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2004年02月29日(日) Simple Story <芽美編>

―もしかして、あれ秀人じゃ…―
女は気まずいなと思った。
まさかこんな所で出くわすなんて…。気付かれないように神に祈った。

その願いはあっさりと裏切られ、秀人に捕まってしまった。
何かを話しているが、芽美は違うことを考えて、秀人の話を聞かないようにした。
芽美、芽美とウルサイが、今この時間だけ芽美じゃないと自分に言い聞かせ、
「人違いです」
と言ってその場を去った。

付き合っていた過去さえ消滅させてしまいたい、そう心から願った。
が、簡単に忘れられないということを芽美は知っていた。

短いが、この人生の中で彼ほど心を許した人はいない、まして結婚なんて考えてもいなかった私が秀人より先に結婚しようと言ったのは、間違いなく秀人を愛していたからだ。
もしかしたら…今でも…変わらないのかもしれない。

信号を渡りきって一息、溜息を付いて携帯電話を取りだし、宝井秀人のアドレスが映し出されるともう1つ溜息を付いて…電話をかけた。

「次の信号を点滅する前に渡りきれる?」
芽美の顔左半分を西日が差した。



2004年02月28日(土) Simple Story <秀人編>

西日が差したPM5:30。
スクランブル交差点で、仕事帰りの男女が疲れた顔をして信号が青に切り替わる時を待っている。
長く伸びた影は幾重にも重なって大きな影と化した。そこに皆が溜息を漏らすと一瞬大きくなり、小さくなる。
青に変わると一斉に影はバラバラになり、思い思いの方向へと姿を消す。

秀人は真っ直ぐ家に帰ろうと駅へと向かう。その信号の途中で
「アレッ」
と思った。

「芽美じゃないか!!!」
ある女を見て思わず引き止めた。
が、女は怪訝そうな顔をして
「誰ですか?」
と問いなおす。
「芽美だろ?違うの?」
西日が女の右側を差している。
―人違いか?―
と思ったが芽美に間違いない、秀人は確信した。
が、女は
「人違いです」
とその場を去っていった。
青信号が点滅している。急いで横断歩道を渡りきる。
それから後ろを振り返ったが、女の姿は見当たらない。

―芽美だと思ったのにな―
溜息を付いて改札口へと消えていった。



2004年02月24日(火)

静かな日に生まれた。
小さな命が今日もどこかで誕生する。産声を上げて。
母親の幸せそうな顔、父親の安堵の表情。

命は宝物。

誰かが言っていた。
この世に生を受けて来たこと自体に価値がある、と。

22年積み上げてきたものは何だかは良く分かっていない。
ただ、この場所にいることができて、良かった。
ただ、この地球に存在することができて、良かった。
一つ一つの感謝の積み重ねが僕を育てているんじゃないかな?

存在すると言うとても尊いモノ、
意味有るとか無いとかは関係無い。

これからもきっと僕は生まれてきて良かったと思えるだろう。
今日、命を授かる人よ、どうか希望に満ちた人生を。
笑っていられる人生を。



2004年02月13日(金) 落書きのような詩

君の横に居たはずの僕がいなくて、
僕の横に居たはずの君がいなくて、

君の傍で
君の横で

もう、振りかえらないよ。
もう、泣きはしないから。

明日は虹が架かるはずだから。



2004年02月04日(水) 黒ヒゲのサンタクロース

「ねえ、パパ!サンタさんいつ来るの?」
「ん?明日かな?もしかしたら来ないかもしれないよ」
「えぇー!ダメだよ!ゆみはちゃんとイイ子にしてるから来るもん!」
「イイ子にしてるから来るよね!ゆみちゃん」
台所にいる妻が口を挟んだ。その後に僕の方を見て
―どうにかしなさいよ―
みたいな顔をして少し笑顔を見せた。しどろもどろする僕を見て楽しんでいる様にしか見えない。
―少しは協力して欲しいもんだけど―
何て思ったが言っても無駄なことは分かっている、タバコの煙と一緒にどこかに消えていった。
12月になると急に全てが慌しくなる。街を歩けばイルミネーションで街は彩られ、家に帰ってくればTVではクリスマスツリーが放映され、隣でゆみがサンタ、サンタとわめき、どこで覚えてきたのか玩具のCMを見ては、折り込みチラシを見ては、
「これ、サンタさんにお願いするんだ!」
何てニセモノのサンタさんの前で言う。お前はオレがサンタだって気付いたらどうなるんだろうな?

「たまらないよ、実際」
と、こぼした同僚は僕より大変で子供が3人もいる。小学校に上がったばかりの子と、幼稚園に通う子、保育園に通う子、まさにこんなイベント事には盛りなのだ。
同僚のサンタは大忙しで仕事そっちのけで子供の欲しいものをリサーチしていつ買いに行くか、どうしたら見つからないか、そんな事を考えている。それに加わっている僕も立派に仕事をサボっている。

「でもな、こういう事していると本当に父親になったんだな、子供を育てている立派な大人なんだよな、自覚が湧くよ」
確かにそうだよな、自分もちょっと前までは、ゆみと同じように騒いでサンタに玩具をオネダリしていたもんな。
「本当にサンタクロースがプレゼントしてくれたらなぁー」
何て僕が言うと、
「お前はいつまで子供のつもりだよ!」
何て言われるから、やっぱダメなのか?何て思ってしまうけど、それでもしっかりゆみの欲しいものはチェック済みだ。

自分が子供の頃も同じだった。サンタクロースの存在を信じて枕元に寝ている間にプレゼントが置かれて、起きて中身を空けてみると律儀に自分が今、一番欲しいものが手の中にある喜びは今でも忘れられない。

いつからだろう、自然と気付いてしまったのは、あの遣る瀬無さは。そうやって大人の階段を上ることはあまり良いことではないなと今にして思う。子供じゃいられないと気付く瞬間はとても悲しい事だ。それでもサンタとサヨナラしたいつかは少しだけ背伸びして、―それでいい―と思った、子供と大人の狭間で。

窓の外は満天にか輝く光が生きている。サンタがトナカイを連れて空を飛ぶ今宵はとても良すぎる天気だ。もしかしたらサンタが見られるかもしれない。

白いヒゲを生やしたサンタクロースに。

由美はいつ気付くのだろうか?黒いヒゲを生やしたサンタクロースの事を。もし、分かったとしても演技でも良いから
「サンタさんありがとう」
と言って欲しい。
―大人にはなるな、子供でいなさい―
僕はいつか由美に言いたい。大人になってからでもいいから言いたい。サンタクロースは本当にいるんだよ、と。由美が大人になって子供を持ったときも同じように教えて欲しい。全ての事を知ることは良いことではないから。
黒ヒゲのサンタクロースは皆、子供のことを愛してるから優しい顔して枕元に気付かれない様に本当にサンタクロースになった気分でプレゼントを置く。
そして、次の朝、何食わぬ顔をして
「おはよう」
と言う。
「サンタさん来てくれて良かったな、イイ子にするんだぞ!」
と頭を撫でて
「うん!」
と喜ぶ子供の顔を見るのが何よりも幸せなんだ。

いつか言ってくれ、由美
「照れ屋で黒ヒゲのサンタクロース、ありがとう」




2004年02月03日(火) 月の光

月が傾きだした真夜中過ぎ、
一番綺麗な場所で月を見ようって
うつむき気味の君の顔はどこか綺麗だった
月に似てた

月が傾きだした真夜中過ぎ、
助手席に座る君の横顔が見たかった
街頭と月が交錯する交差点でクラクション
月が驚いた

泣き出しそうな顔して、
月を見上げて、
月に流した
そうだね、届けばいいのにね、あそこまで
願い乗せて、届けばいいのにね、綺麗な月まで

強く、優しく街を包む月の光
穏やかに、優しくこぼした月の雫
ほら、また明日へ繋いでる

泣き出しそうな顔をして
空見上げて
笑顔こぼせば
そうだね、届いたよ僕の心に
右手繋いで綺麗な月に
願いを二人で

願いは二人を繋いで、
右手繋いで
月は朝を繋いで。


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