2004年03月21日(日) |
Heal The World |
正義も悪もなかった戦争から1年が過ぎた。 その間世界の治安は驚くほど悪くなってしまったように感じる。
とあるインタビューでアメリカ人が、 「この国の人間であることが、辛く悲しい」 と言っていたのが非常に印象的で、その顔は悲しみに満ちていた。
遠い国で起こっている事を知らん振りして、直視しない自分は、この国は彼の言う事をもっと親身になって受け止め、何が出来るかを考えなければ行けない。 某新聞の一面の記事で<復興支援に大義あり>と銘打って下らない文章を連ねていたが、全くの見当違いで、では何故今もって戦争は続いているのか?テロが世界各国で起こっているのか? アメリカ大統領のブッシュですら、まだ戦争は続いていると言っているのだから、戦争は終わっていないと考えていい。終わっていないのにどうして復興が出来るのか?僕の一番の疑問がこれで、終わっていない戦争のどこで復興が成り立つのかが分からない。
安全な地域?ティクリート?実際にテロは起こっているではないか! バカみたいにマスコミがイラク入りし、余計自衛隊を危険にさらすだけで何もわかっていない。これが日本のやり方…。 アメリカの言う通りに動き、NO!の一言も言えない。やっているのは首相の批判くらいでしょ?自衛隊の派遣についてもはっきりとしたビジョンがない。復興と言ってはいるが出来るわけないのだ、戦争が終わっていないのだから。
大規模なテロが起こったスペインではイラクから手を引く事を決め、アメリカを後押ししていたポーランドですら批判するようになった。
1年たってようやく気付いたんだ、自分たちが何をやってきたのか。 今から何をするべきなのだろうか?と考え始める様になったんだ。 僕達もそろそろ、考えよう。
世界のために、何ができるのか。 世界のために、何ができるのか。
罪のない人間がこの1年で1万人死んでいる。 テロによって、戦争によって…。 残された人達の悲しむ顔を見るたびに悲しく、辛くなる。 意味の無い争い、悲しみは僕は嫌いだ。 毎日、世界の人間が全て笑顔に包まれれば良いと心から願う。
世界を治療しよう。 笑顔の絶えない世界を創ろう。 僕達の世界は青だけど、それは涙の青じゃなくて 今日みたい晴れ渡った空の色。 その下で世界中の人が皆、笑っている世界が、 この地球のあるべき姿だと思っている。
完全に崩れてしまった。 いつもなら、何食わぬ顔してやり過ごすけど、 そうも行かなかった。
全ての言葉は失われ 感情が溢れ出した時には 涙はなかった。 もし、出たとしたならそれは偽りだと分かっているから。
だから平然を装って、でもそうできない僕は一体どんな顔をしていたのだろうか? きっと世界1不気味な顔をしていたに違いない。 その場にひれ伏す事も、 泣き喚く事も、 決して許さなかった。
世界で誰よりも孤独だった。 全てがモノクロに見えた。 必死で何かを探したけど、襲ってくる感情の波に ただ、ただ、耐えるコトしかできなかった。
事実を受け止める頭の良さ? そんなの必要無い。 事実でも、現実でもない 未来に夢を預けて、 信じてくれたら きっと幸せだったのに…。
サヨナラの言葉さえ失われてホームに入ってくる電車の風に顔をそらした。 繋いだ手を離して… 君が遠ざかって… 「離れたくないんだよ、本当に」 そんな言葉さえ言えないくらい、笑顔も作れないくらい 君の事だけを、まるで映画のワンシーンの様に僕はカメラになって撮り続けた。 「青梅行きが発車します」 アナウンスが流れる。 「じゃあね」 3歩僕の前に行って振り返りそう言った。君の笑顔がやけに苦しく辛く…でも愛らしかった。それを、僕達は恋と呼ぶ。ふに現れた感情に心が揺れて何も言えなくなる、それが何なのか知っている僕は呼び止めるしかない。 君が前を向いた瞬間、抱き寄せた。 何秒だっただろうか?ほんの一瞬の出来事… 「絶対迎えに行くから」 それしか言えなかった。
僕の役目はきっと君を守る事で、それをどうにかしようともがいて、降り積もる想いと心のドキドキが交互に混ざっては焦って何もできない自分がここにいる。 君が僕の前に現れた時に全てが回り出して、輝きを放った。
こんな時にどんな言葉を言えば君と繋がっていられるだろうか? 遠い街で暮らす君よ、僕の声は届きますか?
高さを競うようにして立ち並ぶビルの隙間から、太陽が顔を覗かせた。 その下には多くの若者達が眠たそうな顔をして地面に座り込み、酔いつぶれているヤツを介抱したり、必死で吐いているヤツの姿が目に入る。 土曜日の朝、渋谷の街、いつもの朝… 僕もその1人だった。
久しぶりに大学の友人達と遊びに来て、そのまま朝まで居酒屋で過ごすという学生によくあるパターンの遊びを渋谷に来てまでしてしまった。いつもは大学がある、東京とは言っても少し外れの田舎と言っても良い、街の居酒屋で朝まで…は良くあることなのだが、渋谷という街で朝まで友人と遊ぶという事はどこか可笑しかった。
この街のざわめきや浮ついた感じは嫌いじゃないし皆が誘い合う様にして、ハチ公前で待ち合わせしたり、気取った男がナンパしている姿はこの街に限っては許される気がしている。
車の行き交う交差点の信号で青に待っている人達、これから買い物に行く人、センター街から抜けて駅へ向け帰ってくる女子高生、B系の服をどうにかして売りたい黒人、キャバクラのバイトを紹介して金を稼ぎたい今風の格好をした兄ちゃん、幸せそうに何かを話しているカップル、仕事で疲れているサラリーマン、アフター5を楽しむOL、様々な感情が混ざる信号待ちの交差点は全てを黙って聞いて認めているようだ。それでいてきっちり仕事をしている信号機。 赤は、止まれ。青は、進め。 行き急ぐ人達を一度静止させて、落ち着かせて、もう一度歩かせるために信号を青に変える。
酔いに任せて1晩中飲んだ朝はどこか淋しい。嵐の後の静けさと言った所。誰も何も言わずに地面をじっと見つめている。太陽の眩しさと暖かさを感じつつ。電車の”ガタンゴトン”の音が遠くに聞こえ、朝が動き出すことを教えてくれた。覚束ない足取りで僕達は帰ろうとしていた。電信柱には何匹かカラスが止まってエサをあさる準備に取りかかっている。何でもあるこの街ではエサには困らない、カラスも人間も。 誰かがそろそろ行こうか、と誰に言うでもなく声をかけた。返事をするでもなく皆はゆっくり腰を上げ駅へと続く信号へと向かう。 僕は皆と逆方向へと歩き出した。誰かが気付き、どこ行くんだよ!と言ったが僕は無視してそのまま明治通りへと向かうことにした。
土曜日の朝の街は静かでまだ夢の中にいる人達を起こさない様に、街もゆっくり静かに動き出す。車通りも多くなく、いつもの様な忙しさも慌しさもなくスムーズに行き交う車の行き先を太陽は導いた。
明治通りへ向かう信号に止められた。 ―やっぱり― 思い出を迎えに行こうとしていた。立ち止まった3秒後に気付いた。両手はポケットの中に、思い出の友紀の右手は僕の左手にはいなかった。 ―思い出の友紀は僕を快く迎えてくれるだろうか?― 心配しながら信号を渡って、左手をギュッと握り締めた。
明治通りへ出るとすぐに歩道橋がある。そこが僕と友紀の待ち合わせ場所だった。ハチ公口をひどく嫌った友紀は少し離れた場所がイイと言ってこの歩道橋を登ったところを選んだ。ゆっくりと一段ずつ登って思い出を迎えに。すると後ろで約束時間を15分遅れて走ってくる昔の自分が今の自分を追い抜かして、階段を走って登っていく。息を切らして、でもとても軽やかに、嬉しそうに。
―ああ、ここだった― ビルが影になって歩道橋には太陽が届いていなかった。でもどこか暖かい気持ちになれたのは懐かしい思い出の場所を良き思い出としてまた来れたという思いからだった。何もあの頃と変わっていなかった。 ―元気だったかい― 誰もいない歩道橋に話しかけてみた、返事など期待しないで。 すると後ろで 「遅い!」と、怒られている昔の自分が「ごめん」と手を合わせて謝っている。 「まあ、いつもの事だから」と少しふくれた友紀の顔が浮かんだ。
左のポケットからタバコを取り出した、後ろにいる自分も。 明治通りを見渡せるこの歩道橋の上から2人のデートは始まっていた、いつも。 ショップが立ち並び、街行く人達が興味を示し入っていく。出てくるときに顔が見える。皆笑顔だった。当時の僕達の様に。幸せそうだ。
「今日はどうする?」 いつもの決まり文句から会話を始める。本当はどこでも良かった。友紀といる景色を楽しんでいたかった。左手と右手を繋いだ二人の、友紀との景色でずっといたかった。柔らかい友紀の右手をずっと感じていたかった。ずっとふたりで…いたかった。
太陽が高く昇り歩道橋にも光が射した。僕の影はすごく悲しそうに小さくて、後ろにいる昔の僕の影は楽しそうに、嬉しそうに友紀との会話を楽しんでいる。 大きく深呼吸をした。空が青すぎてずっと上を向いていた。僕の目に映る空は今、少し、滲んでいる。青が薄く見えた…僕の目にだけ。 ―こんな事しても何もならないのに― 呟いてみたけど、悲しくなるばかりで何一つ報われそうになかった。ただただ、青すぎる空を眺めていた。きっと下を向いたら何も見えなくなるから…。
もう1つ大きく深呼吸した。 ―友紀を忘れよう― 後ろの僕はタバコを消して「じゃあ、行こうか?」と言って友紀の右手をしっかり左手で握って明治通りへ降りていった。仲良く二人で。
僕は駅へ戻るために来た道を帰ろうとしていた、左手は空のままで。 ―じゃあ、さようなら― 2人の景色が背中で遠ざかって、僕は1人で景色描いて行くしかなかった。 そして、もう1つ ―ありがとう―
どこまでも続く青い空はきっとどこかにいる友紀も見ているはずだ。
ソフトケースのタバコに右手を伸ばし、ジッポを取るために左手を伸ばし、灰皿に目をやった。 ―今日、これで3本目― と思った所で右手を離した。 「節煙しよう!!!」 なんて陽気に言ったマキの言葉を思い出した。
「出来るだけ吸わないように、私は3日で1箱、あなたは3日で2箱。少しはタバコ減らす努力しようよ!タバコ代だってバカにならないでしょ?自覚を持って吸ってれば本数は減ると思うから」
「そんな事出来るわけないよ!!!君も僕も1日に1箱は吸うだろ?時には2箱行くときも…急に節煙しようなんて言われても無理だよ」
「急にって、じゃあいつなら急じゃないって言うのよ!今が良いの!今が」
そんなやり取りをしたのが昨日、電話越しで熱弁するマキを思い出した。 今さっきも”今日はまだ2本目よ”とメールが入ってきた。 長い間付き合ってるタバコ、1日必ず1箱は吸ってしまう。惰性や無意識の内に気が付けば吸ってしまう事をマキは注意を促したかったのだろう。自分の事も僕の事も考えて・・・。
そんな事を思ってしまうと右手はさすがにタバコを持てなくなってしまう…。 ―でもな、いつまで続くか…―
気晴らしに外を眺めた。 安定しない、落ち着きのないこの街のネオンが夜空を映し全てを吸収する。暗闇の中にいくつかの輝きが儚く浮かんでは遠く遠い、長く長い月日を思わす。この星は、この夜は幾つもの時間を重ねて、今日という日を迎えた。明日も輝きは色褪せることは無い、何十年先も。
街を歩くサラリーマンがタバコのスイガラを捨てた。自分の足元に落とし、革靴の裏で火を消した。いつもの様に。気にもせずに。その捨てられたスイガラの上を何人もの人間が踏みつけ、次の朝清掃する人間が丁寧にホウキを持ってそれを拾い上げる。それでスイガラは成仏できるのかは分からないけど…。星はそんなスイガラにも光を与えてくれる。 ある日、月がタバコの煙で隠された。すると雨が降り、地面に捨ててあるスイガラ達を容赦なく打ちつける。スイガラ達は土に帰る事が出来るが、 ―今度生まれてくるときはタバコにだけは生まれません様に― と願う。月はその願いを叶えるかのごとく次の朝、昨日の雨が嘘のように晴れ間を見せてくれる。
携帯電話が鳴った。 「今日、何本目?」 マキからだ。 「まだ、2本だよ」 正直に答える。 「偉い!!!」 「月にイタズラされたくないからね」 「何言ってるの?」 「明日は晴れるかな?」 「みたいだけど…それより、映画借りてきたから早く帰って一緒に観ようよ」 「3本目吸ったら帰るよ」 「吸いすぎちゃダメだからね!じゃあ、待ってるから」 電話は切れた。
ゆっくりと3本目に火をつけた。 吸い終わってから 「ごちそうさま」 と言ってマキの元へと急いだ。
2004年03月02日(火) |
キレイとは言えない女 |
太陽が沈みかけている。 月と交差しそうでしない両者は、また明日と約束を交わす友人のように少し遠い距離からお互いを見つめ合っている。
もうすぐ午後6時になるところ、来店を継げるベルが鳴った。 気だるそうに1人の女が入ってきた。 パンツスーツにシックな鞄、化粧はそこまで厚くもなく、どちらかと言えば自然な感じで清潔感溢れている。決して美人とは言えないが、もてるタイプ。仕事もできそうな才色兼備。そういったイメージをさせる女性。
四人席が空いていることを知ると店員の呼びかけも無視して自ら席を決め、隣に鞄を置いて座った。その座り方も気だるそうに、水を持ってきた店員にもそれが分かったのか接客をしづらそうな顔をして丁寧に水と灰皿を置いて聞こえるか聞こえないか位の声で 「ご注文が決まり次第、申しくださいませ」 と言ったが、案の定、女は知らん振り。聞こえていたのかもしれないし、聞こえていないのかもしれないが、どちらにしろ女は知らん振りをしたはずだ。 店員は俯いてその場を去った。きっと後で 「何よ、あの女!ちょっといい女だからって・・・」 同僚に言うもののそれは本当に何の慰めにもならないことを知らされるのだろう。
女は鞄からシガレットケースを取り出した。セーラムでも吸うのかと思ったがセブンスターを口に加え火を点けた。いかにも慣れた手つきで、ライターに火をつけタバコに火を点ける。セブンスターを吸いなれている女は多くは無いはず・・・。 女はゆっくりと煙を吐き出した。吸い方が汚い。思い切り口の中に煙を溜め込み、大きく口を開けるとゆっくり今みたいに吐き出す。吐き出すときの顔が何とも言えず醜い。二口目を吸ったところで女は手をあげ店員を呼ぶ。
「コーヒー」 最も短い単語を適切に伝えたが、店員は引き下がらなかった。 「ブレンドコーヒーとアメリカンコーヒーがありますが」 少し強めに、鼻にかけた言い方をした。もちろん女に対して意地悪心が働いたのだろう。だが女はそんなことを例え感じ、分かっていても気にはしない。常に自分より相手を下に見る女のクセ。生まれ持ってしまった性格・・・。 「ブレンド」 とまた適切に短く、そしてタバコを消すと 「どっちでもいいから早くしてくれますか?」 店員は完膚無きまで打ちのめされてしまった。しかし女は悪気の1つもない。ただ正直にモノを伝えただけで相変わらず気だるそうだが、全く店員には興味もなく、意地悪を言うつもりも無く、ただただ事実を伝えたまでだった。 「少々お待ちください」 店員が言える言葉はこれだけだった。
コーヒーが運ばれると女は一口飲んでまたタバコに火を点ける。 今度は鼻から煙を吐きだす。この汚い吸い方、女の欠点だった。女はそのことを分かっていない。全て完璧と思って疑わない。
女はそれほど男に困らない人生を送ってきた。それでもいつも喫茶店に行くと、どうも上手く行かないこと薄々気付いてはいたが、それは男の話が詰まらなかったとか、男の気配りが足りなかったとか全て男のせいにしていた。 タバコの吸い方さえ気をつければそれなりの男を自分の下に置いておけていたのに、それに気付いていない女は確実に不幸だった。
「ね、どこかでお茶飲もうよ!歩くの疲れちゃった」 可愛く言うのは構わないが、その吸い方を直さない限り幸せなど訪れない。 喫茶店から出てきた男の顔を一度でいいから見てみたい。 きっとイイ顔をしているのだろう、悪い意味での。
決してキレイとは言えないがタバコの吸い方がキレイな女 決してキレイとは言えないし、タバコの吸い方も汚い女
さあ、どちらを選びますかね。 明日はこの場所に男と来る事を祈って・・・。 そうすれば店員は少しくらい救われるでしょうから。 すっかり外は暗くなって月の明かりと街のネオンが交差してキレイな夜を演出している。 明日も明後日も。
老人に聞いてみた。 「あなたの歩いてきた道は?」
老人は言った。 「実に平坦だったよ。人生山あり谷ありと言うが、全てを統合すれば平らになる」
老人に聞いた。 「あなたは満足したか?」
老人は言った。 「満足と言う言葉は嫌いでね、強いて言うならば楽しかったよ。 人生とはミステリー、霧の中でサマヨイ歩く。その先に見えるものは人それぞれ違うが、見たものが明るくあれば良かったと言える人生なんじゃないか?君はどんな人生を送りたい?」
僕は言った。 「あなたの様に、良かったと言える人生を送りたい」
老人は言った。 「平らな人生でもいいのか?」
僕は答えた。 「では、あなたの逆の人生を歩む」
老人は言った。 「じゃあ、楽しくないかもしれないな」
僕は困った。 「では、どうすれば…?」
老人はゆっくりと話した。 「君の人生は君自身で描くものだ。誰かの真似をして生きようと思うことは正しくない。君の人生のレシピは君自身が感じ、学び、描いていくものだ。最高の人生など言葉ばかりだが、君のレシピの中身がそれを創っていく。どのように描くかは君次第。様々な困難も、過ちもあるだろう、失敗から多くを学んでいけば良い。」
僕は言った。 「あなたに僕自身最高の人生の行く末を見てもらいたい」
老人は言った。 「わしも一生懸命生きるよ、もうレシピを書く必要はないがね」
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