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2003年11月11日(火) そのせいで。

白い吐息はタバコのようにも思えた。
窓の外の空は何色とも言えない、不機嫌そうな色をしてこっちを向いている。
―この冬はどうしようか―

今にも雨が降り出しそうな、もしかしたら雪が降るような。出掛けに天気予報でもみてくればよかったと後悔した。当てにもならないけど、見ないよりは見ておいたほうがいい。傘を持つかどうか位の目安になるから。悴む左手はどうしようもなく宙を彷徨って、それから仕方なくポケットにしまった。
―どうすれば上手く歩けるのかな―

失った重さより、自分自身を見失ったことの方が辛い。イコール関係になるのかもしれないけども、僕にとってはまた違う問題で、もうすでにそこには「ミク」はいなかった。と言っても、もちろん自分もいないけど。
手のひらに残る儚い温もりは当分残りそうだ。どうせ、いつかは忘れてしまうようなものだけど、今はきっとすがりついていたいのだとも思う。
―男はいつだって女々しいんだ―

地面はゆっくりと色を変えていった。少し濃くなって所々に水溜りを作った。それがいつまでも続くような気がしていた。傘を買うこともしなかった。「ミク」を探すことも。気にしない振りでもしていれば一層辛くも何ともないのだろう。そこまで強い人間でもない。雨の匂いは久しぶりに感じる冬という季節を感じさせてくれた。
―導くのはこの雨かい―

ミクが言うことも少しは当たっている。
「どうせ、あんたなんか私しか愛せないんだから」
でもね、新しいことも必要だなって思うときもあるんだ。ただの身体なんだから。思い上がりや、期待でも。全てひっくるめたら、やっぱり
「ミク」なんだ。女々しいんだ。
―雨上がりを待ってみようか?―

「帰ってくる場所があっていいわね」
出掛けに言われたことを思い出した。
やっぱり女々しい。



2003年11月04日(火) 仕事後のファミレスにて

朝方のコンビニには色んな顔がある。光と影が混在する空と煮詰まった珈琲を飲みながら。僕は今日の講義時に出さなければいけないレポートの追い込みをかけていた。夜からずっと居るのだが、進まない。焦りばかりが進んでしまう。
すっと朝に切り替わる空には赤が射し込む時間になると、来店を告げるベルが鳴った。いつものファミレスのシステムだ。スーツの二人組が入ってきた。
時間から言って、仕事が終わったホストだろう、小綺麗にしてあるのも含めて。
「あの女、ぶん殴ってやろうかと思ったよ!」
「実際、できねーだろ!」
「俺、思うんだわ、〜思ったよって言ってる本人は絶対に何もできないんだわ!」
「意味がわかんねーよ!」
「だからさ、よくいるだろ?マジで殴ってやろうかと思ったとか言ってるオマエみたいな奴が。思ったってのは思っただけでマジとか言ってるけど、実際にはできっこないってことダヨ!殴ることだけじゃなくて他のことも同じだよ。思ったなら、実行しろってね俺はいつもそいつに言いたくなるよ!」
「ふーん、分かったような・・・。」
「んで、他に面白い話があるって言ってだけど何よ?」
「あーあ!まゆみって言う女今日いたろ?」
「ああ。」
「持ち帰ろうかと思った」
「だから!!!」

こんな感じで僕のレポートは終わる訳はなく、結局やろうと思っただけで、実際には終わらないのだろうな・・・。


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