夏が終わる。
一つの季節が終わる。
そして、
一つの季節が始まる。
終わり
と、
始まり。
どちらを愛でようか?
過去
未来
どちらも手の中に有りそうでないような・・・。
変わらないものなど一つとしてないと誰かが言っていた。
僕は
そうは思わない。
変わらなきゃ!
とだれかがCMで言っていたけど
僕は
変わらない。
変わりたくない。
色んなモノを積み上げては崩すような事はもうしない。
過去
は
ない。
愛でることも
しない。
過去を背負う事もしない。
大人には
なれそうにない。
誰かが言っていた。
今を愛でよ
と。
好きな街だ、今でも変わらずに。 始まりがココだったからだろうか?ヤケに落ち着く街だ。 と、言って特別何がある訳でもない。どちらかと言えば怪しいとか、危ないとかそう言った言葉が似合う街だ。けど、その怪しいとか危ないが余計その頃の自分たちを現している様で、不安定な橋の上でお互い微妙な線で繋がっていたように今となっては思える。
深夜のレストラン、下らない会話。 コーヒーとココア。 タバコとライター。 終わりのない話はいつまでも続いた。 それが楽しくて、終電の時間を無視したのは君だっけ? 想い合っていると口にしてしまうと嘘臭くて、でも繋がっていたくて・・・。 誰かに自分の事を、考えを、聞いてもらったことはない。僕は秘密主義だし、聞かれないと話さない。自分から進んで話題を作ると言うことはしない。でも、君には自分から進んで話を聞いてもらっていたように思う。もちろん、君の話も聞いた。お互いのことをほんの少しだけど、少しづつ知ることが出来たのはあの深夜のレストランからだったように思う。何杯目かのコーヒーを注ぎに行って帰ってくると、とても物欲しげな瞳をして僕の左手をそっと握ったことを覚えている。その物欲しげな瞳に僕は微笑む事しかできない。その表情をみるといつも君はズルイ!というのだが、僕はあのときああするしか術がなかった。他の顔をしてしまうと全てを見抜かされてしまいそうだったから・・・。 時折吹く冷たい風にどうしようもなく、手を繋いだ。 そして、思わず唇を奪った。思わず。きっとそれは何秒かの出来事だったのだろうけど、僕にとってはスローモーションだった。この時が全てを包むと信じた。
夜明けにはいつも違う空が見えた。 別れが近づくことを知らせるベルは本当に嫌だった。 駅まで送る僕、下向き歩く君。 改札まで行ってその先が行けない君を見ては、いつも切ない気持ちで一杯だった。切符を買うことすら時間を掛けたがる。 −同じ気持ちだよ− 何でその時言ってあげられなかったんだろう?今ならはっきりと言えるのに・・・。後ろ姿をいつも見ていた。悲しそうに、トボトボと。
あの街に一緒に帰らないか? きっとあの街も君を待っているよ。 あのパスタ屋さんも、暇つぶしのゲームセンターも行ってみよう。 そして思い出話しでもしながら、あのときと同じように夜明けを待ってみないか? 何にもないけど、ただそこにはいつもの二人がいて、嬉しそうに手を繋ぎ歩けば全てが包んでくれるハズだから。
優しく夜は流れていく。 柔らかな月はこっちを見ている。 寝息を立てて静かに眠っている。
クーラーの音が部屋に響いて、静かに眠る寝息がリズムよく耳元で「スッースー」と。静かに眠っている顔を眺めている。鼻をつまむと気付いて目を開ける。 「止めて!」 また夢の中へ戻ろうとする。けれども戻らせない。また、鼻をつまむ。 すると、思い切り腕に噛みつく。当然の様に・・・ 悲鳴をあげる。お返しに鼻にキスをすると、嬉しそうに笑顔を見せた。向き合って今度は唇を奪う。ゆっくりと夜に溶けていく。二人は生まれたままの格好で抱き合う。お互いを探り合うかのように抱き合う。
月に一番近い場所で、神を越えようとする。 体は正直に求め合う。甘い果実を頬張る、禁断の果実を。 優しく触れ合う。激しく抱き合う。柔らかな夜に溶けていく。 月が羨ましそうにこっちを見ている。 離れない。 離さない。
二人が神をも越える瞬間、いつも永遠を祈る。 ここはいつも無罪だ。 軋む音は何を奏でるだろう? 朝を迎える少し前にお決まりのおやすみのキスを交わす。
少しだけスルイと思った。 「えっ?・・・」聞こえているのに聞き返した。ゆっくり降り続ける雨のせいにして。立ち上がって台所に行って氷を二つ、そしてコーヒーを注いだ。電気もつけないから暗い。冷蔵庫の明かりだけが部屋を照らす。君がどんな顔しているのか分からない。 きっと・・・。 「ううん、何でもないよ」 ワザと気にしてないふりをしたのだろう。戻ってきて隣に座る僕に笑顔をみせた。 水たまりが出来たらその次の日には青空を映すのだろうか? 太陽がはんしゃしてそれからゆっくりと姿を消すのだろうか?いつもの道に戻るのだろうか? 「明日、雨かな?」 「どうだろうね」 静かな時間が静かに二人の間をすり抜ける。並んで座る二人の耳には、時計の秒針の音続いて雨の音しか入らない。
−子供ができたみたいなの− さっきの言葉を頭の中で反芻した。君がどんな顔をしているか気になった・・・けど見ることが出来なかった。聞き返した僕は・・・本当にズルイ。頭の中ではいつか来るだろうと思っていた言葉が現実として言われた瞬間に何も言えない自分は逃げた・・・聞き返した。 急に雨が強くなった。誰かに叱られているみたいだった。いつもは微糖のコーヒーを飲むのだけど間違って無糖のコーヒーを買ってしまったせいか、少し・・・苦かった。
「明日も雨みたいだな」 今の僕にはこんな言葉しか出てこない。 「ねえ、てるてる坊主作ろうよ」 作り笑顔が痛々しい。心の中まで見られているような気がして所在ない。返す言葉はうん、の一言。 ティッシュペーパーを丸めるだけ。二人で一緒に。会話は・・・ない。 「てるてる坊主の中に願い事を書いて一緒に包むの。それで次の日晴れたら願い事が叶うって」 最後の方少しつまり気味で話す口調が辛さを引きだたせる。きっと目には涙を溜めて・・・。 雨は徐々に弱くなってきた。僕はどっちを祈ろうか。 明日雨が降ればいい−明日晴れればいい− 願い事を僕の見えないところで一生懸命書いている。僕は何も出来ない。何を書いているのか気になってしまう。 車が通り過ぎる時、水たまりをはねる音が「ビシャッ」と。 ペンを持ったまま結局何も書けなかった。
仲良く二つ窓際にてるてる坊主をつるした。君が作ったてるてる坊主の顔は悲しそうだった。 「何て書いたの?」 「明日晴れになればイイってね」 嘘を付いた。今の自分は答えのない質問の答えの過程を探そうとぐるぐる回ってるみたいだ。 −明日、晴れでもなければ、雨でもなければいい− 実のところはこうなのかもしれない。 並んでいる、てるてる坊主はこっちを向いて怒っている・・・様に見えた。君の代わりに、そしてまだ見ぬお腹の赤ん坊に・・・。 僕を包んでしまうてるてる坊主が欲しい。願いが叶わなかったらその日のウチにてるてる坊主ごと捨ててくれて構わない。−止まない雨などない−
夜になっても雨は止まずにゆっくりと降っていた。夜のリズムに合わせて。電灯が雨粒を照らす、一つ一つ。地面に降りた雨はどこかへと流れる。電灯はそれに合わせ照らす。雨は地面を徘徊してどこかに集まりいくつかの水たまりを作る。導かれるようにして。 消えては浮かぶ想いを水たまりに浮かべて電灯に照らしてどこかへ連れて行って欲しい。こんな夜はどんな名前を付ければ良いんだろう? 君はどんな願いを書いててるてる坊主に祈りを込めたのだろう? 手を握れば想いは分かるのだろうか? 明日は晴れを祈るのだろうか? 二度目の子供ができたみたいなの、は今のところ言ってはくれない。むしろ、言えないのだろう。言えなくしたのは・・・僕だけど。 雨のメロディーは夜明けと手を繋いでまた奏で続けるのだろうか?星もない今宵、願いはまだ不埒に行ったり来たりしている。子守唄代わりの雨音は君を夢へと導いた。僕は眠ることはできない。こんなメロディーじゃ。 −メロディーよ止んでくれ。あいつを元気づけるメロディーを− 書き殴った願い。長い長い夜明けを繋ぎそうなメロディーは繋ぐ前に止まりそうだ。 電灯はゆっくりと水たまりを照らす。 この夜明けに名前など・・・。
「起きて」 遠くで聞こえる。耳と意識を繋ぐものがはっきりしないで、遠くの方で呼ぶ声は意識の彼方でずっとこだましている。瞼の裏側が明るい。−メロディーは聞こえない− 「晴れたよ」 嘘のない笑顔だった。二回目の言葉は一度胸の中にしまってただ今日晴れたことを喜んでいる姿はまるで子供がはしゃぐ様だ。 「外行こうよ!」 誘われるままに外へでた。 雲が浮かびゆらゆらと太陽を避けるようにして飛行している。少し笑った、名前のない朝に。繋いだ朝、繋いだ右手、誰よりも上手く笑った君と太陽は似合いすぎている。 水たまりは時折雲を映すものの、青い空をメインにどこまでも青い空を永遠に映すかのように。僕は邪魔をした、上から覗いた、水たまりを、青い空をバックに。 そこにもう一人邪魔が入った。何も疑うことのない笑顔で。 そのまま何秒同じだっただろうか? 二回目の言葉は・・・もう言わせない。
「なあ、もう聞き返さないよ」 「何?」 「てるてる坊主に書いた願い叶えよう!」 雲が邪魔をした。それでも僕は笑っていた。君は泣きそうな顔をしている。 「何て書いたか知らないくせに」 「分かるよ、もう迷わないから」 それだけで十分だった、二回目はもうない。 夜明けを繋ぐメロディーはもういらない。ゆっくりと水たまりは小さくなっていく。 向き合って両手を握って・・・「もう迷わない」
虹が出ていた。僕はその向こうをずっと見ていた。雨が濡らした道を歩いていく、太陽が地面を射しゆっくりと乾いていく。振り返る、少し遠回りをした。今度は僕たちが奏でればいい、優しいメロディーを。 てるてる坊主は扉を開く僕たちを笑顔で迎えてくれるだろうか?
お香の匂いが部屋中を取り囲み、一日の終わりを告げる。ウイスキーが喉を通り抜け胃の辺りを熱くさせてくれる。同じ様な終わり方だ。コピーした書類と同じ様な毎日だ。−内容が有りそうでない。それでいて量だけは多い− これが人生だという妥協の仕方はいささか飽きた。 もうすぐ梅雨明けだとお天気キャスターは言った。雨は嫌いな方だ。憂鬱な日に成ってしまうから。それでも明日は雨が降ればいいのに・・・と珍しく思っている。ただ、意味もなく。それでも願うように。
ジャズの奏でるメロディーラインにそってタバコの煙も同じように天井に向けゆらゆらと踊り始める。気がつけばどこかへ消えてしまう。気がつけば灰が落ちそうになっている。ウイスキーを胃に流し込む。無理矢理に。明日へワザと疲れを残すように。ジャスのドラムとベース音が下腹部を気持ちいい程度に刺激しては、ゆっくりと眠りを誘うようにして酔いは襲ってくる。コピーの様な・・・。
「もしもし元気にしてる?」 「どうした?こんな時間に」 遠くで何かの音がしていた。意識が薄れ始めた頃、こうやって無機質な音に邪魔さた。しかもあまり良い相手ではない。まさか今更・・・。 「あら、ずいぶん冷たいのね」 「冷たいのは君の方だろう。五ヶ月も連絡して来なかったのは誰だ?」 「心配してくれたの?嬉しいわ」 つい本音が出てしまった。慌ててジッポを点けた。 「ああ、心配したよ」 「でも私たちはもう何の関係もないじゃない」 「君はそう思っているのかもしれないけど、僕はそうは思ってはいないよ」 自分でも驚くほどに素直に言えるものだと関心した。灰皿に灰を落とした。 「優しいのね、そんなこと言う人じゃなかったのに」 「君のいない間変わったんだよ。人間は日々進化していくモノだから」 「じゃあ、もう私がいなくても大丈夫よね?」 「ずいぶん冷たいんだな」 「お互い様よ」 「嫌な女だ」 「嫌な男ね」
ウイスキーをいくら胃に流しても、もう酔えない夜だった。ゆっくりジャズは流れゆっくりと時計の針は下りてくる。−太陽は上がってくるのかな?− もう、思い出にすがりつく年でもない。 日本地図がテレビ画面に映し出されている。東京は思いっきり晴れマークが表示されていた。
溜息をつきながらさっきから何度も何度も同じ言葉を繰り返している。 −つまんねーな− の次は、 −さみしいな− 口癖の様に今日何度口にしただろうか? 無闇に吸うタバコが追い打ちをかけて淋しさを煽る。 今日2箱目。仕方ないと自分に言い聞かせつつ1本吸ってはまた1本・・・ 次々と口に加えてはジッポの「カチッ」という音を響かせる。今日はいつもより多く聞いている。暇だから・・・だけでは済まされない他の理由があるのは分かっている。それを口に出してしまうと少し嘘に聞こえてしまう。けれど今日は、一人で過ごす今日は独り言を言うように何度も口にしている。
制服を着ている高校生が電車内で騒いでいる。夏休みの間になにがあったかワイワイ話し合っているようだ。今年の夏を象徴するかのように、高校生達はそれほど日に灼けたという感じはない。それでも元気そうに車両の端に座って談笑している。時に大袈裟とも言える大きな笑い声で笑顔を浮かべる。その姿を見て少し羨ましいと思う自分がいた。きっとそれは今日だからだろう。今日だからあんな笑い声に敏感に反応してしまったのだろう。
・・・・・・今頃君も・・・楽しく・・・しているのだろう。
−つまんねーな−
いつの間にか9月に入った。夏休みを思い返すと必ず隣にはいつも君がいる。あの高校生のようにバカみたいに笑ってはしゃいだり・・・していた。楽しかった。何より毎日二人で笑っていたような気がする。君のための夏休み、そう言ってもいいだろう。笑顔だったり、泣き顔だったり、怒った顔だったり・・・。 時間という尺度にはいつも勝てずに君の懐に潜り込もうとすると時間が邪魔してしまう。太陽も月も無視したいんだけども・・・。
いつも居るはずなのに居ないというこの虚無感というか、淋しさは何と言っていのか分からない。高校生の明るさがヤケに羨ましかった。今日はどんなことをやっても気分が乗らない。初恋の様なもどかしさ、わずらわしさ、それでいて心のドコかで期待しているどうしようもない今日だ。
メールの文字よりも声が欲しい。それよりも隣に君が欲しい。
淋しさが過ぎ去った後に来るモノは?当然・・・安らぎ。 待ってるしかないんだね。あーつまんない!!!
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