春の足音が聞こえてくる季節になるといつも同じ恋の終わりを思い出してしまう。 その恋は桜が咲く頃に想い、桜と一緒に散ってしまった。そんな一瞬の出来事。片思いのようで、違ったりもした桜の季節の恋。 週末になるとどこかに連れ出して二人で歩いた。まるで恋人のように。自分の想いは隠しつつ。だましつつ。自分の気持ちに嘘を付いて。 互いに嫌いではなかったから週末にいつもの場所で待ち合わせてそれから色んな所へ出かけた。桜の景色がそこにはいつもあった。 それがいつしか恋へと変わっていくことを僕は知らなかった。想いを伝えることは出来なかった。春のイタズラな風に邪魔されて。 僕がそんな風に躊躇っている内に彼女は僕の元を離れてた。春の麗らかな風と共にサヨナラを言った。自分の勇気のなさにひどく後悔した。どうしようも無い感情が胸の中を動き回ってはグチャグチャにしていった。そして一人で涙を流した。桜が綺麗すぎるからという言い訳を作って。地面に落ちた桜の絨毯は僕をドコにも導いてはくれなかった。 2年後・・・。ふとを思いだした。ただの思い出として。微笑ましい思い出として。心に残るストーリーとして。 桜を眺めていた。左手の中に小さな手を握りしめながら。 『何考えてるの?』と、僕の方を見ないで桜を眺めながらそう言った。 『僕の過去のコト知りたい?』と聞いてみた。 『別にーーー!』といつもの口癖を言いながら意地悪そうな顔をした。 『ねえ、来年もその次もずっと一緒に桜を見に来ようよ』 『何をいきなり言ってるの?』 『離したくないから』 『うん』と小さく頷いた。瞳は僕をしっかり見つめて意志は強そうに見えた。 そしてしっかりと小さな左手を握りしめた。 桜が舞う季節になると決まって思い出すストーリーがある。少し幼いけれど、誰もが経験するような甘酸っぱいストーリー。勇気がないこと、伝えられないもどかしさがあること、恥ずかしさが勝って素直になれないこと・・・。やがて時が経ってその事を懐かしく思って微笑んだ時は桜の木の下で好きな人に話してみよう。 こんな話があるって。 いつまでも一緒にいられるオマジナイだと言って話してみよう。
2003年03月25日(火) |
朝はココアから始まる |
朝の光がカーテンの隙間から顔を出し部屋の一部分を射している。 テーブルの上にあるカップに入ったミネラルウォーターを照らして、光の波が踊っている。朝の訪れを待ちわびたかのように。 緩やかな朝の訪れと心地よい疲労感を背中に感じながらベッドから起き上がる。眠っている彼女を起こさないようにゆっくりと。夢の中にいる彼女の邪魔をしないように。 寝息を立てて静かに眠る彼女に『おはよう』代わりのキスをした。起こさないように。でも少し起きないかな?という期待も持ちつつ。静かにキスをした。おはようにはピッタリのキスを。 部屋には投げ捨てられた衣服たちがそこら中に散らばっている。少し昨晩の出来事を思い出させてくれる。久しぶりというコトだけでこんなにも二人が盛り上がれるものかと・・・まだ若い自分を嬉しく思いつつ。二人の衣服の中から僕の下着を見つけおもむろに履いた。 キッチンまでゆっくりとできるだけ足音は立てないように、彼女を起こさないように。それから煙草に火を点けた。目を瞑って煙を吐き出した。全身にニコチンが行き渡るのを感じて、その後全身の二酸化炭素を吐き出した。 朝の光は徐々にカップからベッドへと移っていた。彼女の顔を目掛け光は動いている様にも見える。まるでスナイパーがスコープを持って狙うように。ゆっくりと照準を合わして彼女の顔に押し寄せる。彼女は光を嫌がって寝返りをうつ。スナイパーは溜息をついた。そしてスコープから目を放しその場を去っていった。 煙草の火を消して、ユニットバスへ向かった。ぬるいではなく熱いシャワーを浴びるために。熱いシャワーから始まる一日は大好きだ。一日の始まりは熱いシャワーがイイ。それから白いシャツを着て出かける日は最高に機嫌がイイ。 昨日の出来事、熱い体、皮膚の感触、二人の躰のしなやかさ。重なる二人を思いだして、体を洗っていく、くまなく。汗なのか精液なのか分からない人間らしい臭いを洗いきる。リセットする。熱いシャワーは体の感覚を忘れさせてくれる程。0に戻してくれた。朝は熱いシャワーから始まる。 バスタオルを首に下げリビングに戻ると彼女はカーテンを全開にして窓の前で立っていた、下着だけを着て。光を浴びていた。その後ろ姿があまりにも綺麗で後ろから抱きしめたくなるほどに。太陽から放たれる全ての光を全身で吸収して息をしているようだ。あれほど嫌がっていた光を今は喜んで受け入れている。 『何をボォーと見てるの?』 振り返った彼女の躰、笑顔、その存在が完璧だった。あまりに完璧すぎて言葉さえ失ってしまった。この世に存在しているモノ全てから愛されてもおかしくない彼女・・・。僕は世界中から嫉妬されるのだろう。少し微笑んだ。 『何か飲むかい?』と慌てて聞いた。あまり、調子に乗っているといつ彼女に突っ込まれるか分からない。だから答えが分かっている質問をした。 『ココアちょーだい!』 いつもの調子で。 いつもの彼女で。 いつもの朝に。 部屋には春の匂いがくすぐっていた。二人とも不思議と笑顔になれた。 麗らかな風がカーテンを揺らしている。外へと誘うように。
2003年03月24日(月) |
グレートーンの世界で |
目覚めはいつも太陽の光を浴びて起きる。 何をやるでもない、おまけのような日の始まりだ。 こうして何年も同じ朝を迎えている。例え、雨の日でも少なくとも光は射してくる。 ここは私しか住んでいない。光と影が共に生きている場所、私の生活の場所でもあり、生涯最も愛する場所でもある。光と影の洞窟。 光は影があるからその存在が際立ち、影も光あるためにその存在感を増す。 光が射したら起き、影が迎えに来たら眠りにつく。 ただその繰り返し、ただその繰り返し。 ここで生きている意味など問わない。 光と影が共に生活するという意味しか存在しない。もし他の意味が存在するのならきっと死んだ後になって分かることだ。そんなこと今言っても仕方のないことで、それはそれで悲しくもあり、ココにいることを時に後悔する事もある。しかし、誰しも独りで寂しい生き物なのだ。だからと言って独りを望んだ訳でもないのだが・・・。 何も全てを捨てた訳では無い、光と影と生きていたいのだ。 そう、私は灰色の住人。光+影=灰色。グレートーンの景色。 例え遠い場所だとしても貴方とどこかで繋がっているように思います。
女性の目の前で泣くなんてしなかった。 いくら悲しい事実があろうと、クールを装い自分を崩すことを恐れた。 弱い自分なんてドコにもいないって決めつけて、いない『ふり』をしてた。 感情なんてドコにもなかった。 傷つかない方法を選ぶセコイ奴だった。 だったんだ。今までは。 優しくて、優しくて心の中に暖かいセーターを着ているような。 安心できる場所だ。安心できる言葉だった。安心して泣いた、君の前で。 溢れた。想いと同じように。素の自分がいた。 『どんなコトがあっても側にいるから』 優しくて暖かい言葉だった。 目の前にいる君は、困った顔などしないで、笑って僕をなぐさめた。 臆病な僕を。弱い僕を。君しか知らない僕を。 いくら流しても止まらなかった。 心が揺れていた。流した分が愛情へと変わることを祈った。 この想いや涙がいつまでも君の心の中に残ればイイと願った。 苦しかった、今まで。自分を偽り続けた過去。今まで愛した記憶すら意味の無いもので、傷付けあった傷跡さえも偽りのモノで。 過ぎ去った時を重ねて今、僕がココにいる。ありのままの自分が。 『どこで逢っても愛していたよ』今、君にこう言いたい。 そうしたら、次は君が泣く番だ。 この唇は涙拭くために。 この手は君の手を握るために。 この愛情は君の全てを包むため。 抱えきれない想いを君に乗せて。また君の前で涙してる。
白い部屋の白い壁を、全て黒くしたいと其奴は考えた。 太陽の光だけで生きていこうと思った。 それだけが其奴にとって必要なモノだった。 太陽と共に目覚め、 月と共に眠る。 先ず、煙草を取り出した。何年掛かるか分からないけど、 『ヤニ』で部屋を黒くしようと火をつけた。 けれど、いつしか其奴は気付いた。 これはキリがないと・・・。そして喉も痛かった。 遂に声が出なくなった。吸いすぎによる喉の酷使によって。 『ヤニ』で黒くするのは諦めてしまった。 手っ取り早く黒いペンキを買ってきた。 そして白い部屋にぶちまけた。其奴の人生のリセットのためと暗い過去と一緒に。 敢えて黒くしてみた。それが未来へ手がかりとなるに違いない!と其奴は強く思った。 全てが黒に染まった。 満足だった。全てが黒くなった時、彼は思わず拳を空に掲げた。黒い空に。 争いに勝利した勇者のような顔をして。 しかし、彼はすぐに外に出た。眩しくて、空に向け涙を流した。
2003年03月20日(木) |
止みそうにない雨の日 |
雨を見ていた、二人で。 雨を聴いていた、二人で。 道路にぶつかって奏でる音を。 空を見るとまだまだ止みそうになく不機嫌そうな色は、 青いペンキを僕1人が頑張って塗ってみようとした所でどうにもなりそうにない。 隣に座っている君の顔はカーテンに吊してあるテルテル坊主のような笑顔ではなく、やっぱり曇り気味だった。 雨が上がればいいのに・・・と心の中で呟いた。 きっと君も同じコトを思っているに違いない。言葉に出さないだけだ。 こんな雨の日には会話など無くても雨が会話をしてくれる。何時間でも相手をしてくれる。 と都合の良いことを言っているけど、本当は雨の日の君の機嫌といえば最悪なのだ。だから敢えて無理に会話はしない。 いつもの、雨の日と同じように今日も一日中、無口な君なんだろう。 それはそれでいい。雨が色んな音を奏でてくれる。BGM代わりには丁度イイ音量なのだ。 明日晴れたなら今日の分もおしゃべりをすればいいのだから。今日はゆっくりしておこう。 『喉が乾いたな』と言って立ち上がった瞬間、それを制して僕の腕を掴み君は唇を僕の頬に当てた。 笑顔だった。嬉しそうに。子供の顔をして。 それから二人の唇を絡めた。 雨を聴いていた、二人で。止みそうにない雨を。
電車の中や、ちょっとした休憩場所で、携帯を見ながら微笑んでいる人が好きだ。 と、言うよりも暖かい。暖かさを感じる。メールを打ちながら、或いは見ながら・・・。 恋人や友達を想い、どこかで繋がっている事を本当に大切に思っているのだろう。 そんな素の笑顔、その人の本当の笑顔を見られる事が暖かい。微笑ましい。 その人の人生の一部を垣間見れたような気がして、こっちまで幸せな気分になる。 穏やかで、幸せな笑顔。 特にこんな晴れた日には笑顔が似合う。
眺めてた、空に舞う風船を。 ゆっくりと空に舞いながら、誰の手にも届かない所へ。 誰かの手を離れて。 雲の隙間を抜けて、ただ悠然と舞っていく風船を。 太陽の光に透けて色そのモノが分からなくなって、風船の丸みだけが際だっている。 少し、淋しかった。誰かの泣き声が聞こえそうな気がしたから。
さっ!春に着替えようか? 待ちわびてたんだよ。 君を。 春を。 どこかに出かけよう!白いシャツに着替えて。 新しい気分で。柔らかい風に誘われてさ。 春になったよ!暖かい気持ちだ。 待ってたんだ。
伝えたいことは沢山あって、そのうちの10伝えることが出来ればいいのかなあって。 言葉ってすごく曖昧なモノで、けど重要で。 『伝えたい!』って感情があるからこうして書いているわけだから、伝えることに責任を持ちたいと。 もっと簡単に伝えることが出来たらイイのだろうけど、僕にとって一番これがいい方法だと。 言葉に出来ないモノって確かにあるんだ。想いや、感情はなかなか言葉になってはくれない。 その苦痛を知ってる。『伝えたい』けど伝わらないこのもどかしさ、煩わしさ。 頼っては裏切られ、期待してない所で浮かんできたりする。 只只難しいばかりで。 何を伝えようか?
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