・・・・」

「なぁ、この前の約束だよ。持っておいで、オモチャ」
 「堪忍して、今日は・・・持ってきてない」

「約束じゃんか、持ってくるって・・・・・」
 「恥ずかし過ぎる・・・・堪忍してぇ」

「俺、やめて帰ろうかな」
 「いやぁ、いやあぁ!」

ちょっと怒った風の言い方をしてみた。
チエミは俺にしがみ付いてくる。可愛い女だ。

 「お願い、お願い・・・入れて、もう入れて!」

「何を?どこに?」
 「・・・・・・堪忍して、恥ずかしいやんか・・・・」

「約束破られたんだもん、これくらい言ってよ」
 「堪忍して、堪忍して・・・・・・」

しかし俺は許さなかった。
チエミは俺の要求する全ての淫語を吐き出させた。
先ほどよりも反応が激しい。

自分の口から恥ずかし過ぎる言葉を言わされた。
興奮の極地だ。


「大きく足を開いて」

目の前で、チエミは腿を開き、徐に自身を開陳する。
恥ずかしさで火が出るほど真っ赤になった顔。
逆に男を求める欲望で、別人格かと思うほど卑猥に開くチエミ自身。

俺たちの間には、下手な玩具などいらない。


<以下次号>







↑エンピツ投票ボタンです。次回が完結編です。

2002年07月16日(火)

浪速の聖母の安息日。 〜大阪〜

<前号より続く>


2週間後の水曜日。朝8時前。
俺は近鉄名古屋駅にいた。
近鉄難波駅行きのアーバンライナーに乗るためだ。
駅は出勤ラッシュで込み合う。

俺は朝食のサンドイッチと缶コーヒー、雑誌を買って
指定席車へ乗り込んだ。

8時丁度にホームから滑り出したアーバンライナーは、
途中停車駅も無く、近鉄鶴橋駅まで行く。

到着まで約2時間。
一眠りしようとも思ったが、どうも期待と緊張からか眠れない。
何度も同じ雑誌をめくったり、窓の外を眺めたりして落ち着かない。

三重県から奈良県に入る頃。
森の中を走る列車。
どんよりとした雲が垂れ込め、水滴が幾筋も流れていく。

雨だ。



10時過ぎ。
俺は鶴橋駅に降り立つ。
駅高架下に活気付くコリアンタウンが見える。
高校生の頃、大学受験で何度か利用したので覚えていた。

先ほどの雨も、奈良県内で降っていただけのようだ。
薄い雲が大阪の空一面を覆っている。

鶴橋駅の構内まで迎えに来てくれることになっているので、
予定ではチエミはもうこの駅のどこかにいるはずだ。
しかし行き交う人が多すぎて、それらしき女性が見当たらない。

予定より10分ほど過ぎた。
気が焦る。


売店横の公衆電話の脇。
俯いて立つ、それらしき女性を見つけた。

小柄で細身、黒髪のセミロングで、緩やかなパーマ。
分厚いレンズのメガネをかけ、地味な印象。
ピンクのカーディガンに、スカート、黒い手提げバック。
顔色が悪いのか、色白さを通り越して、青白い程だ。

そして草臥れ、疲れがにじみ出ている。
小さな身体が余計に小さく見える。


「チエミ、さんですか?」
俺が声を掛けると、俯く顔を上げ、俺をはっとした表情で見る。

 「はい・・・・・・平良、さん?」
「良かった、逢えましたね!」

チエミは僅かに頬を緩ます。
やはりその草臥れた女性がチエミだった。

「どこに行こうか」
 「どこでもええよ、分るところなら」

「じゃ・・・通天閣!」
 「そんなら、天王寺まで行かんとな」


俺とチエミは同じ鶴橋駅構内のJRのホームへ移動し、
天王寺までの切符を購入した。

オレンジ色の大阪環状線で、天王寺駅まで向かう。
たった数分の移動。


そこで駅を出て、二入で通りがかりの喫茶店に入った。
ゆっくり話もしたい。

俺はホットコーヒー、チエミはミックスジュースを注文。

チエミは改めて緊張している様子で、なかなか話し掛けてこない。
そして俺の問いかけにも、返事程度しかしない。

打ち解けきれないまま、刻々と時間が過ぎていく。


 「あのな・・・・」
「なに?」

チエミがようやく自分から話し掛けてきたのは、
とっくに冷めたコーヒーが一口ほどカップの底に残る頃だった。

 「いつも施設に行くの嫌がる大樹が、今日はすごく機嫌よくてな」
「うんうん」

 「素直に、それも笑顔で施設に入ってくれはったわ・・・・」
「そうか」

 「こんなこと今まで無かったのに・・・分かるんやね、母親の気持ちが」


自閉症児や知的障害児、学習障害児は近親者の心の動きが分かるのだ、
と聞いたことがある。

その人が機嫌が良いと本人もよく笑い、機嫌もいい。
逆にその人が何か落ち込んでいたりすると、本人は愚図ったりする。

大樹は旦那や姑に一切なつかず、泣き喚いたそうだ。
チエミが彼らに対して持つ不快な感情が敏感に伝わっていたのだろう。


自閉の名前には「自ら他者との関係を絶ち、心を閉ざす」意味がある。

父や祖母など、人間味のない腐った肉親どもから、大樹は自ら関係を閉ざした。
言葉も相手への思いやりも捨て、自分の世界に心を閉ざしたのか。

自分の都合だけで殻に閉じこもる「引きこもり」とは違う。


そんな大樹が今日、とてもご機嫌だったということを逆に言えば、
それだけチエミが今日を楽しみに、心待ちにしていた、ということ。

そう考えると、名古屋から出て来た甲斐があったというものだ。



 「私、今日、ホンマに逢えるんかなって不安やった」
「俺もね、チエミさん見て思ったことがある」

 「ん、なに?」
「こんな大人しい女性が電話の向こうで淫乱な事やってたんだなって」

 「・・・恥ずかしい事思い出させんとって、アホ」


俺はこうしてたまにトリッキーなジャブを繰り出す。
チエミがはじめて赤らめた頬を緩めた。
固いガードを突き崩せたようだ。

チエミもジュースを飲み干す。
俺は残りのコーヒーをグイッと飲み干し、二人で外へ出る。


天王寺駅から続く高架沿いを歩いていく。
「新今宮の方が近かったかな?」などと話しながら、
天王寺公園脇を通り過ぎ、フェスティバルゲートの交差点を右に曲がる。

目の前に、大きくそびえたつ通天閣が見えてきた。
エッフェル塔を模して作ったといわれる代表的な大阪のシンボルだ。

新世界と呼ばれるこの下町は、午前中ということもあって
労働者風の初老の輩や近所のおばさん達が数人歩いているだけで、やけに静かだ。
ここは夕方から夜になると、街の表情が一変するのだ。


到着した通天閣の展望台にのぼった。
おそろしくゆっくりと上昇するエレベーターが印象的だ。

フロアにはお土産屋、コインスコープ、そしてビリケンの木像。
東側には天王寺公園、そして動物園が眼下に広がる。
西側の真下には阪堺電軌鉄道、遠くに大阪ドームまで見える。

「私もここまで来た事無いよ」
チエミも笑いながら展望を楽しむ。

平日の昼前の大都会。
阪神高速や幹線道路には、大小様々な車がまるで動脈の血流のように
絶えず流れ続けている。



昼食後、俺たちは日本橋からなんばシティまで散策がてら歩く。
俺はチエミとそっと手をつないだ。
俺流の演出である。

チエミは俺の手が触れた一瞬、手を引っ込めたが、
そのままそっと握り返してくれた。
その手の柔らかさは、母の手独特のものなのかもしれない。



難波名物のアメリカ村を歩き、
阪神高速環状線の桁下に立ち並ぶホテル街に出た。

「そろそろ、入ろうか・・・・」
俯くチエミを引き寄せ、そっと耳元で囁く。
身を固くしたが、一度頷いた。

適当に綺麗そうなホテルに入る。

俺の予想とは違って、思ったより古い造りだった。
部屋は壁紙から照明から紫色で統一され、
お世辞にもセンスの良い部屋ではなかった。


<以下次号>







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2002年07月15日(月)

浪速の聖母の安息日。 〜大樹〜

<前号より続く>


 「うちの子な、大樹っていうんやけど、4歳って言うたやろ」
「ああ、この前ね」

 「まだ話出来へんねん」
「・・・・・・うん」

 「様子もおかしいんで、お医者に連れてって診てもろたら・・・・」
「うん」
 
 「この子自閉や言わはんねん」
「自閉・・・自閉症か」



【自閉症】

先天性の脳の機能障害。

脳内の情報処理のプロセスに障害があるが、その発生原因は不明。
統計上、1000人に1〜2人発症する。そのうち5人に4人が男児に発症。

治療法は無い。

過去には精神病などの様々な間違った解釈があったが、
精神障害、心因性の情緒障害、精神疾患とは構造上も全く異なる。


□具体的な特徴□

  ●言葉の発達の遅れがみえる
   (言葉が話せない、理解できない、使い方が間違っている、など)
  ●他人との協調が苦手である
   (相手の気持ちを理解することが苦手で、他者と一緒に遊べない)
  ●自分から親、家族、または他者への働きかけが苦手
   (上二つの特徴と関連があると思われる)
  ・感覚の感受性に一貫性が無い
   (音や声・痛み・寒暖などの外的刺激に無関心、または過敏に反応)
  ・様々なレベルの精神遅滞を伴う
  ・知的機能の不均衡な発達
   (計算、音楽、記憶、描写など特定の突出した能力を持つ事がある)
  ・自分の興味・活動が限られ、他者からの矯正を強く嫌う
   (同じ日課、同じ順番の行動などに、執拗にこだわる)
  ・多種多様の「多動」を伴う
   (チック症的で落ち着きが無い程度〜他者への攻撃、自傷行為まで)

  ・・・・・・など[黒丸は特に顕著な症状]

  ○程度によるが、周囲の理解と協力で他の健常者と同じように就職など
   社会生活をおくる事も可能である。
  ○同じ動作を好む特徴、また突出した知的機能を利用して活動し、
   社会参加する者も多い。


【文献・・・自閉症Q&Aホームページより抜粋・要約 文責・・・平良】


 「・・・・自閉って知ってるの?」
「ああ、昔な・・・」

俺は大学時代に知的障害児施設でボランティアを経験した事がある。
そこで自閉症の子どもとも触れ合ったことがあった。
確かに独特の特徴がある子供たちで、こちらの意思を伝えるのに苦労した。

ある児童は色画用紙の切り貼り工作を好み、
三色旗などの国旗を資料と見比べて、次々と作成していた。

ある生徒は山の絵を描くのが好きで、
季節に応じて微妙な色合いを変え、黙々と描き上げていった。


重い症状の子は、自分の感情さえも分からない。
自分の泣き声に驚いて、さらに泣く。
最悪の自己連鎖だ。

自閉症児がちょっとした事でも火がついたように泣き喚くのは、
そういうことが原因なのだという。

俺も何も知らない状態で彼らに出会っていれば、
とても耐えられえる状況ではなかった。

地獄だ。


 「じゃ、話してもわかってもらえるな・・・・」

チエミの息子・大樹は医者の診察によると、重度の自閉を発症しているそうだ。


 「その自閉症は、母体のストレスも原因やって言われてるんや」※
    ※実際の発症原因は現在も不明で、チエミの独自の判断だと思われる



恋愛経験の乏しいチエミは、見合い結婚で現在の旦那の実家へ嫁いだ。
妊娠した辺りから旦那の浮気が発覚し、家庭不和に陥る。

姑(旦那の母親)は、子どもである旦那可愛さから、
家庭不和の原因を嫁の怠慢と決め付け、身重のチエミを責めつづけた。

身近に味方のいないチエミは、相当な不安とストレスを抱え込んでしまう。
ここで、大樹の脳に重篤なダメージを与えたのだとチエミは悔いていた。

 「私がもっと強ければ、大樹も一緒に苦しまんでよかったんや・・・・・・」


そして、精神的にも孤独な中で出産を迎える。

しばらくは子ども中心の穏やかな日々を過ごしていた。


だが成長していく課程で、何時まで経っても大樹は言葉を話さない。
徐々に多動癖、周囲の刺激に無頓着など、他の子と違う特徴が見えてきた。

そして医者の診察の結果、上記の診断が下されたのだ。


大樹の自閉症が発覚して以降、旦那は一切チエミに対して構わなくなった。
「キチガイを生むような女など、気持ち悪くて触れられん」と吐き捨てる。

姑も子どもの責任を全てチエミに負わせた。
「こんな子どもしか産めん嫁など、孫と一緒に精神病院へ行け」とののしる。

居たたまれなくなったチエミは、大樹を連れて家を飛び出し、
近所の安アパートで別居生活を始めた。


昼は公的施設に大樹を預け、スーパーのレジ打ちのパートで生計を立てる。
それだけでは生活も成り立たないので、夜にテレコミのバイトを始めた。

真夜中でも突然力いっぱい泣き喚く大樹に、
同じアパートの住民だって決して温かくはない。

度重なる苦情もある。
露骨な嫌がらせだってある。

『そんなガキは精神病院へ放り込め』などと心無い言葉だって、何度も浴びた。

宗教関係者も訪れ、何かと屁理屈をつけては高額の商品を売りつけようとする。
断れば、呪いだ因縁だと薄気味の悪い言葉で執拗に脅迫してきたそうだ。

その度に耐え忍び、苦情があれば何度も何度も頭を下げ、ただひたすら謝った。
 「大樹に罪は無い。私が我慢すれば済む事や・・・」

確かに自閉症の子どもを授かったのは不幸だっただろう。

 「大樹は私が産んだ子や。それに私が母親なんやから。
    それも私のせいで自閉になったんやで。面倒見るんは当たり前やんか」


その子どもの障害を正しく理解し、そして共に闘う事もせずに、
チエミと大樹をまるで欠陥品のように、人のクズのように扱い、冷たくあたる旦那と姑。

 「旦那がよう言うてはったわ。俺の人生はお前らに狂わされた、てな。
   ・・・お義母さんもな、よくもうちの家系からキチガイ出してくれたなって・・・」
 

弱みに付け込み、さらに踏みにじることを平気でやる家族やアパートの連中。

・・・そいつらなんざ、人間じゃない。


俺はどうしようもない憤りを思える。
しかし他人の家の話。
赤の他人である俺が、どうしてやる事も出来ない。

「大変だったね・・・」


俺はもう、その言葉しか出ない。
チエミはいきなり開き直って、自暴自棄に振舞う。

 「な、聞かん方がよかったやろ?もう電話する気も失せたやろ?」
「いや、そんな事無いよ」

 「ええんやで・・・こんな女どうでもええやんな、もう電話切ろうや?」
「いい加減にしろっ!」



最初の電話の時。
何度も電話を切ろうとする俺を引き留め、テレフォンSexまで付き合った。
必死に喰らいついてきた。

パートだけでは成り立たない生活のために、夜に大樹の床のそばで出来る
仕事として始めたのが、このテレコミのバイトだった。


昼夜構わず働きつづけ、休む事もままならない。
それでも一切の弱音は人前では吐かなかった。

すべては息子を守るため。


自分の産んだ子だからと、逃げずに育て上げる覚悟の母。
それも、ただでさえ苦労のかかる自閉症児だ。

疲れ果てた時でも支え、抱きしめてくれる人はいない。

冷たい世間の風で心も冷え、何度も挫け、大樹と共に心中する事も考えた。
しかし自分が腹を痛めて産んだ息子に手を掛けることなど、出来るはずも無い。

例え自分独りで生命を絶ったとしても・・・残される大樹はどうなるだろう。
肉親の、そして人間の心を持たない鬼畜な夫と姑に、今更何を求められよう。



そんな彼女の、束の間の癒しが『バイブオナニー』とは・・・・
あまりに切ないではないか。
初めてエクスタシーを感じたのも、オモチャだったという。


俺はチエミの抱えるあまりに重い現実に、掛ける言葉さえも失う。


電話の向こうで今まで抑えつけていた感情を吐き出し、
声を上げて泣き崩れてしまったチエミ。

俺もただ黙って、泣き止むのを待つしかない。


「チエミ、大丈夫か?ごめんな、辛い話させてしまって」
 「・・・・・・私も・・・取り乱してしもうて・・・・」

「今度、俺が聞ける範囲でチエミの願い事をひとつ叶えてあげるよ」
 「・・・・え?ホンマ?・・・・何でもいいの?」

「ああ。でもアレ買って、コレ買って・・・は無し。金無いもん」
 「ええよ、今度までに考えればええか?」

「いいよ。今週末くらいにまたこっちへ電話して」
 「・・・良かった、もう嫌われてもええって思うて話したんよ・・・(泣く)」

「大丈夫、そんな話くらいで嫌いにはならんよ。泣くな」
 「・・・・・・分った、じゃ、今度な」



その週末。
約束通り、チエミの方から直接電話が掛かってきた。

 「もしもし、私」
「もしもし。どう、落ち着いた?」

 「ああ、久しぶりに泣いたからな・・・・・・スッキリしたわ」
「そうか・・・で、考えたか?願い事」

 「うん、でな、一つ報告する事あるねん」
「何?どんな事?」

 「あのな、離婚、成立したんや」
「旦那と?本当・・・・でもおめでとう、じゃないよな」 


成るべくしてなった結果。
これで、チエミはバツイチである。

これで旦那も姑もせいせいした事だろう。


 「慰謝料も養育費もいらんからって、大樹の親権だけ取った」
「そうだな、大変だろうけど・・・・あなたが育てた方がいいよ」

 「でな、願い事やけど・・・・」
「結婚?」

 「ちゃうよ、アホやなぁ」
「ハハハ、で、何?」

 「うん、でも、無理ならせんでもいいからな」
「うん」

 「あのな・・・・・・平良と1回、逢いたいねん。もう不倫ちゃうよ」
「なんだ、そんな事かぁ。いいよ」

 「・・・・・・でも名古屋やろ?遠いやんか」
「大丈夫、大阪でしょ?すぐ行けるよ」

 「ホンマ?良かったぁ!嬉しいわぁ」
「でも、大樹君は大丈夫なのかい?」

 「それやねんなぁ・・・明日施設に聞いてみんと、
           何時くらいまで預かってくれるか分らんけど」
「それだけきっちりとしたら、一緒に遊ぼう」

 「うん!」
「今度、その都合が決まったら教えて。それから日にちを決めよう」


週明けにチエミから電話があり、
彼女のパートの休みが2週間後の水曜日だという。
施設も予約を入れ、夕方6時半まで預かってもらえることになった。 


<以下次号>






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2002年07月14日(日)

浪速の聖母の安息日。 〜落涙〜

<前号より続く>


「やっぱり気持ちいいの?」
 「うん、そりゃな・・・旦那より数倍良いわ」

「どれくらいしてるの?」
 「最近は、毎晩かな・・・・・」

「今晩は?」
 「・・・・・・まだ」

「ねぇ、使ってみようか、今から・・・・」
 「えぇ?!今から?・・・・・・それは堪忍してぇな」

「どうして?」
 「・・・・・・恥ずかし過ぎるやん、堪忍して・・・」


チエミは拒絶する。
俺は声のトーンを落とし、雰囲気を高める作戦に出る。


「どんなこと考えながら、一人でするの?」
 「ん、・・・・・・男の人に抱かれているところ・・・かな・・・」

「そっかぁ、どんな体位でするのが好き?」
 「あのな・・・・・・バック・・・」

「いやらしい格好でするんだな・・・・・想像しちゃった」
 「あ、いや・・・・・・あかんて・・・」

「耳は感じやすいの?」
 「どうやろ・・・あ、いや・・・・・」


俺は受話器にkissの音を立てる。
チエミは可愛い声を漏らす。

「耳も弱いんだね・・・・」
 「・・・・・・はぁっ」

「でも、もうチエミはこんなに熱くなってるやんか」
 「う、うん・・・・・・はぁっ」

「今、すごく触って欲しいでしょう?」
 「・・・・・・なぁ、もう触ってんで、私」

「もう自分で触ってるんだ・・・・・・どこから触ってるの?」
 「アソコ・・・下着の上から・・・・」

「舐められたい?」
 「あ、あかん・・・・・我慢できんようになるから・・・・・あん」

チエミは妄想の世界に、深く沈んでいく。


「持っておいでよ、チエミのバイブを」
 「えぇ、嘘ぉ、あかん言うてるやんかぁ・・・・・意地悪ぅ」

「気持ちよくなりたくないんだ・・・・電話切っちゃうよ」
 「待って・・・・・持ってくるから、待っとってな」


しばらく無音になる。
その後、ゴソゴソ音を立てて、チエミが戻ってきた。


「持ってきた?」
 「うん、持ってきた・・・・・・」

「音を聞かせて欲しいな」
 「・・・・・・ちょっと待っとって」


受話器からグィングィンと重いモーター音がする。
電気シェーバーや電動はブラシではない、うねる音だ。

「じゃスイッチを止めて・・・・どんな服を着てるの?」
 「Tシャツに、スカート・・・・」

「じゃあね、スカートの中だけ脱いで・・・・」
 「・・・・・・脱いだ」

「そのまま腿を開くよ・・・・・・もっと大きく」
 「あかん、恥ずかしい・・・・・」

「もっと開いて・・・・・・奥まで開いてみるよ」
 「嫌やぁ・・・・か、堪忍してぇ」

「クリ触ってみようか」

チエミはここまで来ると、俺の言葉に従順だ。
自信無さ気でか弱い声とはうって変わり、淫靡で妖艶な声を漏らす。

俺も燃えてきた。


「次どうしようか?」
 「あのな、あのな・・・・・・入れて欲しい」

「どこに?何を?」
 「意地悪・・・堪忍して・・・」

「言えないんなら、このまま電話切っちゃうよ」
 「あ、あかん・・・言うから・・・」

「どこ?」
 「・・・・・・・」

「聞こえないよ、もっと大きな声で!」
 「・・・・・・・オ○○ッ」

関西では、女性器の名称は3文字。
チエミは口にした直後からさらに一段と喘ぐ。
卑猥な言葉を自ら口にさせられたことで、
さらに興奮しているのだろう。

 「なぁ、早ぅ来て、入れてぇな!」
「じゃ、先程のバイブの先を入れてみな」

 「うん、うん・・・・」
「入れたか?奥に当たるところまで入れて」

 「・・・・・入った」
「じゃ、奥に当てるようにしっかり持って、スイッチ入れるよ」

 「ハイ、こう・・・・・う、あっあああああああっ!」


堪え切れず、震える声が漏れる。
間もなく、チエミはエクスタシーに達した。 


しばらく真っ白になっているのか、
深呼吸する音が聞こえるだけで、俺からの問いかけには答えない。
時折、鼻をすすっている、

「もしもし・・・・・・大丈夫か?」
 「・・・・・・ん」

「どうだった?電話でしてみて」
 「電話でも、イケるんやなぁ・・・・・・」

「可愛い声やったよ」
 「そんなん、恥ずかしいから言わんとって・・・・」


それから俺とチエミは随分仲良くなった。
話す回数が増えるたびに、話題も増え楽しい時間を過ごす。
テレフォンSexも回数を重ねるうちに、チエミも感度が高まっていく。
そして積極的になっていく。

しかし、旦那と子どもの話題だけは触れる事は無かった。


その後、子どもは寝た?と聞くのが俺とチエミの挨拶代わりになっていた。

子どもの声というのは、折角の大人の時間を台無しにする。
女性が『女』でありたい時間でも、『母』に戻らざるを得ない。

『母』に戻ってしまうと、今度は『女』に戻ることもままならない。


遅い時間なら大抵は子どもも寝ているので、安心して話が出来る。

「こんばんは、子どもは寝た?」
 「うん、もうぐっすりと寝てはるわ」


二人の時間を満喫していると、突然の嬌声。
先日と同じ、子どもの泣き喚く声だ。
それも先日よりも激しい。


 「もう、こんな時に・・・ちょっと待っててね」

俺が返事する間もなく、チエミは電話を置いて子どものところへ向かう。


 「ごめんな、変な夢でも見たんかも知れん」

「ねぇ、聞いてもいい?」
 「何?」

「子どもの事、なぜそんなに話したくないの?」
 「・・・・・・」

「俺、子ども好きだからさ、いろいろ話が聞きたいんだ」
 「・・・・・・」

「・・・どうしたの?」
 「・・・・・・」


チエミは泣いていた。
一体何があったのか。俺には考えもつかない。

「チエミ、大丈夫か?」
 「・・・・・・話したら、もう電話でけへんかも知れん」

「え?何があったんだ?」


チエミは流れる涙を抑えるのに、しばらく時間を要した。
子どもの話で泣く女というのも初めてだ。

ようやく落ち着いたチエミは、覚悟を決めて話してくれた。


<以下次号>







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2002年07月13日(土)

浪速の聖母の安息日。 〜新人〜



以前よく利用したテレコミ店では、俺は受付にこう言付けていた。

「新しい女性をお願いします」と。



電話にも男にも慣れた女よりも、
馴れていない人のほうが会話をリードしていても楽しい。

その店のテレコミ嬢には各々源氏名がついており、
気に入ったら次回から源氏名で指名ができるシステムだった。

電話版のキャバクラのようなものか。
騙される事を覚悟で出逢いを求める男にとっては、
どちらも同じようなものなのだが。


上手くタイミングが合えば店から新しい女性を紹介してもらえる。
そして指名できれば、それ以上の人間関係も築ける。


今回はそのタイミングが合ったようだ。


 「今先ほど、新しい方が入りました。30歳の主婦の方です」

当時26歳の俺は、年上の女性に憧れを持つ年頃。

「じゃ、その人で」
 「ハイ、でもその人は・・・」

「は?」
 「大阪の人なんですが、よかったでしょうか?」


あまり遠い街の人では通話料が掛かると思っていたが、
たまに違う街の人と話すのも悪くないだろう。
そう思い直した後、快く了解しその新人からの電話を待っていた。



10分後、コレクトコールで掛かってきた。

「もしもし」
 「あ、あの、は、初めまして・・・」

「何だかもの凄く緊張していますね(笑)大丈夫?」
 「あ、ありがとうございます、馴れてなくて・・・・」

「俺が初仕事なんだってね」
 「ええ、ホンマよく分らないんで・・・宜しく教えてください」



彼女の源氏名はチエミ。
先ほど登録したばかりだという。
いきなりの仕事に、動揺と恥ずかしさで戸惑ってしまうという。

ただ普通の会話もおぼつかない程、緊張している様子だ。
馴れていないところは、俺の狙い通りだが。


「でも、見事な関西弁ですね」
 「そうかな、え、でも、普通にしゃべってんねんよ」

「俺、女性の方言って好きだから、いいよ」
 「そう言うてもらえたら・・・・・・」

その時、チエミの背後でキーッ、キャーッと声が聞こえた。
子どもか?


 「ゴメン、ちょ、ちょっと待っててくれる?」



俺が返事をする間もなくオルゴールに切り替わる。
時間にして、数分間。
忘れ去られたのかと思うくらい、長く感じた。



 「すみません、長い時間待たせちゃって・・・・」
「こちらこそ、都合悪ければ掛け直そうか?」

 「え、もうええよ、寝たから・・・・・」
「お子さん?」

 「え、うん、まぁ・・・・」
「本当・・・いくつなの?」

 「4つだけど・・・・」
「可愛い盛りじゃん」

 「まあええやん、子どもの話は・・・」

あまり触れて欲しくない話題だったようだ。
冷たく切り上げる。


「旦那は寝たの?」
 「・・・・・・うん、まあ」

気まずい沈黙が流れる。
やはり触れて欲しくない話題だったのだろう。
家庭の事情というのは、様々あるものだ。

ようやくチエミも落ち着いてきたみたいで、少しずつ俺に話し掛けてくる。


 「なぁ、聞いてもええか?」
「何?いいよ」

 「ここで、女の人とどんな話するん?」
「話かぁ。まあ堅い話もするし、やっぱりHな話も多いかな」

 「Hな話するんやぁ」
「だって、嫌いな人はいないでしょ。Hは嫌い?」

 「いや、嫌いやないよ」
「でしょ?」

 「そっかぁ・・・・しようや、Hな話」
「いや、いきなりしようと言われてもなぁ・・・・」

 「ねぇ、出来へんか?私とやったら・・・・」
「そういうわけじゃないけど・・・」


チエミはきっと先ほどの長い中断を気にしているのだろうか。

先ほどまではまともに呂律が回らないほど緊張していたのに、
強引に、必死に男が喜ぶ方向の話に持っていこうとしている。



「チエミさんは最近、旦那さんとどう?」
 「旦那かぁ?・・・・・・うん、ないよ」
 
「どれくらい?」
 「もう、2年は無いなぁ・・・・・・」

「勿体無い!淋しくない?」
 「・・・・・・」


再び先程の気まずい沈黙だ。
話題を変える。


「でも何にも無しじゃないでしょ?彼氏とかは?」
 「・・・・・・無いよ」

俺は焦った。
電話の向こうのチエミは何とかそう答えたものの、
どうにも隠し切れない涙声だった。


「どうした?何か傷付ける事言ったかな?」
 「・・・・・・そうやない・・・・・」

そう答えるのが精一杯のチエミ。
何か辛い思い出でもあるのか。
俺は再び電話を掛け直すよ・・・といったが、大丈夫と言い張る。


 「ゴメンな、取り乱してしもうて・・・・」
「俺もびっくりしたよ」

 「私な、男居らんでも、一人で満足してんねん」
「一人?オナニー?」

 「うん・・・・・・アレ使ってるから」
「何を?」

 「・・・・・・・」
「小さい声で聞こえないよ、ちゃんと言って?」

 「あのな、あるやん、男の人の、形した奴・・・・バイブ」
「本当?!・・・持ってるんだ」

チエミは雑誌の通信販売で何本かバイブを購入したという。
何人もの女性とここで出逢ったが、こんな人は初めてだ。


<以下次号>






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2002年07月10日(水)

黄昏のいちご海岸通り。 〜結〜

<前号よりつづく>


俺はバイクをさらに市街地の方面へと走らせた。
多少ホテル探しにてこずるものの、何とか見つけてチェックイン。

1階が駐車場の、ガレージ型の古びたホテル。
バイクを止めてシャッターを閉め、2階へ上がった。



別々にシャワーを浴び、ベッドにもぐった。
何の気なしに点けたテレビには、夕方のローカルワイド番組が流れる。


裸でベッドに入る二人。
俺は美香に関しては、どうも踏み込めなくなっていた。


あの余計な話・・・身体が弱いこと・・・を聞いてしまったがために、
俺は男になりきれない。


 「ねぇ、しないの?堂々と襲ってくりゃいいじゃん」

何もしてこない俺に、美香が焦れる。

俺は美香に抱きつき、唇を首筋から胸元へと這わせる。
一方、指先を膝から内腿へと這わせる。
白く柔らかい肌は敏感で、些細な刺激でも充分に感じ取ってしまう。


美香から熱い吐息が漏れる。
そっと目を閉じて、じっと自分の身体に這う感触を楽しんでいるようだ。


俺は美香自身へと指を伸ばした。
前回、生理になってしまい未遂に終ってしまった、因縁の相手。

ふっくらと肉付きの良い美香自身は、しっとりと潤っている。

俺は右手の中指を舐め、美香の中へ挿入した。
専ら吐息を漏らすばかりだった美香が、あうっ・・・と声をあげた。


「痛いのか?」
 「違う・・・」

「くすぐったいのか?」
 「・・・バカ、あうっ」

指を前後に動かすたびに、徐々に声が大きくなる。
中指の先が、美香のGスポットに当たるのか、
美香は自然と腰を揺すってその部分に当てようとする。

「気持ち良いのか?」
美香は無言で頷く。

「反応してくれないと、俺は分からないからな」
 「ちゃんと、当たってるよ・・・気持ちいい・・・うっ、あうっ・・・」

言葉攻めに反応するのか、ますます愛液がにじみ出てくる。


 「入れてよ・・・」
美香がいつもの調子だったが、せがんでくる。
俺は構わず、指で攻めつづけた。


 「早く・・・」
焦れ続ける俺自身にゴムを被せて、肉を纏う粘膜の中に挿入する。

シーツを掴み、全身に力を込める美香。
歯を食いしばっている。

痛いのか?
痛いのだ。


俺の心が、引き潮になっている。
指や舌では何とでも演じられるが、俺自身は嘘を吐かない。

俺が萎えてきている。



美香は決してSexが好きなのではないという。
気持ち良い、というよりも痛いからだそうだ。

「奴が襲ってきても、私の気分が乗らなきゃ突き放しちゃう」

美香の子宮や膣に例の問題があるのも理由だろう。


彼に対する後ろめたさから逃げ出したいのだろう。
快楽の追究や好奇心ではなく、今の自分からの逃避。

こうやってセクシー・ツーショットで『遊んでいる』美香に対して、
俺は侘しさを禁じえない。


看護婦である立場とその知識から、あまり長くないのだと理解している自分の命。
結婚しても子どもが期待できない事への悲しみ。
人生を共に歩む相手に、自分の生命の期限を宣告された事を言えずにいる罪悪感。
しかし着実に迫る、彼との結婚の日取り。
一緒に住む彼とその家族。


何時しか自棄になって、一夜限りの男と次々、遊びに興ずる。
周囲の状況と自身の不安との、ますます広がるギャップに戸惑っている。


何とも重い、重すぎるマリッジブルー。



 「・・・・平良君、どうしたの?」
「俺?・・・ごめん・・・」

 「舐めようか?」

美香は萎えてきた俺自身を口で含んで、何かと大きくしようと奮闘する。
しかし男は、勃たないときは何をやっても勃たないのだ。


 「ダメだね・・・」
「ごめん、今日は何か調子悪いや・・・・」

 「ちょっと、休もうね」


美香が気を利かせて、俺から離れて座る。
彼女は自分のメントール煙草に火を点け、一服する。


 「いいよ、前戯だけでも満足させてくれたから」
 「私ね、それだけで満足なんだから」
 「これから遠い所へ帰るんだもんね、無理しなくてもいいよ」
 「前回は私が生理になっちゃから・・・これでチャラだよね」
 「今日はバイクでいちご海岸通りを走れただけでも楽しかったよ」
 「平良君、やっぱり上手だよ・・・私の弱いところをキチンと突いてたもん」
 「平良君の彼女、きっと幸せだよ・・・優しいし、H上手だし・・・」


前回俺が帰るときと同様に、何かと気を遣って言葉を掛けてくる。

どこか美香に申し訳ない気持ちだった。
女性の前で初めて勃たなかったことだって、ショックだった。

まともな返事が出来ない俺と、さらに言葉を掛けてくる美香。
重い空気を拭いきれないまま、俺たちはホテルを後にした。



別れるときも、「大丈夫?」「帰れる?」「無理してない?」と声を掛けてくれた。
美香は本当に気を遣ってくれる。

精神的にも、肉体的にも不安定な自分の我が侭に付き合わせた、
罪滅ぼしでもあるのだろう。


美香の横柄さと優しさ。
きっと自分の中で、バランスをとっている。

本当は気の利く、心の優しい女。
横柄な態度は、何もかも不安定な自分自身の化身。

美香の姿が、どこか哀しかった。



「じゃあな」
 「気をつけてよ、帰ったら絶対電話してね」


静岡I.C.へ向けて、帰途に着く時。
バックミラーに映る、美香の姿。

彼女はミラーを見る限り、姿が見えなくなるまで動かなかった。
最後まで俺を見送ってくれたようだ。




「今夜はありがとう。無事に部屋に着きました。」

約2時間半後。
約束通り、無事帰宅を伝えるために電話した。
仕事に出かけたのか、留守番電話だった。
折り返しの電話はなかった。




次の年、世紀末の正月の事だ。
結婚写真が載っている年賀状が届いた。


『 はぁ〜い、ひさしぶり。元気だった?
  とーとー結婚したよ。どう、私キレイでしょ?な〜んてね。
  またTELするよ。それじゃっ!            』


そこには、ウェディングドレスを着た笑顔の美香と彼。
あの当時の複雑な美香を知る俺にとって、ちょっぴり意味深な笑顔だ。


  ちゃんと本当の事を話したか?
  内緒にして、自分ひとりで苦しんでいないか?
  一生を共に生きる相手なら、遠慮はいらないだろう。

  俺なら、全てを話して欲しい。
  一生、一緒に苦しんでやる。
  それも、愛のカタチ。



そのTelするよと書かれた年賀状以降、美香からの連絡は何もない。

きっと、それでいいのだ。







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 人の行動には、例え本人が無意識でも『理由』があります。

 他人にはだらしない、と感じてしまう寝坊や遅刻も、
 本人にさえ気付いていない、深刻な葛藤や物事への抵抗があったりするものなのです。
 大きな問題になる前に、生活態度や状況を自他の視線から省みてください。

 あなたも一日の生活を思い返して、何か思い当たる節はありませんか?
 

2002年07月09日(火)

黄昏のいちご海岸通り。 〜転〜

<前号よりつづく>


後日、美香から電話があった。


 「先日はあんな事になっちゃって、ゴメンネ」
「気にしなくても良いよ、ああいうこともあるさ」


律儀な女だ。

 「実はね、(生理が)時期的にやばいなぁと思ってたんだけど」
「まあ、健康な女性の証拠じゃない?」

 「私?健康じゃないよ・・・だって私、早死するんだから」
「は・・・何だって?」

あまりに美香の言葉が意外だったので、一瞬聞き逃しそうだった。


 「まあ、平良君ならいいかな・・・」
あっさりと美香は秘密を告白してくれた。



美香は確かに小太りな体型だった。
あれは女性器系の病気への薬の副作用だという。

昔から身体の弱かった美香は、
体育の授業でも見学ばかりだったそうだ。

ある日、体調を崩し医者に診てもらった際に、
重い内臓疾患の宣告とともに、こう言われたという。

『まず子どもを産める確率は半分、35歳まで生きられる確立も少ない』と。

それだけ身体が弱っていたそうだ。


確かに、今までの会話の中でもスポーツはしない、面倒臭いからと言っていた。
彼のサッカーの世話や見物に付き合うこともほとんどないそうだ。

「しない」「面倒臭い」のではなく、
本当は「できない」「付き合えない」のだ、と。

自分の弱さを隠すためにも、横柄で生意気な言い方をする女だという事に、
俺はそこで気付いた。



「彼は病気の事を知ってるの?」
 「言ってない。言えるわけないじゃん。言ったら破談だよ」

「そうか・・・でも黙っているのも問題じゃないか?」
 「仕方ないじゃん」

「仕方ないって・・・」
 「私のことは私にしか解らないんだから」

「でも結婚するんだろう?! 内緒にしていい事じゃないだろうよっ」
 「でもいいの、放っとけよ」


彼は幼馴染みの自動車修理工。
子どもっぽいところがあり、あまり精神的に強いタイプではなく、
すぐに傷つき、落ち込むのでこんな相談も出来ないそうだ。

俺もあまり踏み込んだ意見を言う立場でもないのだろうが、
つい熱くなってしまい、下手な言い方を繰り返す美香と口論になってしまった。


 「私だって看護婦だよ?! 自分の身体の事も分かってるよ!」

そう言われて、俺は次の言葉が出なかった。



数日の空白があったが、また美香から電話があった。
また会いたい、先日の続きがしたい、という。

 「だって平良君の愛撫、結構良かったよ」

俺は正直躊躇していた。
あんな話を聞かされては、抱く気も失せてしまう。

 「私ね、体調がこんなんだからさ、いつ死んでも後悔したくないんだ・・・」


誰にも話せず、女の最も大切な部分に爆弾を抱える女。

その女の宿命に必要以上に同情するつもりはないが、
やはり美香と出逢ったのも何かの縁だ、と考えていた。


俺はもう一度美香に会うことにした。

しかし休みが合わず、あまり会う機会がない。

「もう少し考えさせてくれよ、俺も都合があるから」
 「早めに言ってね、シフト変えてもらうから」



およそ2ヶ月半後の水曜日にまでずれ込んだ。
俺の仕事もたまたま休みで、美香のシフトもいじらずに済む休日だった。

俺は当時乗っていた400ccのHONDA Super fourで静岡を目指した。
一度くらいはバイクに乗ってみたいね、という美香の望みを叶えてやる為に。
ヘルメットを後部座席にくくりつけて、東名高速道路を東へぶっ飛ばす。


午後3時過ぎ。
静岡大学の近所で、美香に再会した。
先日よりは体調が良いのか、にこやかだ。

 「お疲れだったね・・・遠かった?」
「バイクで高速を2時間以上もぶっ飛ばしゃあ、草臥れるよ」


俺は早速美香を後部座席に乗せ、通り道にあった喫茶店で一休み。

 「いいねぇ、この赤のバイク。どこ走ろうか?」
「俺は静岡は分からんから、任せるわ」

 「じゃあ・・・季節はずれだけど・・・」

美香が案内すると行った場所は、清水市の方面。


 「いちご海岸通りって、知ってる?」
「俺、一度だけ来た事あるなぁ、友達と一緒に車で走ったよ」

 「そこに行こうよ」


一度だけ、清水に住む友人達と共に走ったことがある道。
静岡市から清水市の海岸線にかけて走る、国道150号線。


山手には、いちご畑のビニールハウスが立ち並び、
いちごの時期には、観光客やバスでごった返す。

向かいには海岸線がすぐ道路の脇まできている。
波がテトラポットにあたり、砕けていく。

通称『いちご海岸通り』。


季節はずれだったせいで、道路も通行量が少ない。
俺は美香を後ろに乗せ、時速70キロ近くで走る。


黄昏の遠州灘。
俺たちに吹き付ける、黄金色に染まった潮風。
遠くでタンカーらしき大型船がのどかに航行している。


俺はシフトを4速に落とし、アクセルを吹かした。
400cc直列4気筒が唸る。
グイッと上がるスピード。

直線の続く道路。
俺たちは少しだけワインレッド色の突風になってみた。
エンジンが心地よさげに歌う。

美香が嬌声を上げて、俺の背中にしがみつく。
そんな可愛いところもあるのだ。



 「そろそろ・・・・行きますかぁ?」

いちご海岸から外れ、市街地へ向かう信号待ちのとき、
美香がヘルメット越しに誘う。

俺たちの最大の目的は、前回のリベンジ。


時間は早くも夕暮れ。
海岸方面も、街並みも夕闇に染まりつつある。


<以下次号>






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2002年07月08日(月)

黄昏のいちご海岸通り。 〜承〜


<前号より続く>


美香は歯切れのよい話し方をするものの、口が悪い。
彼氏の不平不満、仕事上の愚痴や患者の悪口など、平気で話してくる。

話し相手が欲しいんだろう。
俺もお人よしなもので、美香の話を聞いてやっていた。



看護婦の仕事というのはストレスが溜まるそうだ。

何人か看護婦の知り合いがいたし、付き合ったこともあるが、
みな同じことを口を揃えて言う。

人の一番弱っているところを世話する仕事で、最も醜い部分を直視する仕事だ。
患者の人間関係も、家族問題も含めて。


おまけに担当の患者が亡くなったりすると、やはりブルーになるという。
美香の勤める病院は老人の患者が多く、
入院したあとも、誰も面会にも来ずにそのまま亡くなる人も多いそうだ。

それに遺産問題などでも家族や親類縁者で醜い争いも見えてしまう。

自分の遺産相続などで子どもや孫が牽制しあう姿を、
床に着く老人はどういう思いで眺めているのだろう。

そしてそんな悲哀な姿の老人に献身的な看護を行う彼女達。


またさらに他の業種の人々とも交流がない。

美香はそんな窮屈な業界を、結婚を機に退職するという。


「もったいないね、折角の仕事なのに」
 「もういいよ、飽きたから」

そういう生意気な言い方をする女だった。

結婚も本当はしたくないんだけど彼がどうしてもしたい、と言うそうだ。
けじめをつけて浮気されないようにだってさ、と美香は吐き捨てる。


「結構な事じゃない?愛されてるんじゃん」
 「うざいんだって・・・そういうのを見せ付けられると」

愛の押し売りをどこまでも嫌う素振りを見せる。



会うまでにテレフォンSexも含めて、何度か電話で話した。
そして、月末の日曜日を迎える。


俺は名古屋駅から東京行き新幹線こだま号に乗車した。
約1時間。静岡駅で降りる。

改築したばかりだったのか、綺麗なコンコースを歩き、指定された場所へ向かう。


ブラウスに黒いジーンズの美香が立っていた。
小柄でポッチャリ型。看護婦らしく黒髪のショートヘアだ。
幼げな顔立ちで、化粧っ気もない。


俺と美香は、まず喫茶店でお茶する。
窓際に座り、静岡駅前の景色を眺めつつ、アイスコーヒーで喉を潤す。

「電話での予想(外見)とは違うでしょ?」
 「それはお互い様じゃない?」


電話では何度も話していても、やはり初対面だ。
相手も緊張している。

喫茶店を出た後、二人で静岡駅前の遊歩道を話しながら歩く。
あれこれと美香が説明してくれた。

ただ時間もあまりないので、そのままホテル街に紛れる。
美香が気に入っている、というホテルに入った。


シャワーを浴びた後、美香が早速俺に襲い掛かってきた。
俺も美香を迎撃するべく、美香の胸を掌で揉む。

俺自身を腰に巻いたタオルの上から弄ぶ美香の手が止まる。
美香は目を閉じて、俺の次の攻撃を待っていた。

美香をベッドに仰向けに倒し、美香を見つめる。
顔を覆う両手を力ずくで剥がす。

視線を大きく外す美香。


 「恥ずいじゃん・・・」
「ちゃんと顔を見せろよ」

俺は美香の唇を奪った。
幼めの容姿とは対照的な、大人の舌。
俺の舌に淫靡に絡んでくる。

ニコチンの風味。
メントールの香り。

美香が落ち着かせるためなのか、先ほど吸っていた煙草の味そのものだった。



 「待って・・・・、来ちゃったかも」

攻撃的なkissの途中。
俺は逃がさないように追撃を試みようとしたが、
美香はその手を振り払ってトイレにこもる。


トイレから出た後、美香は何ともいえない表情を浮かべる。


タイミングの悪い事に、生理が始まったのだ。
美香は生理中のSexは絶対に嫌だ、という女だ。

何とか俺をフェラでイかせようと躍起になる。
しかしそんな状況の中で冷めていた俺はとっくに萎えている。


俺はどうも生理中の女とSexが出来ない。
例え相手に構わない、と言われても。
血まみれで痛々しいイメージがあって、どうしても萎えてしまう。

暴力的なSexは嫌いだ。


「服、着ようか」

俺は下着を履いて、服を着なおした。
諦めた美香も返事せずに服を着出す。

お互いに大きな欲求不満を抱えたまま、互いが帰る時間になった。


ホテルから駅へ続く遊歩道。
美香はまるで人が変ったかのように俺に世話を焼き、話し掛けてくる。


 「ごめんね、遠いところからきてもらったのに・・・」
 「私のこと、嫌いになっちゃったでしょ?」
 「美味しいんだよ。ここの新茶、お土産に買ってあげるよ」
 「ここの干物ね、本当に美味しいんだ・・・買ってあげようか?」


きっと随分と俺が気分を害しているのだと思ったに違いない。
でも俺はそんな美香の気遣いに、かえって恐縮してしまう。
全ての心遣いを断った。

生理は健康な女性である証拠。
そんなものにいちいち腹を立てるのも、くだらない。



美香は俺が新幹線ホームに消えるまで見送ってくれた。
彼とも待ち合わせ時間が迫っているにも関わらず。

それが彼女なりの誠意の見せ方だったのだろう。

俺は静岡駅に停車した新大阪行きのひかり号で、名古屋へ帰った。
予想以上の疲労感を背負いながら。


<以下次号>







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2002年07月07日(日)

黄昏のいちご海岸通り。 〜起〜


俺は幸か不幸か、この歳になるまで自分の結婚には縁が無い。


この女を嫁にしたい、という出逢いや付き合いはあったが、
相手には物足りない存在だったようだ。
いつしか、俺の元から去って行った。


もうこの歳なので、友人など周囲の結婚式や披露宴に立ち会う事は多い。

特に男友達の結婚の時には、
“年貢の納め時”という餞の言葉を贈ることにしている。


  もう遊べないぜ。
  さっさと家庭に収まって良き夫、良きパパになりな。

  俺はもうしばらく独身生活を謳歌させていただくがね。


そんな俺からのメッセージだ。


女性にとって“遊ぶ”という言葉の意味が、
男のそれと比べて破廉恥に響いてしまうのではないだろうか。

しかし自由な恋愛や友人関係を楽しんできた人が、
これから一生一人の夫と暮らすことに
不安や寂しさを感じることも、また事実だろう。


『最後の悪あがき』を企む女性、俺は気持ちを理解できないでもない。





ある程度カード式のツーショットダイヤルで遊んでいると相手女性の狙いが読み取れてくる。
大抵が次の3種類に分別できた。


 声優顔負けの迫真の演技を披露してくれる、サクラ。
 じゃあ3万円ね、と吹っ掛けてくる援助交際目的の女子中高生や主婦。
 あるいは悪意に満ちた悪戯でいきなり電話を叩き切る、心寂しい女。


まともに会話が出来る一般の女性はあまりいない。
しかし不思議なもので、万に一つの出逢いを求めて男は電話を掛けてしまう。

何度か利用していると、その「万に一つ」に繋がるものなのだ。



いい加減聞き飽きた音楽が途切れ、機械の無機質な音声でアナウンスする。
『お相手が見つかりました、どうぞお話しください』


「もしもし?」
 「あ、もしもしぃ」

「はじめまして」
 「あぁ、こんばんわ・・・」

横柄な口調の、若い女の声だった。
援助交際ではないことを祈る。


 「そっちは、いくつ?どこに住んでる?」

女から積極的に質問してくる。
これこそ援交目的な女のパターンだ。


「俺・・・26」
 「ふぅん、私24。仕事何やっている人?」

「俺?営業」
 「そっかぁ。爽やかだね。Hな感じしないね」

そういえば、ここはテレフォンSex用のツーショット。
そんな気分の時だったのだ。


「そうかね?自分じゃわかんないけどね」
 「面白そうなお兄さんじゃん・・・彼女いるの?」

女は何やら突っ込んだ質問を始めた。


「今はいないよ」
 「本当にぃ?・・・いてもいないって言うし。怪しいからなぁ、男ってのは」

こういうツーショットにしては珍しく順調に話が弾んだ。


彼女の名前は、美香。
24歳で静岡の病院に勤める看護婦だという。


「美香ちゃんもよく電話するんだ?」
 「私?・・・最近ね」

「なんかあったの?彼氏とケンカしたとか・・・」
 「う〜ん、ケンカもするけど・・・そうじゃないんだな」

「彼氏いるんだ?」
 「まぁ、一応ね。来年結婚するし」

「じゃ、こんな所へ電話する事ないんじゃない?」
 「えへへ、色々あるんだって」

美香はれっきとした婚約者がいるという。
そして来年結婚するのであれば、本来なら浮気などする心の隙などないだろう。

しかし美香は最近このテレH用のツーショットを利用するという。
それも目的はテレHだけに留まらない。


 「どうせならさぁ、会ってやりたくない?」

「でも、こういう所の男はみんな会ってやりたがるでしょ?」
 「でも誰でも良い訳じゃないよ」

「どうするの?」
 「まずは話してみて、それからテレHしてみて、私と合いそうな男だけ選ぶ」

高飛車な態度を採る美香は、俺を『事前審査』をするという。
横柄な口調、生意気な態度。
こんな女、初めてだ。


・・・面白いじゃないか。

会話は徐々にテレフォンSexに向かう。

俺は言葉攻めで美香を妄想まみれにして、攻めに攻めた。
感度が良いのか、美香は随分あっけなくエクスタシーに達した。
時間も短く、決して深いものではなかっただろうが。


 「お兄さん、上手だねぇ・・・好きだよ、遊び馴れてる男」

後腐れがないからだろう。
何せ結婚が決まっているのだから。


「俺なら、どうよ?合格?」
 「お兄さんとだったら、やってみたいね・・・グショグショにして欲しい」

「いいよ、でも看護婦さんだったら、休みが合わせづらいね」

看護婦は日勤、準夜勤、深夜勤の3交代制なので、普通のサラリーマンとは休みが合わない。
おまけに日曜や祝日は間違いなく彼氏と一緒。


何も結婚が決まったのに、そこまで一緒に居るのも息が詰まってくるのだろう。
マリッジブルーとやら言う、女の鬱だろう。


 「でもね・・・この日ならいいや」

美香は月末の日曜日を挙げる。
その日は一日中休みで、彼氏は趣味のサッカーの試合で昼間は会わないという。

俺も、予定なく空いている。


「いいよ、月末の日曜で」
 「あのさぁ、こっちに来て欲しいんだ」

美香は俺に静岡へ来い、という。


「そりゃ構わないけど、静岡のどこ?」
 「静岡市。新幹線なら静岡駅だね」

少々遠い。しかしここまで話が盛り上がっておいて、断る気もない。


「いいよ。新幹線で行くか」
 「じゃ、決まりだね」

その場で互いの電話番号を交換した。
一度電話を置き、教えてもらった番号に改めてダイアル。
悪戯かどうかを確認するためだ。


「もしもし」
 「ね、本当だったでしょ?信じる?」

こうして美香との関係が始まった。



<以下次号>







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