2003年12月23日(火) |
K.and his bike |
錆び付いた自転車のチェーンがギシギシ音を立てては向かい風の強さに今にも自転車を止めたくなってしまう。 ―負けたくねえ!― Kは独り言を言う。どうでもイイ事を。負けるのは大嫌いなKにとっては自転車でさえ、勝負のひとつにする。誰とでもない、ただ、自分との勝負。自分に負けるのが一番Kにとっては許せない。 急な上り坂が待っていた。 ―絶対負けねぇ!― Kはただの負けず嫌い。 右足を漕げば、ギィーギィーと、左足を漕げばギィーギィーと。 向かい風も容赦無く吹き付けて思い切り漕ぐ両足の太ももは言うことを聞かなくなってきている。 ―もうすぐ頂上だからがんばれよ!― 自分に鞭をうった。
雲一つ無かった。太陽がこっちを見ていた。誰よりも空に近い気がした。届きそうな気がした。 どこにでも行けそうな気がした。 坂道を下ったら、右に曲がってみよう。
2003年12月15日(月) |
CLOSING TIME |
「カラン」 氷と氷がぶつかる音が部屋の中にひとつ響いた。深夜のテレビの中では古いフランス映画をやっているが、全くストーリーは分からない。かといって分かっていたとしてもその映画はきっとつまらない部類に入るものだろう。深夜のテレビとはそういうものだ。 「ヵチン、ジッ、ジュー、フゥー、ヵチン」 吸わないと煙草がつけられないことを知ったのはいつだっただろうか?それほど遠い記憶でも無い気がする。始めの一口はやけにむせて、気持ち悪くなったっけな。 ゆっくり、ウイスキーを口にした。 胃の中に落ちて、燃え上がる様にして熱くなる時の快感にやみつきになってしまった。一口目に来る苦さ、二口目に来る喉の熱さ、三口目に来る胃の熱さが、たまらない。 ―そんなときにもいつも、音楽はあった― スローダウンな曲に身を任せて毎晩のようにして酔っていた。嗄れ声の彼の真似をして ”So,good-bye. So long,my road calls me dear and your tears cannnot bind me anymore” 唄ってみるものの、似合わなすぎて一人で笑った。こんなとき、こんな夜には昔の写真なんか引っ張り出してずっと眺めてみたりする。今よりずっと幼い少年がそこにいることが可笑しくて、ウイスキーを飲みながらそれを見ている自分にさらに笑いがこみ上げる。「時」という分かりそうで分からないモノを掌にのせてその都度踊っている自分がおかしい。 少しは成長しているみたいだが、基本は変わらない。いや、変わりたくない。だから、 ”I'll kiss you and then I'll be gone” 二回唄ってみた。 もちろん、嗄れ声で。酔いに任せて
日常があまりにも俯いているから、雨の音を聞いてはどこかへ行ってしまうそうな自分を必死で止めようとするもう一人の自分。 「引き金さえ引いてしまえば日常からはみ出せる」
幻覚を見たかったからと言う理由で始めたクスリは、いつからか安定を求めていた世界を覆してしまった。部屋には、いくつもの「目」が住み着くようになった。 これを幻覚と認識してながら、どっちの世界にいるのか全く分からなくなってしまう自分と対峙して、急いでシャワーに入る。 とても熱いシャワーを。全身を麻痺させるくらいの温度で。それからゆっくりと手首にカミソリをあてる。血と水が排水溝の近くで混ざり合って一緒に流れていく、薄い赤色をした水とも血とも呼べない液体が消えていく。 「綺麗な色だ」 と落ち着くとそのままゆっくり眠りにつく。眠りにつける。
明日も平和だ。 日曜日の公園はいつもそう感じさせてくれる。子供達が遊ぶ声を聞く度に明日も平和だと。いつも公園にはLOVEが溢れているように思えて。
砂場で遊ぶ子供に手を差し出す母親の愛。 ゆっくりと山なりのボールを投げて取りやすい様に投げる父親の愛。 滑り台から降りてくる子供を受け取る母の愛の手。 鉄棒にぶら下がる子供を支える大きな父の愛の手。
−明日も平和だ− 散らかった砂場を見ながら僕は思う。プラスチックのスコップやバケツを見ながら昼間の五月蠅さを思い出す。それは平和の象徴だ。 子供の笑い声、泣き声。 LOVEに溢れた公園。 明日もまた、平和だ。
欲求の満たない男。 欲求のない男。 どっちを選びますか?
お菓子の食べ過ぎで脳味噌腐ってしまった男。 お菓子の食べ過ぎで体のラインが腐ってしまった男。 どっちが好きですか?
難しい質問に、いつまでも考えて結局答えの出ない男。 難しい質問に、ギャグで笑いをとって誤魔化す男。 どっちなら付き合い切れそうですか?
ビデオを見て自慰してる男。 本を見て自慰してる男。 どっちなら救えますか?
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